第5話
敢えて今日を選んだと言っても過言ではない。
美術部の活動は週三回。
今日はその三回に入らない日だった。
誰もいないことを知って、そこへ向かう。
会いたくない気持ちが大きかったのだろう。
誰も会わないから、この日を選んだ。
そのはずだったのに。
「こんにちは。待ってたよ、川崎さん」
誰もいないはずの美術室には、私も見たことがある人の姿があった。
彼の名前は、宇都木春馬。
二つ離れたクラスの人だが、その噂は私のクラスまで届いていた。
少し大人びた表情を浮かべる姿は思わず見惚れてしまうほど整っている。
私が近づくような人ではない。
そう思って今の今までしっかりと見たことはなかったけれど。
「川崎さん?」
向こうは私のことを知っていたようだ。
はっと気づいたときには、目の前まで近づいていた。
「なんで……」
「それは何のなんで?」
からかうような笑みを浮かべて、彼は首を傾げた。
何の、なんてたくさんある。
どうして私を知っているのか。
どうして私の名前を知っているのか。
どうして、今日ここにいるのか。
あと、あのメッセージは誰に向けたものなのか。
「そりゃ川崎さんが好きだから」
「え、あ、あの」
「もちろん、これも君宛だよ」
彼の手にはあのノートが握られていた。
それを私の目の前でちらつかせながら、とても楽しそうに笑う。
そして、とても嬉しそうに。
どうしてなのかは考えたくなかった。
考えても到底理解できそうにもない。
……って、私、何かを忘れているような気がする。
とても重要なことを。
「とっても鈍感なのは知ってたけど」
「え?」
「告白をスルーされるのは結構堪えるな。意外と」
そう、告白されたのだ。
思い切りスルーしてしまったけれど、初めて告白された。
初めてということは、この後どうすればいいのかもわからなくて。
「まぁ、こうなることは予想してたけどね」
頬を引きつらせながら苦々しい笑みを浮かべた彼に、ほんの少し申し訳なくなった。