-一章- ~十五~
ようやっと事件の終わり。
では、どうぞ。
鏡side
「さて、ちょっとばかし痛いだろうが、我慢しろよ銀司!」
俺は一足で黒銀司の懐に侵入し、下から顎を打ち抜く。そして、宙に浮いた無防備な身体に容赦なく連撃を叩き込む。急所は避けているが、それでも普通なら昏倒するほどの衝撃だ。
それでも何とか着地した黒銀司だが、流石に動きが鈍い。
俺は、難なく黒銀司の背後に回りこみ、掌を黒銀司の背中に当てた。
「そら、これで少し大人しくしてろ!!」
俺は、魔術で風を生み出し、帯状の暴風が黒銀司の身体を縛る。
風の縛り。
長くは保たないだろうが、それで十分。
「真雪!」
「了解。離れて、鏡!」
真雪の指示に従い、黒銀司から距離を取る。
「ふぅ、まぁ、加減は難しいけど出来なくはないわね」
真雪は動けない黒銀司に向かい、強烈な冷気を放つ。足元を狙ったそれは、周囲数メートルと共に黒銀司の膝下を完全に氷で覆った。
どうにか風の縛りを力ずくで解いた黒銀司であったが、すぐに氷を砕くことは出来ない。
「後は任せるわ、哭月」
「はいはい。お任せあれ」
そう言うと、哭月は目を閉じ、右手を前へ突き出す。
暫くすると、黒銀司の周りに複数の小さな魔法陣が浮かぶ。それが淡く紫色の光を帯びてくると、哭月は目を開いた。
「準備完了・・・・・・劣化版だけど、効果は十分よ」
グレイプニル
魔法陣から幾条もの極細の鎖が伸び、黒銀司の身体に巻きつく。
細い糸のように見えるその鎖の前に、黒銀司は為す術なく縛られるしかない。ピクリとも動けない様子で、銀司は声にならない雄叫びをあげた。
「桜花、仕上げよろしくね」
「うむ。大儀であった」
「偉そうだな、オイ」
やたら偉そうな態度の桜花に思わず本音の感想が出てしまった。
桜花はそんな俺のツッコミを無視して、瞑目する。
待つこと数秒。
目を見開いた桜花の手には、桜花同じくらいの大きさの大槌が握られていた。
って、あれ?もしかして・・・・・・
「・・・桜花、それで殴るのか?」
「うむ」
自信満々に頷く桜花。
「・・・・・・理由を伺ってもよろしいでしょうか?」
「これで怨霊を叩き出すのじゃ。なに、見た目よりもずっと軽いから問題ないのじゃ」
いや、俺が心配してるのはそっちじゃなくて。
黒銀司、本当に大丈夫なのか?
「では、いくぞ」
「あー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まいっか」
俺は知らん。
まー、ここ数日の記憶が飛ぶか失くすかあるかもしれんが、死にはせんだろ。
それくらい、桜花だって分かっている筈だ。
そう信じたい。
「せりゃあああああ!!!」
桜花は大槌を肩に担ぎ、そこから思い切り振りかぶって、渾身の力を込めて黒銀司に叩き付けた。
ああ、ありゃ痛いわ。
なんか大槌があり得ないくらい撓っていたから、その威力の程は容易に想像できる。
しかも哭月の鎖で固定されているもんだから、衝撃が逃げずにそのまま伝わっている。
・・・・・・軽く車に追突されたくらいの衝撃はあるのではなかろうか。
「お?」
それはさておき、黒銀司に変化がおきた。
大槌の接触から一拍おいて、体から黒い靄のようなモノが這い出してきた。
それはまるで意思があるかのようにうねり、形が一定化しない。
「さて、もう大丈夫じゃな。ほうっておけば厄介なことになるが、寄生型は単体ではほぼ無力じゃからの。後はプチっと潰すだけじゃ」
桜花はそう言うと、おもむろに手を前に突き出した。
いや、あの桜花さん?
そっちにはまだ・・・
「消えろ。害虫めが」
冷淡な言葉と共に、突き出した掌から眩いばかりの光が溢れ、それは巨大な光の槍となって怨霊を呑み込んだ。
後に残ったのは、一直線に刻まれた破壊の痕と、桜花の攻撃が掠って黒焦げになった銀司だけであった。
「これにて、一件落着じゃ!!」
桜花は尊大な態度で大笑いしていた。
久々に暴れられて楽しかったのだろうか。というより出番が来て嬉しかったのか。
そのどちらでも構わないが、目線で頭を撫でろと言ってきたので、黙って撫でた。
「うむうむ。大儀であるぞ、鏡。もっと撫でろ」
ついには口頭で撫でろと言って来た。だんだん遠慮がなくなってきている。
つか、やけに偉そうなのが気になるが。
「・・・・・・何の影響を受けたんだ?」
何はともあれ、これで一件落着、か?
鏡side end
はい、というわけで、事件は解決とあいなりました。いや、あっさり終わってすみません。なんのこっちゃわからねえ、という方もいるかもしれませんが、その辺は深く考えないで下さい。
後二話ほど続きますが、もう暫しお付き合いを。
では、また次回。