第2話
誰も気づかなかったのだろうか。
あのメッセージを受け取る人さえ。
そう思うと、ちょっと可哀相に思えてくる。
また今週もこのノートは目当ての人を待つのだろうか。
見つけてもらえるまで、ずっと待っているのだろうか。
「もっとわかりやすいところに置けばいいのに」
受け取ってほしい人の机の中とか、ロッカーの中とか。
ここもその人の席かもしれないけれど。
……ちょっとわかりにくいと思う。
そもそも誰に宛てたものかわからないから、目当ての人が見たとしてもきっと気づかない。
送り主でさえ、ちゃんとした名前ではないのだから。
悪いと思いながらも、再びノートを開く。
片隅で交換日記でもしているのかもと思ったけれど、そんな形跡は全くなかった。
あの言葉以外の文字が増えていることもない。
悪戯書きさえ、なかった。
もしかしたら私以外見つけた人はいないのかもしれない。
「なんか、本当可哀相になってきたんだけど」
そう呟きつつ、机にノートを広げる。
ペンケースから愛用のシャープペンシルを出すと、それに芯先を置いた。
何か書いてあげよう。
そんな上から目線はあまり好きじゃないけれど、このまま放置するのもなんか気分悪い。
違う方法に変えるように忠告するくらいなら、許されるかもしれないと思って手を動かす。
午後の眠たい頭は上手く働かない。
何度か書き直して、これなら相手も傷つけないだろう文章が書けた。
──たぶんメッセージを宛てた人は気づいてないと思うので、方法を変えた方が得策だと思います。
ストレートすぎて、逆に傷つくかもしれない。
「……まぁいっか。ちゃんと事実を伝えることも優しさだよね」
そう言い聞かせて、またノートを机の中に戻す。
今度はこれを書いた人も諦めて、ここから移動させるだろう。
別の全く知らない人に読まれたなんて、私なら恥ずかしくてすぐに持って帰る。
このノートの持ち主も大方そうだろうと考えていた。
こんなところにこんなものを置く人だから、もしかしたらそうじゃないかもしれないけれど。
というか、私みたいな人だったら、そもそもそんなことしないか。
誰かに見られると思ったら、恥ずかしすぎて置いていけない。
それが普通の授業ノートだったとしても。
「なんか嫌な予感……」
そういうものはどうしてだかよく当たるもので。
ノートは翌週もしっかりその場にあった。
中身にほんの少しだけ変化を残して。
──やっと見つけてもらえたんだね。
ホワイトダンデライオンの目的は、さっぱりわからない。
それどころか、謎は深まるばかりだった。
……この人が探しているのは誰なのだろう。