初(?)対面
ったく、親父は何考えてるんだか…。
俺は早朝の商店街を歩いている。探偵を迎えにいくために。
何が校内調査のための探偵だ、しかも俺より年下。あてになるはずがない。
「ふぁーあ……」
眠い…時間はまだ7時、いくら何でも迎えに行くのは早すぎるような気がするが親父の事情で駆り出されてしまった。
何で俺なんだよ、車でもタクシーでも使えるんだから親父が行けよ…。
紙切れに書かれた住所を頼りに歩くこと5分、見覚えがある場所に到着。
3階建てのビルの2階の窓ガラスには『江南探偵事務所』…とでかでかと書いてある。
昨日見ていた縦長の看板が目に入る。
……間違いない、ここは
「あっ」
昨日と同じ、右隅にある階段から顔を出すあの女…。
「げっ…痴女じゃん…」
「何を失礼な…昨日の私はただの寝巻きスタイル、今日はきちんとした格好しています」
きちんとした格好って…。
深緑色の髪を綺麗に両サイドで団子に結い余った髪をツインテール風に垂らしていて服装は上が赤い首回りのあるチャイナ服に下がスカートっていう…。
かなりおかしい、てか阿呆みたいな格好だ。
…ん?
まてじゃあこの住所が江南事務所のってことはまさか……
「お前が江南 恋円?」
「…私の名前を知っていてこんな朝早くに来るってことは君が三上遊弦さん?まさかのすでに顔見知りでしたね」
まじかー…こいつと並んで歩くのかよ……。
…あっ、制服着させればいっか。
「おい痴女、この制服を着てこい」
「恋円ですよ、遊弦くん」
「あー…恋円ね、はいはい。てか俺はお前より先輩だぞ。遊弦さんと呼べ」
「むむ…それもそうですよね、遊弦くん先輩。あと制服は着ません、なんか安仲の制服ピッチリ系なんだもん」
こいつ…ひねくれてやがる。
「馬鹿か、無理に決まってんだろ」
てかヤバいぞ、格好だけではなく頭も阿呆みたいだ…。まぁそうだよな、高校いってないんだよなこいつ。
「そんな格好じゃ俺も歩きたくないし第一《親父》への印象も悪くなるぞ」
そう言うと痴女…否、恋円は眉間にシワをよせすげー嫌そうな顔をしたがそう言われればするしかないと思ったんだろう渋々俺が前に突き出した紙袋を受け取った。
「じゃあ…着替えて来ますんで」
「おぉ、あと髪型も無難なのにしとけ。《親父》は真面目だからな」
「……ちっ」
不服だという目を向けてはくるがそのまま黙って階段を上がっていった。
あいつ性格ぜってーわりいな。
それから10分、まだ恋円が出てくる気配はない。
「あ゛ー…煙草吸いてぇ」
だが吸いようがない、誰に見られているか分からないし親父にこの前こっぴどく怒られたばかりだ。自重しなくては…。
その時頭上で窓が開く音がして頭に何かぶつかった。
「いって…、っんだよ。……ってあれ?煙草じゃん」
煙草が落ちてきた方に目を向けるとストレートの髪をおろした恋円が窓に肘をつき俺を眺めていた。
「たんとお吸い、私の好みのでよければ」
…あいつも吸ってんのか、何か気に食わん。
煙草に目をやると薄い黄色のパッケージに『わかば』と書いてある。
「お前はじじいか」
「辛いから好きなの」
…まじ、じじいじゃん。
吸いたい気持ちしかなかったがこれから親父に会わなくてはいけないので止めておこう。
「吸わないんですかー?」
なーんだ、つまんないと後付けされイラっときたが我慢。
「早く出てこい、立ってんの疲れた」
「遊弦くん先輩はワガママですね~、さすが理事長の息子」
このやろ~…こんな態度よっぽどのことなければやんねーよ。
はぁ、疲れる…
恋円は軽く返事をして窓側から消えたが入れ替わるように可愛い女の子が顔を覗かせた。
恋円の妹かと思ったが髪や目の色が明らかに違う。
その子は俺を見た瞬間整った顔立ちは歪み不機嫌そうな声で
「ちっ、男かよ……」
と、低い声で毒を吐き姿を消した。
嫌われたみたいだが原因が分からないのでほっとく。
「おまたせしました~」
階段から声がし、やっと降りてきた恋円は窮屈そうな顔をして
「制服がきついです」
とぼやいた。
「しょうがないだろ、ラインがでる服なんだから」
「いやそうじゃなくて胸ですよ胸」
恥じらいもなく本当に嫌な顔で胸に指をさす。
男としてどうかとも思うが素直に相手が指さした胸を見る。
「胸が着痩せするタイプなのか?」
チャイナ服を着ていた時とのギャップがかなり大きく顔には出さないが驚いた。
童顔のくせにでかい。
「まあ割りと。触りますか」
「いや遠慮する」
触ったら俺は色々ヤバい人になりそうだ。
「そうですか?そういえば胸と言えば私の思い出話し聞いてくださいよー」
「何」
「私中学の時男子に後ろから思い切り胸揉まれて椅子で殴って半殺しにしてしまったんです~」
黒い、笑みがとても黒い…。
でもここにいるってことは相手は死んではいなかったんだな。
あー、だからあんまりラインが出る服着たくなかったのか。
無邪気に語ってはいるがトラウマはトラウマなんだろう。
「……しゃーない、でかいサイズ頼んどいてやるよ」
俺の意外な親切に驚いたのか目を見開いたがそれも一瞬、すぐに今までの気だるそうな顔に戻り強がりなのか「大丈夫ですよ」と一言。
そして腕時計を見て顔を曇らせ
「すみません。私がぐだぐだしてたせいなんですけど時間、間に合いますかね?」
「え?あ゛!?やべー…走るぞ恋円!!」
恋円の有無を聞く前に小さな手を掴み全速力で走る。
何だかんだ楽しくやっていけそうだと思いながら。