-一章- ~五~
今回はまるまる一話、桜花視点のお話です。
さてさて、見目麗しい女性陣は温泉でいったいどんな騒動を巻き起こすのか?
お約束な展開は、果たしてどんな終幕を迎えるのか・・・・・・まだ終わりませんけどね。
では、どうぞ。
桜花side
「きゃあ!?」
真雪に気付かれないように忍び寄った零が、背後から抱きついた。その手は俊敏に動き、わきわきと真雪の身体を撫で回していた。
真雪は私が聞いたこともないような可愛い悲鳴を上げている。
あ、何かムラっときた。
「あらあら」
横目で茜を見てみると、口に手を当てて獲物を見つけた狩人のような笑みを浮かべていた。加えて、私の鋭敏な耳は、じゅるり、という音を拾った。
あぁ、肝心な話は聞き逃してろくでもない音を聞き取るなんて、何やってるんだろう私は。
「おお、ええですなぁ。真雪さん肌すべすべ~。それにこの感触、たまんない~」
「ちょ、やめっ。どこ触って・・・あっ!?」
みるみるうちに真雪の頬は赤く染まり逃れようともがくものの、身体に力が入らないのかその抵抗は弱い。
零の手が弄る度に体を震わせ、我慢しきれずに度々色っぽい声が上がる。瞳は目じりが下がりとろんとしていて、儚げな印象を与える。
だが、不意にその瞳に炎が灯る。
「・・・・・・いい加減に!!」
真雪は胸元へと伸びてきた零の手を掴み、腰を沈める。
「しろやぁぁぁぁあ!色情魔があぁぁぁぁぁあああ!!!」
大気を震わせる怒号と共に、真雪は力ずくで零を投げ飛ばした。されるがままになっている真雪ではない。凍らせないだけ、まだ理性は残っているらしい。
「ふ、あまーいぃ!?」
綺麗に放物線を描く零は、慌てずに空中で体勢を立て直し見事着地する。と思われたが、ここは温泉。浴槽の中である。
「っちょ、たんまあぁぁ!?」
案の定、着地と同時に足を滑らせ、激しい水音と共に水中に没した。
真雪は未だ息荒く頬を紅潮させていたが一言。
「無様ね」
どこぞの白衣のお姉さんのような台詞を漏らす真雪。
「いえいえ、こういう場合、色欲を抱いて溺死しろ、じゃないですか?」
しれっとした顔で茜が危ない発言をした。
「赤い弓兵?」
一応、確認として訊いてみる。
「よく知ってますね。私好きなんですよ。ああいう皮肉屋。可愛いじゃないですか」
可愛いかどうかは置いておくとして、そういうの大丈夫なのかなぁ。まあ、私の知ったことじゃないけど。
「・・・・・・あんたらねぇ。他人事だと思ってぇ」
「他人事ですもの。ねぇ?」
真雪は苦虫を噛み潰したような表情で苦言を呈した。
対する茜はのほほんとした態度で返す。
「いや、ねぇって言われても・・・・・・あ」
真雪の背後に黒い影。
「分からいでか。同じ手は二度と・・・・・・」
「リッベーンジ!・・・・・・って、あれ?」
「くわない!!」
再度背後から真雪に襲い掛かろうとした零だが、大きく振りかぶった手は空を切った。真雪は零の気配に気付き、絶妙なタイミングと体捌きで魔手を掻い潜り逆に零の後ろを取った。
真雪って、近接戦は苦手な筈だったんだけど。自己防衛本能の成せる業だろうか。
「・・・へ?」
事態が呑みこめずに間抜けな声を上げる零。
傍から見ていた私でも真雪の動きは良く見えなかった。まして水中から飛び出したとくれば、標的を見失うのも無理はない。
「さあ、ここからはずっと私のターンよ」
真雪の双眸が妖しく輝き、零の身体をがっちりと抱きすくめた。
「い、いつの間に・・・・・・」
抱きしめられ、回り込まれたことに初めて気付いた様子の零。その表情は驚愕に染まっている。
「快楽に染まって溺死しろ」
「ちょ、なに言って・・・・・・にゃ!?・・・・・・・や・・・あぅ・・・・・・や、だぁ・・・んあ!?・・・ふ、にゅぅ・・・・・・・・・」
先刻と立場が逆だった。
真雪は零の胸を揉みしだき、身体の隅々まで丹念に優しく愛撫する。すると始めは暴れていた零も、次第に大人しくなっていった。
「んっ・・・やあぁ、ひぅ・・・・・・はぁ・・・あぁ・・・・・・んぅっ・・・・・・も、だめ・・・・・・・ゆる、してぇ・・・・・・・・」
瞳は潤み蕩けた表情を見せる零は、最早抵抗する気力はないようだった。呼気も荒くなり、時折甘い吐息が混じる。
身体からは完全に力が抜け、真雪が抱きかかえるような形になっていた。
「あ・・・・・・ふぁ!?」
許しを請う零に、真雪は耳元に口を寄せ耳に優しくキスをする。そのままの体勢で耳朶を軽く噛み、耳穴に舌を捩じ込み奥の奥まで舐め尽くした。
舌を引き抜く頃には、口が開きっぱなしになりガクガクと身体を震わせる零。真雪は零の口の中に無造作に人差指と中指を突っ込み、妖しく艶っぽい声で語りかけた。
「どう?本当にやめてもいいの?」
「あ・・・むぁ・・・やぁ・・・だ・・・めぇ」
既に理性が溶けかけているのか、吐息が漏れるばかりで声にならない。
もう勝敗は明らかだった。
「・・・・・・うわぁ」
思わず声が出る。
まさか、零がここまで攻めに弱いとは思わなかった。それに、真雪にこんな一面があるとは。
「・・・・・・・・・うん。見なかったことにしよう」
そう言い、痴態を繰り広げている二人を前に踵を返す。
薄情だと言われようとも、ここに留まる気にはなれなかった。あの二人の間に割ってはいる勇気も、残念ながら私にはない。やめさせようとした所で、結局一緒に手篭めにされた自分の姿が用意に想像できる。巻き添えはご免だ。
格好よく言えば、戦略的撤退である。
「あら、最後まで見ていかれないのですか?」
露天風呂に避難しようかと思ったところに、茜から声をかけられた。
心底意外そうに言うものだから、自分の行動の方がおかしいのかと一瞬考えてしまった。
「最後って・・・・・・えーと、そういう茜こそ参加しないの?なんて・・・・・・あはは」
「いえ、二人とも消耗した所で一緒に頂きますよ?」
冗談で言ったつもりだったのに、とんでもない答えが返ってきた。
至って真剣な声音だっただけに、冗談だとは思えなかった。
あれ?茜ってこういう人だったかなぁ。
というか、頂きますってどういう意味だろう?
(桜花。ここは、多少強引にでも離脱するのじゃ。長く留まっていかん。色々と)
了解。直ちに撤退します。
もう一人の私の言葉に素直に従う。
どうやらこの場では、私は狩られる側らしい。逃げるが勝ちともいうし味方がいない以上、たとえ不自然でも立ち去るのが最良の選択だと思う。
「そ、そうですか。頑張って下さいね。じゃあ、私は露天風呂のほうに行きますから」
返答を聞かず、一目散で露天風呂を目指す。幸い、露天風呂へ通じる扉は近くにあったのであまり時間はかからなかった。
扉に手を掛け、チラッと真雪たちの方を覗き見る。
三人ともこちらを見ておらず、追ってくる様子もなかったので安心して扉を開けた。
「・・・・・・おお」
扉の向こうは別世界だった・・・・・・という訳でもなかったが、その景色は私に感嘆の声を上げさせるには十分なものだった。
湯船の大きさは中の半分ほど。山の上ということもあって、色付いた山々などの高所からの眺めは心惹かれるものがあった。
ともあれ、いつまでも立ったままでは身体が冷える。
湯船に入ろうと視線を向けると、そこに人影があった。
「・・・・・・円香?」
「ん?・・・ああ、桜花か」
桜花side end
という訳で、お約束なアレをお送りした今回でしたが、如何でしたでしょうか?数人のキャラ崩壊が起こったようなそうでもないような。少なくとも、茜に関しては最初からあんな人でしたけどね。多分。
で、今回のお話から15Rにした本作。加減が分からないというか、一応15Rにしときゃ問題ないかなーてな感じで変更しました。
それから、本当はまだ続きがあるんですが、ちょっと長くなってまいりましたので、途中で切らせてもらいました。次回は、視点をかえて続きをお送りします。あと、鏡sideのお話も入りますのでちょっと長めになるかもしれません。そこでようやく温泉シーンが終わる、と思います。
あと、ネタについてはスルーしてください。
では、また次回。