男子寮のサロンにて
カフェテリアでこれからの方針を話し合った結果、学園内の人間にまず聞き込みをしてみることになった。
望月がなぜカミラの所へ通うようになったのか、他に被害者はいないのか。周囲から探ってみないかと直が提案したためである。
その他にも、映司はあの時会ったバリー・フィーアという名のヴァンパイアハンターのことが気になっていた。こちらも誰か知っている人はいないか、聞いて回ってみるつもりだ。
「そういうことなら、わたしも協力させてもらうわ」
真剣な顔で、理沙は答える。
まずは男子寮にいる生徒たちから話を聞きたいと、管理者の立場である彼女に相談した。最初は渋い表情を隠しもしなかった理沙だったが、学長の要請だと打ち明けると、快く了承してくれた。
「ただ、皆がちゃんと話してくれるかどうかはわからないわよ?」
「それは解ってます。それで、仁科さんは何か気づいたことはなかったですか?」
「そうねぇ……」
彩芽の問いかけに、彼女は上を向いて考える。人気のないサロンに、しんとした空気が落ちた。
やがて理沙は小さく首を振る。
「だめ、わからないわ。わたしはここの管理者だけど、普段は女子寮にいるの。だから、望月くんのこともよく知らないわ」
「そう、ですよね……」
当然と言えば当然の答えだ。
落胆した様子の直に、彼女はごめんなさいね、と声をかけた。
「代わりと言ってはなんだけど、彼の家系や入学の動機なんかは調べられると思うわ。少し時間がかかるけれど」
「お願いします」
今はとにかく、何らかの手がかりが欲しい。一も二もなく頷いて、理沙に望月のことを調べてもらうよう、映司は依頼することにした。
「それじゃ、わたしは行くわね。この後ここで何人か集まる予定があるみたいだから、少し話を聞いてみたら?」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
サロンを出て行く後ろ姿に一礼する。
その数分後、徐々に生徒たちが集まり始めた。理沙の言うとおりだ。
しばらくはそのまま様子を伺う。様々な人間のリアクションを観察していると、妙にびくびくしている生徒が何人かいることに気づいた。
挙動不審と言っても差し支えないほど周りを見回しては、ちょっとした物音に体を震わせている。
「変だよねぇ」
直と映司だけに聞こえるよう声を潜めて、彩芽はつぶやいた。
「学長の配慮で、何も話は出てないはず。皆にしてみれば、同級生がひとり授業を休んだっていうだけなのに」
「……でも、関係あるかどうかはわからないな」
「聞いてみる価値はあるんじゃね?」
三人だけで話していたって埒があかない。
意を決し、こういうことは任せて、と彩芽が席を立った。
「こんにちは」
「へ?え?あ、えっと、こんにちは」
突然の挨拶に、声をかけられた方の生徒は目を丸くする。
そんなことにはおかまいなしに、彩芽は愛想のいい笑顔を浮かべて話しかけた。
「大丈夫?」
「は?」
「顔色が悪く見えたから。お節介だなとは思ったんだけど、気になって」
確かに、彼の顔色は良くない。
しかしそれはパッと見ただけでは気づかない程度の、些細なことだった。
案の定、言われた方は首を横に振る。