第4話
翌週、黒板に書かれた座席表を頼りに新しい席に着いた。
前の席から大分離れて、今度は廊下側の席。
もうあのノートを見ることもない、そう思っていた。
それもすぐに打ち砕かれる。
「な、な、なんで……」
新しい席の机からほんの少し見えるのは、見覚えのあるノート。
あるはずのないそれに、思わず身震いをしてしまった。
──放課後、ここで。
一段と短いメッセージは、これまた一段と意味がわからない内容だった。
いや、言いたいことはわかる。
でもそれをなぜ、私に……。
「そっか……私、宛じゃないんだ」
どうしてまた私の席にあったのかはわからないけれど。
最初から私じゃない誰かに宛てたものだったのだ。
……偶然が重なっただけ。
これは私へのメッセージではない。
私はそれに対する返事を書かなかった。
もう終わりにすると決めたのだ。
この後に続くのは、私じゃない誰かの言葉。
私がそれを遮ってはいけない。
「さて……早く終わらせて、新しいのでも描こうかな」
次は花にしよう。
まだ見たことのない白いタンポポを黄色いタンポポの横に並べて。
もう春は過ぎてしまったけれど、この気持ちが残せるのならそれでもいい。
今心に溜まっているものをその絵に描き込めばいい。
全部描き込んでしまえば、きっと何もかも終わりにできる。
楽しかった思い出だけを残して、この曖昧な気持ちは忘れられる。
そうありもしないことを思い、ノートから目を逸らした。
私は見えないふりをしていただけだ。
そこに生まれたものに気づかないふりをして、奥深くに隠しただけ。
だからかもしれない。
ずっとあのノートが心に引っかかって、忘れることなんてできなかった。
ずっとずっと気になっていて。
無意識に動けたらよかった。
そうすれば、こんな葛藤もしなくて済んだのに。
本当は誰に宛てたメッセージだったのか、誰のノートだったのか。
知りたいけど、知りたくない。
でも、今こうして歩いているということはそれを知りに行くということ。
無意識だったらよかったのに。
そんなことができるはずもなく、私は私の意志でそこへ向かう。
ノートを見たのは三日前。
今日、そこで会えるかどうかはわからない。
でも、どうしてだか会えるような気がしていた。