-一章- ~十四~
戦闘はなし。次回への繋ぎです。
では、どうぞ。
哭月side
「ご主人、大丈夫かしら・・・」
ご主人が黒銀司と戦い始めてどれだけの時間が流れただろう。今だに解決策は見つからず、ご主人と黒銀司は果ての見えない消耗戦を続けている。
今のところ、二人に変化は無い。夜叉も人狼も戦闘に長けた種族であり、体力は化物並・・・まぁ、妖怪ではあるんだけど・・・ともかく、まだ暫くは大丈夫だとは思うのだけれど。
「銀司、動きが単調ね。その分、いつもより速い気がするけど」
隣で真雪が冷静な分析をする。
確かに、黒銀司の動きはどこか機械的というか、操られているという印象が強い。突進し、腕を振り下ろし、無造作に蹴りを繰り出す。普段であれば、稚拙なれど体術を用いる。
技術がない以上、対応するのは難しくない。
だがその反面、いつも以上に速い。
肉体のリミッターが外れている、というより無視しているというべきか。肉体に強いるダメージを無視して、驚異的な挙動を可能としている。
「でも、ご主人は対応出来てる」
そう。ご主人は最初こそ、そのスピードに戸惑いはしたが、次第に対処できるようになっていた。流石は夜叉というところだろう。
油断は出来ないだろうが、それでもご主人は黒銀司の動きを読み、攻撃を完全に捌いている。
それ故に、先に限界が来るのは銀司の方だろう。肉体の限界が。まぁ、それでも無理矢理動くなんてことも考えられるから一概にはいえないのだけど。
「んー、少しでも動きが止まれば、あのバカを凍らせるくらい出来るんだけど・・・・・・問題は、身体を傷つけることが出来ない以上、あんまり強く出来ないことよね」
真雪が表情を曇らせ嘆息する。
真雪の氷であれば、黒銀司の動きを封じることが出来る。ただし、外側ではなく、内まで完全に凍らせるとなると、いくら銀司でもただでは済まない。というか、多分死ぬ。
かく言う私も、捕縛の術くらいあるのだけれど、それくらい主人も使える。私の術はご主人より強力だとは思うのだけど、発動に時間がかかる。それに少しばかりえげつない術なので、出来れば使いたくないのだ。
私がそんなことを考えていると、突然桜花が大きな声を出した。
「ど、どうしたの桜花?」
大声を間近でくらった真雪が、涙目になりながら言う。本当に耳元だったようで、少し怒っているかもしれない。
「うむ。思い出したぞ。アレの正体を。謎は全て解けたのじゃ!」
あー・・・もう一人の桜花か。今まで出番なかったわね。
というかその台詞は・・・・・・深く考えないことにしましょう。そういえば、最近昼間に再放送してたかしらね。
「正体とは?知ってるんですか、アレを」
意外そうな表情で桜花を見る茜。
「アレは怨霊じゃ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・怨霊?え?それだけ?」
茜の目が点になっている。かなり肩透かしをくらった。
「怨霊って、そんな訳ないだろ。怨霊だってんなら私達にも分かる。けど、アレはそんなモノじゃない」
円香が桜花の言葉を否定する。
怨霊とは悪霊などの別称・・・・・・みたいなものだと私は認識している。それならば、円香たちの専門のはず。それが知らないというなら、全くの別物ではないのか。
「あぁ、すまぬ。言葉が足りなかったか。あの怨霊は、こちらの世界の怨霊とは違う。アレは異世界から来た異邦人じゃ・・・・・・人ではないがの」
「は?」
今度は円香の目が点になる。
それを無視して桜花は語り続ける。
「数百年ほど前、世界に大きな穴が開いての。そこから零れ落ちてきたのじゃよ。その時に妾もアレを退けるのを手伝ったのでな。いや、すっかり忘れておった」
はっはっは。と笑う桜花を尻目に、茜は何か考えている様子だった。
「・・・・・・まぁ、事の真偽はどうあれ、貴女はアレの対処法を知っている、ということで良いのですか?」
「ふむ。心得ている。動きを止めてくれさえすれば、後は妾が受け持とう」
「では、お願いします。鏡さん、そういうことです。聞いていましたか?」
「っ!ああ、聞いてましたよ。真雪、哭月、手伝ってくれ!」
黒銀司をあしらいながら、ちゃっかりこっちの話を聞いていたらしいご主人。どれだけ余裕があるのだろう。
何はともあれ、あまりの急展開についていけないが、やる事は決まった。
ならば、迷うことは無い。早く終わらせて、残りの時間、ゆっくり温泉を満喫するためにも・・・
「了解よ」
「任せて、ご主人」
全力で、ご主人をサポートするとしますか!
哭月side end
哭月視点ということでしたが、割と書きやすいということに気付いたこの頃。
関係なくてすいません。
ということで、事件の解決は次回で終わり?です。
完結はそれから二話ほどですね。
では、また次回。