第6話
「俺が君を好きなことは理解できた?」
「う、うん……それは何となく」
自分ながら酷い言葉だなと思った。
でも、どうして私を好きになったのかわからない。
好きになってもらえるような出来事もなかったはず。
私は彼を意識的に避けていたのだから。
だから、何となくしか理解できなかった。
「川崎さん」
「は、はい」
「由奈って呼んでもいいかな。ダメ?」
可愛い名前だよね、と付け加える。
そんなことは言われ慣れてないから、思わず顔が赤くなってしまった。
「可愛い」
「み、見ないで」
「どうして? やっとここまで近づけたのに」
彼の手が髪に触れる。
振り払わずにいると、嬉しそうに目を細めた。
何がそんなに嬉しいのだろうか。
それがわからなくて、私も手を伸ばした。
彼は少し驚いたような顔をしたけれど、それを振り払ったり避けたりすることはなかった。
されるがまま、受け入れるというように、目を閉じる。
その頬に触れると、ほんのりと温かかった。
「嬉しいな」
「え?」
「抱きしめていい?」
持っていた鞄が落ちる音が聞こえた。
返事をする間もなく、その両腕に捕らわれる。
嫌だとは思わなかった。
それが、ちょっとだけ不思議だった。
「逃げないんだね」
ほっとしたように彼が言う。
首にかかる息がくすぐったい。
でも突き放すことはなかった。
空になった手を彼の背中に回す。
触れるか触れないかの微妙なそれを、彼はしっかり感じたようで。
「嬉しいことばっかりしてくれるね」
「嬉しい?」
「うん。由奈が俺を見つけてくれたから」
ずっと私を探していたらしい。
それがいつからかわからないけれど。
私が彼を知ったのは高校でだから、きっとここ一年のことなのだろう。
「中学の頃から探してたから」
「えぇっ」
やっぱり覚えてないのか、と言った彼はそれでもなんだか嬉しそうだった。