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seventh  作者: 篠原リラ
第一章
10/19

協力要請

重苦しい雰囲気が、部屋を支配している。

深くため息をついて、目の前の人物は立ち上がった。


「とりあえず、君たちが無事でよかった」


肩に置かれた手が熱い。

一ヶ月前、壇上で語っていた姿とはまた違う学長の様子に、映司は少し驚いてその顔を見上げた。

横では、直が俯いている。その隣の彩芽の表情は見えない。


「カミラ……と言ったか。吸血鬼に間違いないか?」

「……はい」


何故自分に聞くのか、そんな疑問を差し挟む余地もなかった。映司は素直に頷く。

わかった、と学長は答えた。


「その吸血鬼の件はこちらで責任を持って調べよう」

「……よろしくお願いします」

「ときに、芳川映司?」


名前を呼ぶその瞬間、眼光が鋭くなる。

何を言われるのかと身を固くする彼に、学長は告げた。


「君には、引き続き協力を頼みたい」


予想外の言葉に目を丸くする。そんな映司に構わず、彼は続けた。


「君は優秀なヴァンパイアハンターの家系と聞いている。今、学園内のヴァンパイアハンターは少数しかいなくてね。正直、手が回らない。事情も敵も被害者も解っている君が、調査に協力してくれるのなら助かるんだが」

「あの……俺は、あの森でハンターらしき人と会いました。あの人は……」


言い淀む映司に、学長は首を横に振る。


「バリー・フィーアと言ったか……その名のヴァンパイアハンターは学園に登録されていない。まったくのフリーのハンターか、そうでなければ吸血鬼の仲間と思われる」

「……ですが、彼は俺を助けてくれました」

「それは何の理由にもならない」


冷たく言い放ち、有無を言わせぬ口調で続けた。


「協力してもらえるね?」

「…………はい」

「よかった。調査の裁量は君に任せる。くれぐれも気をつけて」


そう付け足すと、再び席に戻る。それはつまり、もう聞くことも話すこともないという意思の現れでもあった。

三人はほぼ同時に一礼して、部屋を後にする。

言葉少なに二階のカフェテリアに移動すると、適当なテーブルについた。相変わらず、直は俯いたままだ。


「……直、大丈夫?」


彩芽が心配そうに声をかける。反応は薄い。

気を効かせて映司が飲み物を取りに行った。その間もやはり俯いたままの直に、正面にしゃがみ込んでその顔を覗き込む。


「……俺は……」


苦しげに、ぽつりと声を漏らした。


「なんで、俺……もっと早く気づかなかったんだろう……そうじゃなくても、映司の言う通り、先生に相談すりゃよかった…そしたら、望月は助かったかもしれないのに」


ほとんど独り言のように吐き出す。


「直、落ち着いて」

「別にそんなに仲良かったわけじゃないけど、それでも、同室で……あいつのこと、変だってわかってたのに」


彩芽は息を大きく吸うと、震える直の両手をぎゅっと掴んだ。

そして静かに首を横に振る。


「直のせいじゃない。不幸な事故だった、それだけのことだよ」

「でも……」

「だったら、俺に協力しないか?」


ちょうどそこで、飲み物を手に戻ってきた映司が口を挟んだ。驚いて顔を上げる直の、隈が浮いた瞳を見返して彼は言う。


「学長に頼まれた以上、やるだけのことはやってみようと思う。けど、俺一人じゃ無理だ。手伝ってくれないか」

「だけど俺、吸血鬼はまるっきり専門外だし、お前みたいに詳しくないし……」

「そんなの関係ないよ」


歯切れ悪く答える直とは対称的に、きっぱりと彩芽は言った。


「大事なのは、自分がどうしたいかじゃない?」

「自分が……」

「僕も手伝っていいでしょ?」

「もちろんだが……気をつけろよ」


矢継ぎ早に決める二人に、少し焦りがなかったと言えば嘘になる。

けれど、直の中には確固たる意思が生まれつつあった。

後悔だけを続けるぐらいなら、望月のために自分ができることをしたい。


「俺も……」

「もちろん」


何を言うかは解っていたのだろう、二人は同時に答えて微笑んだ。




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