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プロローグ 掃除してただけなのに、なぜか異世界へ

「いらっしゃいませ~」

お城へと続く道の途中で客引きの声が飛び交う。

私はこのアラステリア、カンバ地区でお店を開いている20歳の大学生だ。まぁ、もちろんこの世界に大学なんてないんだけど。じゃあ、なんで大学生なんていってるかって?それは地球だと大学生を実際に生業としているからだ。

まるでここは地球じゃないような言い方をしていると感じるだろう。もちろんここは地球ではない。多分この世界に地球人は私くらいなものだろう。

ここの地へきて早2年。最初は本当にどうしていいか分からなかったけど、なんとかお店を開けるようにまで成長できたのだ。その店の名を"異世界店舗"という。


私がアラステリアにいる理由。それは2年前へと遡る。


2年前……、2130年のある秋の日。

私は母さんに納戸の掃除を頼まれて黙々と作業していた。使わなくなったものを処分せずにどんどん溜めていってしまうために納戸なのかごみ溜め場所なのか既に分からなくなっていたのだ。

古ぼけた木のタンスや大小様々な大きさの花瓶、動かなくなった大きな振り子付きの時計。まるで歌に出てきそう。

「もう、これもいらないだろうに」

納戸の奥からは昔の思い出の品々が色々と出てくる。見つけたものは小さいころ使っていた椅子だ。しかし有名キャラクターがついているのと子ども用の大きさということもあり使えるようなものではなかった。きっと母さんが捨てられずにここにしまったのだろう。他にもウサギやくまのぬいぐるみやおままごとセットなど、色々と仕舞われていた。

「姿見じゃん。これは使えるんじゃないかなぁ……」

その姿見は納戸の一番奥に立てかけてあった。高さは160㎝くらいあるだろうか。周りの枠は淡いピンクっぽく見えるが埃をかぶって汚れていた。綺麗にすれば使えそうだ。

「よしっ、とりあえずこれを出すか」

埃を取り除こうとするが、少しはたいただけでも埃が舞い、思わず咳き込む。かなりの汚れがついていそう。バケツと雑巾が必要らしい。

その時、一瞬鏡が光った気がした。ここの納戸には光が入るような大きな窓はついていない。小窓は付いているが、隣合う家の壁が間近にあるため鏡へ光が届くわけがないのに。変だなぁ、と思いつつ運び出そうとした次の瞬間。鏡がすごい勢いで輝きだした。

「なにこれ、眩しっ!」

思わず目を瞑る。


ゆっくり目を開けると目の前には1匹の子犬がいた。スーツのデザインの洋服をきている。

「わっ、可愛い~」

犬好きな私は頭をなでようとした。しかし、ピシッと払われる。

『おい、お前。気安く触るな』

「しゃ、しゃべった……!」

『犬が話すのは当たり前だろう。何をそんなに驚いている?』

話すのが当然のようにいうので私は返答に困ってしまった。

『まったく……。転移場所が指定とだいぶずれているじゃないか。お前は転移魔法が苦手なのか?』

「転移魔法……って、なに?」

魔法なんて使えるわけないのに、何を言ってるんだろうか。

『魔法を知らないのか? じゃあ、どうやってここに……っと、時間か。この話は後だ。とにかく行くぞ。お前、カオリ・サクラダだな』

「うん、そうだけど。というか行くってどこへ?」

『国王のところへ決まっているだろう。グズグズするな。置いていくぞ』

そこで私は気付く。いや今更かもしれないが。

ここ、どこだ? 私は今まで納戸にいたはずだ。それが今はテレビでしか見たことないようなお城と大きなお庭が目の前に広がっている。お庭の先には大きな門。さらにその奥には青空市場と言わん限りにお店が所狭しと並び、賑わっている。空には色とりどりの象が飛んでいる。

『カオリ』

私はさっきまで納戸で掃除をしていて、そしたら姿見を見つけて……。そうよ。光るはずのない姿見が光ってそしたらここにいたんだ。

『おい、カオリ』

それに疑問の要素はまだあるじゃない。象が空を飛んだり、犬が話せるはずがない。……ってことは夢? だったら頬をつねってみるか。

私は頬をつねってみた。思いっきりと。うん、痛い。

『お前、何してるんだ?』

子犬はあきれた目をして私を見ていた。

「犬が話すなんて最早、夢の世界かと思って……」

『まったく、何を寝ぼけたことを。あと、もう一度言う。置いていくぞ』

「ちょっ、ちょっと待ってよ」

子犬はどんどんとお城の方へ向かって歩いていく。後ろを振り返るとやはり大きな門。両サイドには見たことのないような綺麗な花が咲いていて、彫刻などの造形物も展示されている。まるでおとぎ話の世界だった。

「ところで、子犬さん。お名前はあるの?」

『名前か? ジョセフ・ラ・コンシェルだ』

自分の名前に誇りを持っているかのように鼻高々に名前を教えてくれた。

ずいぶんオシャレな名前だこと。どこぞの貴族みたい。

「じゃあ、ジョセフって呼ぶわね」

『馴れ馴れしいぞ。俺を誰と心得る。貴族階級第3位、コンシェル家の継承権1位、ジョセフ・ラ・コンシェルだぞ』

オシャレな名前だと思ったらやはりお貴族様らしい。

「ふーん。よく分からないけど、とりあえずわりと偉いってことは分かった!」

『なっ…! よく分からないだと……! お前は世間知らずなのか?』

「そっちこそ何も知らないか弱い乙女に向かって世間知らずとは酷くない?」

この人、話が通じない。いや、人じゃなくて犬だけど。

「とりあえず、質問させて」

『……なんだ?』

「ここはどこなの?」

質問をすると大きなため息をつかれたが、教えてくれた。

『ここはアラステリアという場所だ。ここの城はその国王であるミッシェル様が住んでいらっしゃる』

アラステリア。聞いたことのない名前だ。外国にそんな地名があっただろうか。

「アラステリアってどの地域周辺をさすの?」

アジアでは聞いたことないからヨーロッパかアメリカの方だろうか。響き的にはヨーロッパ方面と予想してみる。状況が全く読み込めていないが、地名からして日本ではないのは明らかだった。たった数秒で国境を越えられるとはちょっと考えにくくはあるんだけど。

『アラステリアの位置か? チメモリア地方の西側に位置しているが』

チメモリアなんて地方名は初めて聞いたぞ。

「じゃあ、どちらにしろここは日本じゃないのね?」

私がそう質問をするとキョトンとした顔をされた。

『ニホン、とはなんだ? 何かの本数か?』

「二本じゃなくて日本! 数じゃなくて地名だよっ。地球の極東っていったら分かる?」

世界地図で見ると日本は極東にあたるのでジョセフにもそう説明をする。これで分かるはずだ。

チキュウ……。ジョセフはそう呟いたと思ったら黙り込んでしまった。

「どうしたのよ。いきなり黙り込んで」

『カオリ。今度は俺が質問していいか?』

「な、なによ……?」

『チキュウ、とは何だ? 何かの珍味の名前か?』

俺には聞き覚えのない単語だ、と断言された。

私は思わず頭を抱える。なんてことだ。ここは日本どころか地球ですらないなんて。

『さきほどからなんだか様子がおかしいな。お前は犬の俺が話すことに驚き、自分の今いる場所も把握していない。挙句の果てに俺の知らない単語を話すと来た。カオリ、お前はこの国の事情をどこまで知っているんだ?』

「知っていることなんて何一つないわよ。私は家の納戸掃除をしていただけ。使える姿見があると思って運びだそうとしたのよ。そうしたら、鏡がいきなり光って気が付いたらここにいたんだから。それよりもここは本当にどこなの? 地球じゃないってどういうことなの?」

『だから、そのチキュウとはなんなんだ?』

ジョセフは少し怒り気味だ。いや混乱気味なのかもしれない。後者なら私だって同じだ。

「地球は地球よ。世界の名前。それ以外に説明のしようがない」

『この世界の名前ならユーリシアだろう。しかし……、駄目だ。お前と話をしていても埒があかない。とにかくまずは国王のところへ行くぞ。詳しい話はその後だ』

それにしても国王はなぜこいつをご指名なさったのだろうか。そうつぶやきながらジョセフはお城へと足早にかけていく私はジョセフを追いかけるようについて行く。

国王に会えば何か分かるかもしれない。どういう意図で国王が私を指名したのかは分からない。けれども国王の指名と鏡の輝きとは無関係じゃないような気がする。大きなお城を目の前に私は漠然とそんな風に考えた。

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