-一章- ~一~
鏡視点で進行します。
今回から過去編です。
では、どうぞ。
「ふー、やっと着いたか。ってか大分山奥だな」
季節は秋、葉が紅く色付き涼しげな風が野山を吹き抜ける。
「わー、お兄ちゃん見て綺麗だよ!」
「本当ね。見事な紅葉。日本の景色って素晴らしいわねご主人」
空は蒼く澄み渡り、透き通るような空気が肺を満たす。
「そうだな。しかしまあ、本日のメインは別にあるだろう?」
「そう!やって来ました温泉旅館!!ポロリもあるよ!?」
「ねえよ。つか急に元気になったな銀司。車酔いじゃなかったのか?」
えー・・・まあ、そういうわけで、俺たちは里から遠く離れたとある山深い温泉旅館に来ていた。メンバーは、俺と桜花、零、哭月、真雪、九凰さん、円香、ついでに銀司だ。二泊三日の旅行ということで、九凰さんの車で遠路遥々やって来た。
事の始まりは数週間前に遡る。
といっても大した理由ではない。ある日、家の住人たちがテレビを見ながら寛いでいると、不意に零が「そういえば、温泉旅館とか暫く行ってないな~」と呟いた。テレビでは旅番組が放送されていた。
そこから一気に話が膨らんで、桜花も「私も行ってみたいなー」なんていうもんだから俺が止める理由はなかった。
だが、旅行となると問題は色々ある。第一に俺たちが妖怪であること。容姿は一応問題ないとして、許可を取る必要がある。俺は日帰りでもいいのだが、他の皆さんはどうしても泊まりは譲れないらしい。
多分駄目だろうなーと半ば諦め気分で九凰さんに相談してみると、なんとすんなり許可が下りた。俺たちであれば旅行くらいなら問題ない(今まで何度も里外へ出ていて全く問題ない等の理由)とのこと。
ただし、監督役として九凰姉妹も同伴することとなった。むしろそれが狙いだろうが。
二人が居なくて神社は大丈夫なのかと心配したが特に問題はないらしい。神社を手伝ってくれている人たちが数日間くらいならと、快く二人を送り出してくれたそうだ。里の管理も手伝っていた人たちだそうだから、表裏どちらも任せられる。二人はせっかくだからとそのお言葉に甘えたと言っていた。
さらに九凰さんは宿の手配までしてくれた。
どこまで乗気なんだろうか。
ともあれ、そんな訳で現在に至る。
ちなみに、銀司は誘ってないにも関わらずいつの間にかちゃっかりメンバーに紛れ込んでいた。独自で情報を入手し九凰さんに交渉を持ち込んだらしい。どうやって情報を嗅ぎ付けたのやら。狼は伊達ではないようだ。
まあ、銀司の目的は分かっている。まったく、よくやるものだ。一歩間違えればストーカーだ。
「んなもん、この景色見たら治っちまったよ」
景色を眺めながら、何でもないという銀司。
「そりゃなにより・・・・・・・・にしても、これは」
「どうかしたの、鏡?」
桜花が小首を傾げて可愛らしく言った。
「桜花・・・いや、何でもない」
九凰さんがレンタルしたワゴン車で高速を直走ること数時間。そこから一般道に入り山道を走ること十数分、目的の宿に着いた。
一般道ではそうでもなかったが、山道に入るとすれ違う対向車はほとんどいなかった。駐車場にも俺たちが乗ってきた車以外は一台もない。他にも車はあるといえばあるが、そちらには従業員用という看板が立っている。
何か、嫌な予感がする。
とはいえ、今更そんなことは言えない。が、やはり気になる。
俺は、思い切って九凰さんに聞いてみることにした。
「あ、あの九凰さん・・・」
「何ですか?鏡さん」
前を歩いていた九凰さんは振り返り、何もやましいことはないですよ、という表情で俺の言葉を待っていた。
「あ、あの、この旅館って・・・・・・・・・訳あり、だったり?」
言葉を区切りながら、恐る恐る聞いてみる。
「あぁ、やっぱり気付いちゃいました?実は幽霊が出るとか噂になってましてね、最近行方不明になった人もいるみたいなので予約客が全くいなかったんですよ」
俺は肩を落とし、眉間をほぐすように揉んだ。
そんなことだろうと思った。嫌な予感的中。
「そ、そうですか」
「その点、私たちなら特に問題ありませんし好都合。あ、宿自体はかなりまともなので安心していいですよ」
何でもないことのように朗らかな顔で言ってますけどね九凰さん、そういう問題じゃないんですよ。
確かに、霊くらいなら俺たちはほとんど妖怪だし問題ないだろうけども。それでもそういう宿だって事は一応教えて欲しかった。
「文句言わないでよ鏡。宿が取れたんだからそれでいいでしょ。温泉があればそれでいいじゃない」
「円香、そういう問題じゃないだろう」
お気楽な態度で言う円香。
落ち着く暇がないと思うんだが。あんまり実害はないとしても吃驚はするんじゃなかろうか。
「・・・にひひ、そうかてことは色々とやりようによっては・・・」
俺たちの話に聞き耳をたてていたであろう銀司が、何事かを呟いていた。
「おい銀司。何を考えている」
「え?いやぁ、何も考えておりませんのことヨ?」
嘘だ。絶対にそのげひた笑みの裏で何か良からぬ企みを企てているに違いない。
どうせあくどい商売だろう。まったく、どこぞの女誑しの不良法師じゃあるまいに。
「・・・・・・ほどほどにしとけよ」
「分かってるって」
どうだか。
つーかその発言は、何かを企んでいることを肯定しているのと同義であると理解しているのだろうか。
してないだろうな。
「何しているの?早く行こうよ鏡!」
「そうよ!お兄ちゃんも茜さんも円香さんも・・・えーと、誰だっけ?ま、いいや。とにかく先に行っちゃうよ!」
「まだそのネタ引っ張るのかよ!?もういいよ!!つかいい加減覚えろやっ!?」
いつの間にか、みんな旅館へ向かってしまったようだ。遠くから桜花と零が呼んでいる。
「諦めろ」
「ひでぇ」
銀司は項垂れて地面に「の」の字を書いていた。
これで三度目だったか?よく飽きないな二人とも。
まあ、何はともあれ、俺は不安を抱えながら宿へと向かった。
とまあそういう感じで特に書くことないです。
といいますか、何やらこの外伝、本編より長くなる可能性が高いです。てか長くなります確実に。
今回の旅行編にしても当初は三話くらいで終わらそうと思っていたんですが、書いてみると五話以上になりそうな予感。まあ一話を長くすれば部数自体はそれほどでもないんでしょうけどね。そんなに一度に書くのも疲れるので。書くほうも読むほうも。・・・そうか?
てなわけで、あと四話くらいこの旅行編は続きます。多分。
では、また次回。