新たな竜の誕生
未来編です。色々とネタバレ中です。
いつものように朝が明けた
雲一つ無い空に太陽が昇る
冬の寒さが落ち着きをみせ、日差しに暖かさを感じ始めたあるある日のこと
王宮の協議の間では無理難題な協議もないままいつものように終わりを告げようとした
「ちょっと待って貰いたい!一つ報告がある」
その静かな空間を破ったのは閃王の玉座の横に座る正妃、神楽の一言だった
「みんな、すまないがもう一つ報告がある。」
「何?医療の件だったら阿宗医師から報告は受けてるけど?」
珍しく声を上げた神楽に閃は顔を向ける
ニコリと微笑みを浮かべる神楽はいつもと違う
「先ずは閃に報告をと思っていたのだが、色々あって遅くなったの今報告するね。」
官吏達が見つめる中、神楽はゆっくりと手を動かしてお腹に手を置いた
「この間分かったのでけど、子供が出来たの」
満面の笑みを浮かべる神楽と固まった空間
「ふふっ。子供が出来たら、仕事に少し支障を来すことがあるかもしれないけど、やれることはしたいの。それに動いていた方が、赤子にもいいみたいだから、軍の訓練もするし、治療などの仕事はするわ。報告終わり。お昼からも頑張りましょうね!」
ルンルンに椅子から腰を上げて上座から降りようとした
「おっと!」
いつもだったら転けるようもない小さな段差に神楽の足が取られた
「のわわわわわわわわ!!!」
「あわわわわわわわわ!!!」
官吏達、閃王から悲鳴が上がった
体が傾いた神楽の手を閃は急いで掴んだ
急いで自分の方に引き寄せる
柔らかな肢体が、自分より小さな神楽の肢体が倒れ込んでくる
「ありがとう閃。大丈夫よ。こんなので転けないわ」
笑みを浮かべる神楽に新たな命が生まれている
それも自分との間に生まれた新しい命
母親になった笑みがさらなる魅力をみせているが、ここで神楽を離すわけにはいけない
「女官長!!女官長をすぐに連れてこい!!それと三老!今日の仕事はせん!!それと、えっとえっと・・あ、温かいものを温かくするように着物、いや締め付けるものはいかん!羽織を今すぐ持ってこい!!神楽、気分は悪くないか?大丈夫か?その吐き気とか無いか?」
慌てた閃王の指示にやっと官吏達も動き出した
それから上から下への大騒ぎだ
誰もが駆けだして女官を呼びにいったり、衣装を取りに行ったり、食べ物を取りに行ったり、謎の行動を示す者が多かった
ただ二人、まだ若き夫婦に笑みを浮かべる阿宗医師と閃に抱っこされた呆然と運ばれる神楽だけがどうすることもなくこの場に流された
「もう!何て事するのよ!この馬鹿!!」
暖かな毛皮や火鉢やたくさんの果物に囲まれた状態で神楽は寝台に押し込められていた
「何を言っているんだ!神楽!僕たちの子だぞ!守らないでどうする!!ましてや君は母親になるんだ!大事な体だ!」
「母親になることは弱くなる事じゃない!強くなることです。」
「だけど・・・神楽・・・」
まだ着せようと羽織を持ってウロウロする閃にあきれてしまう
「もう!父親になるのですよ!」
「そうだけど・・・俺は君に似た女の子がいいなぁ。でもそうしたらお嫁に行かせられない!!」
「そんなことはないわ、閃に似た男の子がいいわ。格好いいもの」
「な!!浮気発言かい!!」
「何言ってるのよ!!あなた以外好きになるわけ無いでしょう!」
「!!!嬉しいこと言ってくれるね」
にやけた表情の閃は神楽にすり寄ってくる
「ち、違うは!そのこれは!!」
寝台の上で顔は真っ赤にする神楽を閃はゆっくりと抱きしめる
この世で最も愛しい存在がさらに愛しく思える
「俺も愛してるよ。神楽。男、女どっちでもいい。元気な子でさえすれば、それでいい。」
「そうね。私もよ。」
「これからもよろしく。お母さん。」
「ふふっ。よろしくお父さん。」
お互いに笑みを浮かべて唇を近づける
ただ触れ合う唇がどんどん深くなる
神楽の口内に侵入した閃の舌は縦横無尽に動き回る
長い口づけが終わると寝台に横たわった神楽が荒い呼吸を繰り返す
この火照りはこの部屋の暑さのせいか、それとも二人が生み出す熱のせいか
だがその熱は嫌悪を覚えることなく愛おしく思える
いずれ生まれる新たな竜を二人で抱きしめるその日を楽しみに待わびる
この半年後、男の子が生まれる
この者は後に閃王より早く亡くなるものの、短い生涯の中で運命の出会いをはたし最高の相手を得る
その間に生まれた子供が璉国史上最高の繁栄をもたらすこととなる
それはまた別の話・・・・