事務所内
「おっはよー、恋円ちゃんっ!今日も可愛くて困っちゃう!!!」
「おはよう円さん、はい新聞。私は読み終わったから」
あの後まともな格好に着替え、事務所内の掃除を終えた私は優雅にコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。
そこへ私の父である江南 円が騒々しく出勤。
「恋円ったら酷いなー…お父さんのことは《パパ》って呼んでっていつも言ってるじゃん!!」
「……あぁ、はいはいパパパパパパ。今日もお仕事頑張ってください」
「うぅ…恋円が冷たいよー、これが思春期ってやつなのかな和実さん…」
和実とは死んだ母の名前、私がちょっとでも冷たい態度をとると母の写真を手に泣き始める。父は好きなのだが…この女々しさがなにかとウザったらしく距離を置いてしまい今に至る。
和実さんごめんなさい、本当に嫌いではないから許してね。
なんて見えない相手に許しを乞う。
「あ、円さん有雛また遅刻?」
「だからパパって……はぁ…有雛ちゃんはいつもの通り遅刻なんじゃな「セーフッ!」
「「………………」」
…まったくもってセーフではないと思うけど、いつもに比べればきっとセーフなんだろう。
「おはよう有雛」
「おはようございます恋円姐さん、円社長!」
ロリータ?服とでもいうんだろうか、可愛らしくフリルがたくさんついた服を飽きもせず毎日のように着てくる有雛はこの事務所で最年少の14歳。
人間とは年齢に関わらず教えれば出来てしまうもので私が教えられる範囲内の中学3年間の内容をほぼ終了させてしまった。
最初は普通に学校に行くことを進めたが有雛は頑なに拒否、理由は私服じゃないかららしいが多分嘘だろう。
だけど必要に詮索はしない、学校に行きたくない理由なんて仕事に支障がない限り聞かなくてもいい。
「恋円姐さんっ!」
「うん?」
「これ、昨日来た依頼主が提示した見積書です」
「あぁ、ありがとう。あれ…この人って安仲の理事長じゃん、こんなお偉いさんがどうしたの?」
三上 尋人、職業・学校経営、依頼内容・学校内調査。
「学校内調査~?」
「なんか安仲学園で自殺があったらしくてその原因がイジメらしいんですー。でイジメ調査したかったらしいんですけど……」
「けど?」
「イジメってあれじゃないですか、大人が介入したところでみんな嘘吐くしイジメの主犯や実態なんてほとんど分からないじゃないですか……」
「だからうちの若い子に学園に入ってこっそり調査してほしいとのことだよ」
父が途中から会話に入り込む。…まぁ、分からなくはないけど。それより問題は
「その調査って有雛がいくんでしょ?」
「えっ、僕は嫌ですよー!学校なんてもう懲り懲りです!」
「じゃあ誰が」
「もちろん恋円姐さんでしょ」
「この依頼断りましょう、円さん土下座してきて下さい」
「えぇ、パパが!?」
今さら学校なんて行きたくない、あんな魔の巣窟てか集団意識の強い連中と一緒にまた過ごすなんて…考えただけで悪寒が……。
「くっそ、この馬鹿有雛。いくらで契約したんだ」
「ねっ、姐さん…口が悪いよ……。さっき渡した紙に書いてありますよ…」
さっきの紙…?あぁ、これか。
自分の手に持ってある紙を見る。
………これは…なんてこった。
弱小事務所が断っていい
値段ではないじゃないか…。
うぅ…行くしかないのかあの悪の住みかに……っ!?
「恋円…そんなに嫌ならパパ頑張って断るよ?」
「…いえ、行きます。これだけの金額なら当分は仕事が無くても3人で暮らしていけるし」
いざとなったら適当に言い訳してしまえばいい。
「そうとなれば用意しなければ!明日には迎えが来てくれるらしいんで!制服も今日頼めば明日には渡せるって」
早くない…?
てか、有雛絶対楽しんでる。
結局私は安仲学園に通うことになりこれから面倒臭そうなことに巻き込まれるのは簡単に予想できた。