第11話
彼はちょっとだけ苦い顔をして、私から目を逸らした。
「……笑うなよ?」
「え? あ、うん」
「俺、意外とロマンチストなんだよね」
予想外の言葉にきょとんとする。
それがどう私の質問の答えになっているのか、さっぱりわからない。
「白いタンポポって見た事ある?」
彼の言葉に首を横に振る。
「シロバナタンポポって言ってさ、西の方だとよく咲いてるんだって」
「へぇ……」
彼はその花を見たことがあるんだろうか。
鮮やかな黄色ではない、白い花びらを。
「その花言葉が俺にぴったりで。だから、ホワイトダンデライオン」
「花言葉?」
「そ。花言葉調べるなんて意外とロマンチストだろ?」
確かにそういうのは女の子の方が好きそうだ。
彼にはちょっと……意外かもしれない。
「その、シロバナタンポポの花言葉って何?」
彼にぴったりだから、クールとか人気者とかそういう感じなのだろうか。
でも、白いタンポポだから儚いとかかもしれない。
そういう雰囲気もない訳ではないし。
彼は少し赤くなった頬を掻きながら、恥ずかしそうに笑った。
「内緒」
それから何度も聞いてみたけれど、一切ヒントさえも与えてくれなかった。
そうこうしているうちに、私は家の前に着く。
「ここが由奈の家なんだ」
「結構遠くない? 帰り、大丈夫?」
「平気。俺、男だし」
少し心配になった私を安心させるように笑って言った。
本当に大丈夫なのだろうか。
生憎彼の家は知らないし、あの交差点からどれくらいの距離があるかもわからない。
「大丈夫だって。由奈が気にすることじゃない」
「でも……」
「由奈、好きだよ」
唐突な告白に私は言葉を詰まらせる。
今はそんな話をしているのではないのに。
でもその直後に浮かべた彼の笑みがとても優しくて、文句なんて言えなかった。
「なんかストーカーみたいだけど、由奈の家が知れて嬉しい」
「……ならいいけど」
「また、送らせて。……あと、いつか迎えに来ることも許して」
そう言った彼は私の頭をくしゃっと撫でて、元来た道を戻っていってしまった。
私は何も返せないまま、その背中を見つめることしか出来なかった。