-一章- ~三~
今回は、試験的に今までと違う書き方です。
今後同じような書き方でいきます。多分。
桜花と鏡、二人の視点で物語りは進みます。初めての温泉、幽霊調査、果たして旅行はどうなるのか。
最後のおまけはいつもの如くスルーしてください。
では、どうぞ。
桜花side
「うっわー、広~い!」
「へー、確かにすごいものね。けど桜花、一応耳と尻尾を隠しなさい?」
「あれ?・・・・・・ごめんなさい」
「そうはいうけど真雪さん?ここには私たちしかいないんだからいいんじゃない?」
「ああ、そういえば確かに。零も出てるよね。耳も尻尾も」
「貴女たちの場合手入れとか大変でしょうに。それに万が一旅館の人が入ってきたらどうするの」
「そういうものなの?」
「いや、それはないでしょう。流石に」
「・・・いえ、そうとは言い切れませんよ」
「あの歓迎ぶりだからね。サービスとか言って入ってこないとも限らないし」
「あ、茜、円香。二人とも隠していたほうがいいと思う?」
「まあ、ね。常識的に」
「今後一般の方々と一緒に入ることもあるでしょうから、予行演習ってところですかね。ついうっかり、なんてことのないように」
「という訳だから零、貴女も隠しなさい」
「・・・・・・そういう真雪さんはいいですよね~」
「何が?」
「隠すものがなくて」
「・・・・・・・・・・・・何所を指して言っているのか正直に吐いてみましょうか?」
「そうね。それは聞き捨てならないわね・・・」
「ちょ、何で円香まで!?」
「・・・・・・自意識過剰ねえ、二人とも」
ごめんなさい。お見苦しいところをお見せしました。
て、あれ?私、誰に向かって言ってるの?
(気にするな。気にしたら負けじゃ)
ふえ?そうなの?
(うむ。妾は気にせん。ほれ、さっさと身体を洗う)
あ、うん。
もう一人の私に促されて身体を洗う。
温泉に入るのは初めてだったけど、身体を洗うくらいなら問題ない。ボディソープもシャンプーやリンスもあるし、シャワーもついてる。もう一人の私はそれを知ると感心するやら呆れるやら羨ましがったりしていた。昔の温泉にはそんなものなかったからね。
けどそれは単に便利だってだけで、温泉を楽しむ分には何ら問題はないんだけど。
髪と身体を洗い終わってから湯船へと向かう。
改めて湯船を見ると、やっぱり広い。当然だけど、家のお風呂とは全然違う。
軽く五十人は入れそうな湯船からは湯気が立ちこめ、室内を満たしている。少し熱気があって息苦しい気もするけど、これだけ温かければ湯から上がっても湯冷めすることは無いかな。
「・・・・・・んと、ちょっと熱いか」
恐る恐る湯に足をつける。少し熱かったので、縁に腰掛けて足だけを湯につけて慣らしてから、ゆっくり入ることにする。
「・・・ん、そろそろ」
慣れてきたので、一気に肩まで浸かる。
「は、ふぅ~・・・」
はぁ、気持ちいい。芯から温まるってこういうことをいうのだろうか。
ちょっと熱いけど、それもまた心地いい。
「・・・すご、つるつるだ」
肌に触れると、つるつるとした感触が指に伝わる。これが温泉の効能か。肌がスベスベになりそうだ。
この旅館には、他にも薬湯や檜風呂とかもあるらしい。
全部入れるかな。
そんなことを思いながら回りを見渡してみると、皆身体を洗い終わって湯船に入っていた。うっとりしていて気付かなかったらしい。
けれど、何か違和感がある。先刻から何かを忘れているような気が・・・・・・
気になったので、先ほどから一言も喋らず気持ちよさそうにしているっぽいもう一人の私に聞いてみることにした。
・・・・・・・ねえ、私、何か忘れているような気がするんだけど。何か心当たりない?
(・・・・・・む?何じゃ、気付いておらんかったのか?てっきり知っていて放っておいたのだとばかり思っていたのじゃが・・・・・・)
え?知っていた?放っておいた?
いったい、何のことを言っているのだろう?放っておくも何もここには私たち全員・・・・・・あれ?
そこで、はたと気付く。
「あれ、哭月は?」
桜花side end
鏡side
「うっわー、見事にばらっばらだな」
「そうね。これじゃ、情報をまとめようにも・・・」
何がバラバラなのかといえば、別に死体を発見したとかそういうことじゃない。幽霊や事件に関して集めた情報にまったく整合性がなく、うまく情報を整理することが出来ないのだ。
哭月を伴って旅館中を聞きまくったのだが、その結果がこれだ。
「・・・・・・多分、幽霊自体はいるとは思うんだが」
書き写したメモを見ながら言う。
「・・・うん、私もそう思うわ。場所はともかく目撃情報だけは多いし。全部がそうだとは言わないけど、心理的な要素があるにせよ多過ぎる」
哭月もメモを次から次へと捲りながら困ったような表情を見せる。
「だな。問題はその場所だ。旅館中、至る所で目撃情報がある。どこか一箇所に集中してるならともかくこれじゃあな。言うなれば、出現場所はこの旅館全域って事か」
「痕跡がないか調べてみても、何も発見できなかった。もっとくまなく調べてみれば分からないけどね。多分本当にいるとすれば恐ろしく隠密性の高い幽霊でしょうね」
メモを閉じ、お互いに向き合う。
哭月の顔には疲れの色が見て取れた。気遣うような瞳をしていることから、多分俺も似たような表情なのだろう。
「それでいて目撃情報がある以上、力が弱いとも考えにくい。その辺りは専門分野じゃないからよく分からんが、力が強ければそれだけ痕跡は残りやすいはずだ。だとすると矛盾する。考えうる可能性は、最悪のもの、か」
「ええ。己の存在を隠し切きれるほど強大な力を持つ個体。厄介ね。そうだと決まったわけじゃないのが唯一の救いかしら。全部憶測に過ぎない」
互いに見つめあい、嘆息する。
「ああ、決め手に欠ける。確たる証拠がない。まあ、つまり何も掴めていないって事だな」
「「・・・・・・・・・・・・・・・はあ」」
もう何度目かの溜息がこぼれる。
あれだけ調べまわって分かったのが、とにかく目撃情報が多いことだけというのは少し泣けてくる。
他に分かっている事といえば、幽霊の容姿くらいだ。
白い着物を着た黒髪の美少女というのが大多数。少数派では、恐ろしい形相の鬼女だったり傷だらけの鎧武者などがある。
このことから幽霊は複数いることも考えられる。大物が何人もいるとは考えたくない。
何にせよ、後は九凰さんに報告だ。
気付けば、空は茜色に染まっている。夜もかり出される可能性もあるが、とりあえず今はここまでだ。
「そういえば、銀司ってどうしたんだろうな。見かけなかったけど」
「銀司のことだから、女湯でも覗きにいったんじゃない?」
どうでもいいことのように、哭月が投げ槍に言う。心底興味がないようだ。
「いや、流石にそれはないだろ」
顔の前で手を横に振りながら言う。流石の銀司といえど、それは・・・・・・
「そうかしら。だってあの銀司よ?十分あり得ると思うけど」
哭月は不適な笑みを浮かべながら言う。
「・・・・・・もしそうだとしたら、行方不明者が一人増えるだけだ。それくらいアイツも分かってるだろ・・・・・・・・・・・・多分」
「・・・・・・・・・私、結構前に悲鳴が聞こえたのよね。気のせいだと思ってたんだけど」
哭月が人差し指を顎に当て、少し気まずそうな表情をした。
どうやら本人自身冗談で言ったつもりが、ちょっと心当たりがあったらしい。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「「まさかな(ね)」」
嫌な沈黙が続く。
もしそれが新たな目撃情報だとしたら、俺たちの耳に入っていても可笑しくない。が、そんな話は聞いていない。
銀司のことだ。絶対にないとは言い切れない。彼女たちは容赦しないだろうから、銀司は今頃星になっているかもしれない。
自業自得だが。
まあ、それはさておき、いつまでもここに突っ立っているわけにはいかない。
「・・・・・・・・・行くか」
「ええ」
赤い光に照らされて、真っ黒な長い影が伸びる。
朱い背景に黒い影というコントラストは不気味で、何故か紅い湖面に浮かぶ漆黒の人影を連想させた。
俺はかぶりを振り、嫌なイメージを振り払う。
今日の夕日はやけに紅い。これで月まで紅かったら、何か良くないことが起きそうだ。
そんな様子を心配そうに見つめる相棒に大丈夫だと笑いかけ、俺たちは九凰さんに今日の結果を報告すべくその場を後にした。
鏡side end
おまけ ※一部を除き会話のみでお送りします。
このとき、哭月は肩を落とした俺を気遣ってくれたのだと思うけど、もう少し違う話題にして欲しかった。(後の鏡談)
「でも、銀司はともかくご主人なら覗きをしても行方不明になることはないんじゃなかしら」
「っぶ!?な、何を唐突に言いやがりますか!?・・・・・・・・・・・一応答えるけど普通に俺も黄泉送りにされると思うんですが」
「そんなことないわよ。普通ならそうでしょうけど、集まっているメンバーが普通じゃないし」
「いや、そんなコトはない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・コトモナイカ。反論デキン」
「じゃあ、一人ずつシュミレートしていくわね」
「いや、別にいいです」
「じゃあ、最初に桜花ね」
「あ、無視ですか。そーですか」
「桜花の場合、最初は恥ずかしがるだろうけど、まず拒むことはないでしょうね。何だかんだ言っていつの間にか隣にいる」
「うっ・・・ありそう」
「零は・・・・・・まあ、言うまでもないわよね。自分から身体をくっつけてくるでしょう。というか、今まで手を出さなかったご主人の鉄の意志には感服するわ」
「・・・・・・お恥ずかしい限りです」
「・・・・・・・・と言いつつ、多分零のやり方にも問題がありそうだけど」
「はいっ!?」
「私だったら真正面からぶつかるだけじゃなく、時には身を引いて素っ気無い態度を見せるわ。後は気を見計らって、再アタックをかける。喧嘩して仲直りした後とか、風呂場やトイレで鉢合わせなどのイベントの後にこれでもかというくらい甘える。そうすれば結果も変わっていたかもね。言うほど簡単じゃないでしょうけど」
「いや、そんなことはない、と思う・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アレ?」
「次に真雪だけど、あの子も口ではなんと言っても拒まないでしょうね。遠くから、こっち見ないでね、とか言いそう。なら、あがれば?と思うけど」
「あー・・・・・・」
「後は一番の障害、九凰姉妹。茜さんの方は、笑いながら平然としてそうよね。いつの間にかタオルを巻いてたりして。円香は私の見立てでは典型的なツンデレだから、こっち見るな、とかいいながら内心ドキドキしてる」
「ぬー・・・・・・・・・で、そうおっしゃる哭月さんは?」
「私は構わないわよ。私はご主人のペットだし。お互い知らない仲じゃないんだから」
「やー、違わないんだけどそういう誤解を招く言い方はやめてもらえませんか。知らない人が聞いたら絶対誤解するから」
「え~、面白いのに・・・」
「確信犯だよね。そうだよねー、そうだと思ってたよ」
「ならいいじゃない」
「良くないよ!?つーかやっぱ覗きは駄目だって。見つかった瞬間、条件反射的に吹っ飛ばされる。お約束的に」
「かもね。私が言ったのは、風呂場で思わず鉢合わせとかの場合だから」
「いや、それもどうかと・・・・・・てかそれもないだろう。桜花と零はともかく」
「・・・どこかの主人公並に鈍感よね。ご主人は」
「そうか?・・・・・・・・・・・・というか、あの、なんか視線が痛いんですけど」
「自業自得ね、ご主人」
「貴女のせいですよね~!?」
その話があっという間に旅館中に広まって、ずっと白い目で見られてました。(後の鏡談)
えー、まあ、書くことはあまりないのですがこれだけ言っておきます。
ごめんなさい、何度も言いますけど、予想以外に旅行編長くなります。作者も驚いています。自分の無計画さに。
で、今回の話ですがいかがだったでしょうか。書き方を少し変えてみましたが。まあ、書くうえでは問題なかったのでこのままいくと思います。
今回、桜花達に入浴シーンが中途半端なところで終わってるので、次回続き書きます。多分、半分以上はそれ系統のサービスシーンというかコメディ風になるかと。ほとんど全般温泉での話です。
あくまで予定ですが。
では、また次回。