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seventh  作者: 篠原リラ
第二章
15/19

バリー・フィーア

理沙はパソコンを閉じて、重い口を開く。


「バリー・フィーア神父……とても信心深く、紳士で物腰の穏やかな人だったわ」

「黒縁眼鏡にオールバックの?」

「ええ。あなたが会ったのは、おそらく彼で間違いないでしょう」


身なりを確認する映司の言葉に頷いて、彼女は続けた。


「自身を敬虔な神の下僕として疑わないような人だった。だからこそ、優秀なヴァンパイアハンターとして……『セブンス』に名を連ねていたわ」


セブンス。

全部で六つある学園の専門分野において、それぞれを極めた人物に付与される称号だ。

討伐者を目指す者も、討伐者自身も、誰もが尊敬と畏怖を込めて、彼らをそう呼んでいる。

やはり、と映司は胸中でつぶやいた。

あの時感じた彼の力は、並大抵の物ではない。


「けれど、ある日……フィーア神父は失踪してしまった。様々な憶測が飛び交ったけれど、結局今も答えは出ないままなの」


理沙はそう言って俯く。

しかし、それが腑に落ちないのは映司だけではなかった。


「でも、それならどうして仁科さんは喜んでないの?」


いつもと同じ口調のまま、ただし眼光だけは鋭く彩芽が問う。

しばらく黙ったあと、渋々といった様子で理沙は答えた。


「理由があるからよ。できれば、会いたくなかった理由が」

「なんだよそれ」

「今は、言えない」


直にきっぱりと告げる。本当にそれ以上は何も語るつもりがないようだ。


「どうして?」

「わたしひとりの問題じゃないから。少なくとも、学長には許可を取らないと」

「でもその学長から、きちんと協力要請を受けたんだけど」

「フィーア神父が今回の件にどこまで関わっているのかが明瞭になっていない以上、わたしは何も話せないわ」


食い下がる彩芽にも揺らぐことなく彼女は言う。


「もし、何かしら関係しているとしたら?」

「その証拠を持ってきてちょうだい」

「……わかった」


頷いて、映司は答えた。何が証拠になるのか、今はまったくわからないが、それでも口約束だけでもしておいた方が得策だ。


「でも、フィーア神父について何かわかったら教えてもらえる?それによってはこっちも動けると思うから」


そう付け加えた理沙に、彼女の心情が見えた気がした。

必ず、と約束すると頷く。それから微かに笑って、


「無理ばかり言ってごめんね。代わりに、どうにか便宜をはかってもらうわ。三人とも、気をつけてね」


順に顔を見回しながら言った。

何となく流れる神妙な空気に、誰ともなく息を吐く。

そして理沙が立ち上がり、パソコンを手に部屋を辞すると、その背中が閉まるドアの向こうへ消えると同時に直がその場に寝転んだ。


「どうするよ?」


天井を眺め、ぽつりとつぶやく。


「どうするもこうするも」

「元『セブンス』とコトを構えるつもりか?」


彩芽の声にそう返すと、映司が少し驚いた表情をしたのがわかった。


「仁科さんのあの言い方だとなぁ……失踪した時になんかやらかしてるとしか思えねぇよ」

「同感だ。何らかの原因で、『セブンス』の称号も剥奪されていると考えていいだろう」


直と映司の会話に、彩芽が小さく頷く。

まだ、フィーア神父が望月とカミラの件に関係しているかどうかは定かではない。だが、その可能性は限りなく高いというのが二人の見解だった。


「何かをやらかして失踪した人間が、わざわざ学園を通りすがる訳がない。あの人は何か理由があってあそこにいたんだろう」

「やっぱ、もっかい行かなきゃダメだよなぁ……あの教会」


はあ、と直はため息をつく。

神主の家系である彼にとって、対吸血鬼など畑違いもいいところだ。

それでも、ここで引き返すことはできそうにない。それが、直の覚悟だった。


「今度は準備を入念にする」


だから、そう言う映司に頷く。仕方ないからではなく自分の意思で、直は黙って頷いた。


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