僅かな共通点
生年月日、出身地、年齢、身長、体重……そういった彼の記録が、順に公開されていく。
何とはなしに、気まずいような気がした。他人のプライベートを覗き見しているからに他ならない。
「本当は見せちゃいけないんだけど、学長の許可は取ってあるから。気にしない方がいいわよ」
見透かしたように理沙は言った。曖昧に頷いて、三人は画面を見る。
斜宮学園の受験を志望した理由に、昔討伐者に助けてもらったことがあるから、と記入されているのが目に入った。
「これは……」
「よくある憧れってやつじゃね?」
映司がつぶやく。こともなげに直は言うが、何故だか妙に気になった。
というよりは、ふと思い出した。
「仁科さん、バリー・フィーアって名前のヴァンパイアハンターを知ってますか?」
その名前を口にした瞬間、理沙の表情が変わる。
「……その名前をどこで聞いたの?」
「あの……助けてもらったんです。この、望月の件で。カミラというヴァンパイアに襲われているところを」
「そう……そうなの」
彼女はそれきり、何か考え込むように黙ってしまった。
仕方なしに、彩芽が横からパソコンの画面をスクロールしていく。
「他には何も変わったところはなさそうだね」
「そうだな……家系も普通、討伐者の血縁はなし。特に狙われる必然性もないってことか」
ちらと映司を見ると、こちら何やら考えているのか画面を見つめたまま固まっていた。
直と顔を見合わせる。それから小さくため息をついて、彩芽はパソコンを閉じようとした。
「ちょっと待ってくれ」
考えが纏まったらしい映司が、それを止める。それから理沙の方を向いて、問いかけた。
「あの、岳村のも見せてもらってもいいですか?」
「え?あ、ごめんなさい、聞いてなかった」
自らの思考から唐突に引き戻された彼女は、焦ったように言う。苦笑して、映司は同じことを聞いた。
少し悩んでから、理沙は頷く。何か思うところがあるようだった。
彼女がまたパソコンをいじると、すぐに岳村の顔写真つきで、似たような記録が現れる。
同じように生年月日やら身長、体重。それらの記載を流し読みして、映司は気になった箇所へ辿り着いた。
「……あれ?」
映司と共に画面を目で追っていた彩芽が、不思議そうに首を傾げる。
「何だ?志望動機……?子どものころ、とある討伐者に助けられたため……って、え?」
彩芽の視線の先を読んだ直が、その動きを止めた。
いささか固い動きで映司を見る。彼は小さく頷いた。
「これだけじゃ何とも言えない。偶然の一致と言われればそれまでだ。ただ、俺は……少し、気になる」
「他の生徒も調べてみる?例えば、サロンで僕が最初に話してた人とか」
「いや」
短く答え、理沙に目をやる。
彼女は諦めたように微笑を浮かべ、彼を見返した。
「確か、国内の『人ならざるもの』の討伐記録は、すべて学園にあるはずですよね」
「そうね」
「そして、すべての討伐者のデータも学園にあるはずですね」
「……そうね」
「すみません。もう一度、同じことを聞きます。バリー・フィーアというヴァンパイアハンターを知りませんか?」
やはり、と思いながら理沙は息を吐く。
映司の視線を正面から受け止めながら、ここではぐらかすのは無理だと悟った。
彼の考えを証明できる証拠は十分ではないにせよ、恐らくそれは正しいからだ。それに何より、映司の双眸はそれを許してくれそうになかった。