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(コウタの部屋・その夜)
「よーし!こうなったら全部説明してやるぜえ!」
コウタは座布団の上に正座し、目の前に無表情で座るセシリアを見据える。エリカとミーシャは帰宅した後だ。
「セシリア、よく聞け!オレはな……カッコイイ男だからな!」
「……相変わらずの自己評価ですね」
「ふん!その通りだ!でな、そのカッコイイオレが気づいたことがある!」
コウタは身を乗り出し、声を潜めて言う。
「セシリアにモテると、パワーアップするんだぜえ!」
「…………」
セシリアのまつげが、かすかに震える。
「……どういう意味ですか」
「こういう意味だ!」
コウタは立ち上がり、熱く語り始める。
「ほら、あの水魔の時も、オーガの時も、今日の雷鳥の時も……オレが一番カッコよくなれた時って、いつだ?」
「……」
「セシリアがオレのことを『カッコいい』って思ってる瞬間なんだ!」
コウタは拳を握りしめ、目を輝かせる。
「お前がオレを見て、ちょっとでも『……カッコいいかも』って思う。すると、オレのチートが反応する! パワーアップする! もっと無敵に近づく!」
「…………」
「つまりな!」コウタはセシリアに指をさす。「お前の好感度が、オレのレベルアップアイテムなんだぜ!」
長い沈黙が流れる。
セシリアはゆっくりと立ち上がり、コウタの目の前まで歩み寄る。
「……つまり」
彼女の声は、静かで深い。
「あなたは、私に『カッコいい』と思わせることで、もっと強くなりたい。そして、その強さで……他の女の子にもモテようとしている」
「……え? いや、そういうわけじゃ……」
「Ver.2.0って、そういうことですよね?」
「!!」
コウタの顔が青くなる。
(な、なんで……知ってるの……?)
「私にモテてパワーアップ。そのパワーで、エリカさんやミーシャさん、あるいは他の誰かに……『カッコよくモテる』」
セシリアの目が、漆黒のように深くなる。
「……上手くなんか描いてないけど、モテモテチート。そういうことですよね?」
「ち、違……いや、まあ……その……」
コウタは言葉に詰まる。全部見透かされている。
「……でもな、セシリア!」
彼は最後の意地を見せる。
「それだって、カッコイイだろ!? オレは正直に、全部説明してるぜ! 隠し事なんてしない! これが、真の男の美学だ!」
「…………」
セシリアは一歩下がり、そっとため息をつく。
「……本当に、バカですね」
「え?」
「そんなチートの仕組み、わざわざ敵に説明する戦士がどこにいますか」
「そ、それは……」
「私の好感度でパワーアップするなら」セシリアが一歩また近づく。「逆に言えば……」
彼女の碧い瞳が、コウタをしっかり捉える。
「私があなたを『カッコよくない』と思えば、あなたは弱くなる」
「…………!?」
「私があなたに冷たくすれば、あなたのチートは発動しない」
「私が他の誰かを褒めれば、あなたは動揺する」
「私が……」
「待、待て! それやめてくれ!」
コウタは慌てて手を振る。
「そ、それじゃあオレ……ただのヘタレじゃねえか!」
「ええ。その通りです」
セシリアは、ほんのり笑った。それは、どこか悲しげな笑みだった。
「あなたは、私にすべてを握られているんですよ、コウタ」
「…………」
コウタは膝をつき、がっくりと頭を垂れる。
(くっ……神様……このチート……マジで最悪すぎる……)
「でも」
セシリアの声が、再び聞こえる。コウタが顔を上げると、彼女が優しい──いや、危険な笑みを浮かべている。
「そんなあなたも、私は嫌いじゃありません」
「……え?」
「だって」
セシリアはコウタの前にかがみ込み、耳元で囁くように言う。
「これであなたは、一生、私から離れられなくなりますから」
「…………!!」
コウタの背筋が凍りつく。
「これからも、あなたは私に『カッコいい』ところを見せようと頑張る」
「私は、時々褒めて、時々冷たくする」
「あなたは私の掌の上で、もがきながら強くなっていく」
セシリアが立ち上がり、俯くコウタを見下ろす。
「……なんだか、楽しそうですよね」
「…………」
コウタは、何も言えなかった。
(あ、あのさセシリア……それって……)
(もしかして……超……病的な関係じゃ……?)
「では、おやすみなさい。コウタ」
セシリアは軽く手を振り、部屋を出ていった。
ドアが閉まり、コウタはその場にへたり込む。
「……神様……」
彼は天井を見つめ、ぼそりと呟く。
「……このチート……オレの人生……完全に、セシリアにハメられた気がするんだけど……」
窓の外、月が雲間に隠れる。
コウタは気づいていない。
これが、彼のチートの最終形態だということを。
「モテたい」という願いが、「セシリアに認められたい」に収束し、そして「セシリアに全てを握られたい」という、依存と執着の最深部へと至ったことを。
でも、彼はもう逃げられない。
なぜなら……
(……でもな……)
布団にもぐり込みながら、コウタは思う。
(……セシリアがあんな風に笑うの……たまにしか見られねえけど……)
(……ちょっと……カッコいいよな……オレのこと、あんなに気にしてくれるなんて……)
彼は、自分が深みにはまっていることに、まだ完全には気づいていなかった。
こうして、コウタの「モテモテチート」は、「セシリア専属・好感度依存型人生チート」へと完全に変貌したのであった。
(最終形態・覚醒)
(コウタの部屋・真夜中過ぎ)
「……ちっ。やっぱり言うぜ。」
コウタは布団の中で寝返りを打ち、暗闇に向かって独り言をつぶやく。
「セシリア、お前はいつもオレをからかって……オレのチートを握ったとか言って……」
彼は布団を蹴り飛ばし、立ち上がる。窓の外の月明かりが、決意に満ちた顔を照らす。
「でもな、オレは言わせてもらう。女の子は本来、モテモテの男が好きなんだぜ!」
コウタは虚空に拳を突き上げる。
「ほら見ろよ、世の中! バチェラーとかあるだろ? 独身貴族ってやつ! モテる男がもてはやされるんだ!」
彼は熱く語り始める。誰も聞いていないのに。
「オレのこのチート……〈ビビるな、それが恋の魔法だ〉はな……本来は『モテモテチート』なんだ!」
「セシリアにだけ効くってのが間違いなんだ!」
「オレは広く浅く、たくさんの女の子に愛されるべき男なんだ!」
「だって……だって……」
コウタの声が少し震える。
「……現世でナンパばっかりしてたのも……女の子にモテたかったからだ……」
「ビンタされて死んだのも……モテようとしたからだ……」
彼は窓ガラスに映る自分を見つめる。
「神様は、オレの『モテたい』って願いを叶えてくれたんだ。でも……方向性がおかしい!」
「こんな、一人の幼馴染に人生握られるなんて……」
「オレは……オレはもっと……自由にモテたいんだ……!」
コウタは拳を窓枠に打ちつける。
「だからよ、セシリア!」
彼は大声で叫ぶ。
「オレはこれからも、モテモテチートとして生きる!」
「お前が握ってるとか、そういうんじゃねえ!」
「オレは……オレ自身で……カッコよくモテてやる!」
***
ドアの向こう、廊下に立つセシリアが、そっと目を閉じる。
(……また、独り言ですか)
彼女はドアに背を預け、天井を見上げる。
(……バチェラー……モテモテ……)
セシリアの口元が、ほのかに緩む。
(……そうですね。あなたは、もっと自由に、たくさんの人に愛されるべき人です)
彼女はそっと胸に手を当てる。
(でも……)
(私があなたを『一番』に思っている限り……)
(このチートは、あなたを私のもとに引き寄せ続けるでしょう)
セシリアは目を開け、静かに歩き出す。
(……それでもいいです)
彼女の部屋に戻り、窓の外の星を見つめながら、セシリアは呟く。
(あなたが『モテモテチート』だと思うなら……)
(そのまま、思っていてください)
(だって……)
彼女は、誰にも聞こえない声で付け加える。
(最終的に、あなたを一番『モテさせて』あげられるのは、私ですから)
月明かりが、セシリアの銀髪を優しく包む。
彼女の微笑みは、深く、静かで……そして、どこか寂しげだった。
***
部屋の中、コウタは再び布団にもぐり込む。
「……よし。明日から本気だ。」
彼は拳を握りしめる。
「セシリアのことも……もちろん大事だけど……」
「オレはオレの道をいく!」
「モテモテチートとして……カッコよく生きてやる!」
コウタは目を閉じる。
彼は知らない。
この決意が、皮肉にも「セシリアへの執着」をさらに深めることになることを。
逃げようとすれば逃げるほど、縛りが強くなることを。
でも、それでいい。
これが、コウタという男の、等身大の生き方なのだから。
(覚悟・決意編・了)
次回:「モテモテ宣言! 俺は今日から街のアイドルだ!」
(翌日・街の広場)
「ふん! アイドル? 韓流イケメン細マッチョだぜえ!」
コウタは広場の噴水の上に立ち、街行く人々に宣言した。手にはどこからか調達したマイク(ただの拡声器)。
「聞け、街の女の子たち! オレ、コウタは今日から新たなるステージに立つ!」
数人の主婦が好奇の目で見つめる。子どもたちが指さして笑う。
「まずはこのルックスからだ!」
コウタはポーズを決める。
「韓流イケメン……ってわけにはいかねえが、オレなりのイケメン路線を開拓する! 細マッチョ……いや、筋肉はないが筋は通す男だ!」
セシリアが遠くから無表情でパンをかじりながら観察している。
「第一ステップ! ファッション革命だ!」
コウタはガバッと上着を脱ぎ捨てる──が、下はいつものボロボロのシャツ。
「うっ……これは作戦の一部だ! これから変身する瞬間を見せるのが、韓流ドラマ的ってやつだ!」
***
(衣装屋にて)
「おっちゃん! 韓流イケメンみたいな服、くれ!」
「うちは普通の作業服しかないんだが……」
「それでいい! オレが着れば、それがトレンドになる!」
コウタは迷彩パターンの作業服を買い、さっそく着替える。
鏡の前に立つ。
「……なんか、ただの工事現場のおっさんだな」
「だから言っただろ」
「ちっ! ファッションは気合だ! 次はヘアスタイル!」
***
(床屋にて)
「韓流風にしてください!」
「はあ……この辺りの若い子はみんなセシリアさんみたいな銀髪に染めたがるけど、あなたは?」
「銀髪……セシリア……いや! オレはオレの道を行く! ……でもちょっとだけ、前髪を……」
出来上がったヘアスタイルは、なぜか十年前の不良少年風。
「……これ、韓流ってよりヤンキーじゃねえか?」
「若さってやつだ! よし、次はエクササイズ!」
***
(街の訓練場)
「細マッチョになるためには……まずは細くならなきゃ! ……って、オレもう細いか」
コウタが懸垂に挑戦する。一回、二回……三回目で力尽きる。
「ぐっ……韓流イケメンは……こんなに……筋肉ない……はず……」
エリカが訓練に来ていて、心配そうに近づく。
「コ、コウタさん? 大丈夫ですか? また変なこと始めているのですか?」
「エリカ! ちょうどよかった! オレ、細マッチョになるから、見ててくれ!」
「は、はい……?」
コウタが腕立て伏せを始めるが、五回でぐったり。
「はあ……はあ……これが……韓流的……苦悩の美……」
「それ、ただの運動不足では……」
***
(夕方・広場にて再び)
変身(?)を終えたコウタが、再び噴水の上に立つ。
作業服、古いヘアスタイル、汗だく。周囲の視線はますます冷たい。
「ふん……見ろ、これがオレの新たな姿だ! 韓流イケメン細マッチョ……略して韓細スタイルだ!」
誰も拍手しない。子どもたちですら飽きて帰り始めている。
「……ちっ。みんな目が肥えてるな。でもな!」
コウタはマイク(拡声器)を握りしめる。
「オレには……モテモテチートがある! このカッコよさが理解できないなんて、みんなまだまだだぜ!」
その時、セシリアが静かに近づいてくる。手には新しいパン。
「……韓細スタイル?」
「お、セシリア! どうだ? カッコいいだろ?」
「…………」
セシリアはコウタをじっと見つめ、ゆっくりと口を開く。
「……とても、あなたらしいです」
「おお! ほら聞いたか、みんな! セシリアが認めた!」
「ええ。あなたが無理して誰かになろうとするのではなく……あなた自身でいようとする姿は」
セシリアが一歩近づき、小声で付け加える。
「いつもより、少しだけマシに見えます」
「……褒めてるのか? けなしてるのか?」
セシリアは無言でパンを一口かじり、コウタに残りを差し出す。
「食べますか? あなた、今日一日バカみたいに動き回っていましたから」
「……ああ。ありがとな」
コウタは噴水から降り、パンを受け取る。がつがつ食べ始める。
「……でもな、セシリア。オレ、やっぱりモテたいんだ」
「わかっています」
「広く、浅く、たくさんの女の子に笑顔で囲まれて……」
「ええ。夢は大事です」
セシリアはコウタの乱れた前髪を、そっと直す。
「それでいいんです。あなたがそうありたいなら」
「……お前、なんでそんなにオレに優しいんだ?」
「……さあ?」
セシリアは振り返らず、歩き出す。
「さあ、帰りましょう。あなたの『韓細スタイル』、明日からも続けるのですか?」
「ああ! まだまだ改良するぜ! 次はもっと……」
「はいはい。まずはお風呂に入りましょう。汗臭いです」
コウタはセシリアの後を追いかけながら、ふと気づく。
(あれ……結局、オレの「変身」、セシリア以外の誰にも響いてねえじゃん……)
(てか、セシリアにパンくれて髪直してもらって……これ、完全にお世話されてるだけじゃ……?)
彼は足を止め、叫ぶ。
「セシリア! 次こそはな! オレ、絶対にモテてやるからな!」
「ええ。楽しみにしています」
セシリアは振り返らず、手を軽く振る。
(……あなたがどんなに変わろうとも)
(私が見るあなたは、いつも同じですから)
夕日が、変身に失敗した韓流志望者と、彼を優しく見守る幼馴染の背中を、長く照らし出していた。
(韓細スタイル・完全敗北編)
今回のプロンプト
俺はカッコイイ男だから説明してやるぜえ
セシリアにもてるとパワーアップするんだせぇ
カッコイイだろ
上手くなんかえいないけどモテモテチートだぜぇ
セシリアにおれがふつうのことを言うぜ
女の子は本来モテモテの男が好きなんだぜ
バチェラーとかあるだろ
だから俺はモテモテチートなんだぜえ
アイドル?韓流イケメン細マッチョだぜえ




