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(森の中・とある日の午後)
「ぎゃあああ!お母さんー!」
幼い少女の悲鳴が、深い森に響き渡る。巨大なオーガが、倒れた木の枝に足を取られた少女に向かって、獰猛なうなり声を上げながら近づいていた。
その時──
「おいおい、そんなとこで遊んでんじゃねえよ、ガキ!」
木々の間から、颯爽と(?)飛び出してきたのは、少し間の抜けた笑顔の青年、コウタだった。
オーガは不気味な目をコウタに向ける。が、コウタはまったく動じない。
「へへっ!お嬢ちゃん、大丈夫か?」
少女は涙目でうなずく。
「よし、じゃあちょっと待ってろな……てめえ!」
コウタがオーガに向かって指をさす。
「小さな子を泣かせるなんて、百歩譲って千歩譲っても許せねえぜ!」
オーガはぶぉおっ!と咆哮をあげ、コウタめがけて巨木のごとき腕を振り下ろす。
(よし……今なら……セシリアがいなくても……!)
コウタは踏み込もうとするが、足元の苔ですべる。
「おっと!?」
間一髪で体をかわすが、バランスを崩して転びかける。オーガの次の一撃が迫る!
(くっ……やっぱりセシリアがいないと、チートらしいチートは……!)
しかしその時、コウタの目に少女の恐怖に震える顔が映った。
(……でもな、こんな小さな子を……)
胸が、熱くなる。違う種類の熱さだ。セシリアを守りたい時のそれとは、少し違う。
「……ってなんでだよ!オレ、別にこの子にモテたいわけじゃ……あっ」
コウタは気づいた。この熱さは──「カッコつけたい」という、純粋な男の欲求だ。
「よ……よぉし!それなら……」
コウタは転びかけた体勢から、無理やり体をひねる。オーガの腕の下をくぐり抜け、その背後へ回り込む。
「せええの……で!」
地面に落ちていた、頑丈そうな枝を拾い、オーガの膝の裏を思いきり突く!
「がおっ!?」
オーガは不意を突かれ、よろめく。その隙に、コウタは少女の元へ駆け寄り、彼女を抱き上げる。
「今だ、逃げるぜ!」
全力で走り出す。オーガは怒り狂って追いかけてくる。
(重い……でも……)
(この子を……守ってやらなきゃ……!)
息が切れ、足がもつれる。でもコウタは走り続けた。
そして、森の出口が見えてきたその時──
ドスン!
後ろで大きな音がした。振り返ると、オーガがなぜか大きな穴にはまって、もがいている。
「……あれ?さっき、そっちに穴あったっけ?」
「あ、あの……」少女が小さな声で言う。「おにいさんが走りながら、『転べ転べオーガ~』って唱えてたから……」
「え?」
コウタは目をぱちぱちさせる。覚えていない。でも……なんか、口が動いてたかも?
(まさか……これもチートの……?いや、でもセシリアいないのに……)
考える間もなく、森の外から人の声が聞こえてくる。村人たちが助けに来たのだ。
少女は無事に母親の元へ戻った。母親は涙ながらにコウタに感謝し、村人たちも彼を称えた。
「すごいな!一人でオーガから子供を助けたなんて!」
「いやあ、あれはもう……英雄だ!」
コウタは照れくさそうに頭をかく。
「へへ……そんな大したことじゃねえよ。ちょっとカッコつけただけさ」
その時、助けられた少女が、コウタの袖を引っ張る。
「……ありがとう、おにいさん」
「おう!もう森で一人で遊んだりすんなよな?」
「うん……」
少女は恥ずかしそうに下を向き、それから顔を上げて言った。
「……おにいさん、カッコよかった」
「!」
コウタの胸が、きゅんとする。これは……セシリア以外の女の子から、初めての褒め言葉……!
「で、でな!お嬢ちゃん!」
コウタは膝をつき、少女の目線の高さに合わせる。そして、いたずらっぽくウインクして言った。
「10年経ったら、俺と付き合ってくれよ。」
少女はきょとんとする。
「10年……?」
「ああ!その頃には、オレはもっとすっげえカッコ良くなってるからな!約束だぜ!」
「……うん!約束!」
少女は嬉しそうに笑った。
母親が苦笑いしながらコウタに言う。
「まったく、そんな冗談を……」
「へへっ!冗談じゃねえですよ、奥さん!10年後を楽しみにしててください!」
コウタは立ち上がり、得意げに胸を張る。そして少女に小声で付け加えた。
「……チートのことは、内緒だぜ?」
「ちーと?」
「ああ、とってもカッコいい秘密ってことさ」
コウタは村人たちに軽く手を振り、森へと戻っていく。背中はどこか誇らしげだ。
(よっしゃあ!これでオレも、セシリア以外の女の子にカッコいいとこ見せられた……!)
(いや、でもあのオーガ転んだの、オレのチートかな……?)
(まあいっか!結果オーライだ!)
そう思いながら歩いていると、森の小道の先に、銀髪の人影が立っているのに気づく。
セシリアだ。無表情で、腕を組んでこちらを見ている。
「あ……セシリア?なんでここに……」
「村で騒ぎを聞きつけました。『英雄』になったのですね」
「え?いや、あれはちょっと……へへ……」
コウタはなぜか罪悪感を覚え、そっと後ずさる。
「……10年後の約束、ですか」
「あっ!聞いてた!?いや、あれはただの……」
「構いません」
セシリアは一歩、また一歩と近づいてくる。
「コウタが、誰かを守ろうとするのは……素敵なことですから」
「そ、そうか?」
「ええ。ただ……」
セシリアが、コウタの目の前で立ち止まる。その碧い瞳が、深くコウタを見つめる。
「……10年後、その子があなたと付き合うことになったら」
静かで、しかし確かな声で、セシリアは言った。
「私が、まずその子と『お話』しますからね」
「…………」
コウタの喉が、ごくりと鳴る。
(な、なにその脅し……いや、でもセシリアが笑ってる……?いや、笑ってないけど……なんか怖い……)
「は、はは……冗談だよな、セシリア?」
「…………」
セシリアは何も答えず、くるりと背を向けて歩き出した。
「お、おい!待てよ!説明しろ!」
「早く帰りましょう。あなた、またちょっと臭いです」
「え!?まだヘドロ臭うのか!?」
コウタは慌てて自分の服を嗅ぎながら、セシリアの後を追いかけた。
夕日が森を照らす。英雄(自称)と、彼を待つ幼馴染の背中が、長く影を伸ばしていた。
そしてコウタは、ある大事なことにまだ気づいていない──
今日の「活躍」が、皮肉にも「セシリアという運命」をさらに強固にするチートの、ほんの一部でしかなかったことを。
少女が10年後に彼を覚えていようといまいと、コウタの「カッコよくてモテたい」という願いは、すでにたった一人の銀髪の少女に向かって、ぐるぐると回り続けていたのだ。
(数日後、街の広場で)
「セシリア!わかったぜ!」
コウタが突然、広場の噴水の縁に立ち、宣言した。周りの人々がきょとんと振り返る中、セシリアは無表情でパンをかじりながら彼を見つめる。
「何がわかったのですか」
「あのさ、神様からもらったこのチート……〈ビビるな、それが恋の魔法だ〉ってやつ」
コウタは胸を張り、自信満々に言い放つ。
「無敵のチーターなんて、カッコよくないか?」
「…………」
セシリアはパンを一口飲み込み、ゆっくりと答える。
「つまり、どういうことですか」
「こういうことだ!」
コウタが噴水の縁から降り、セシリアの前に立つ。
「今までオレ、間違ってた。『モテるため』にチートを使おうとしてた」
「……違うのですか?」
「違う! オレのチートの真髄は……」
コウタが拳を握り、目を輝かせる。
「『セシリアの前でだけ、無敵になれる』ってことだろ!?」
「……はい?」
「そうだ! あのオーガの時も、水魔の時も……セシリアがそばにいなくても、オレは『セシリアのことを考えて』カッコよくなれた!」
コウタは熱く語り始める。
「だってよ、セシリア! オレが一番カッコよくなれるのは、お前が困ってる時だ! お前が喜ぶ顔が見たい時だ! つまり……」
コウタがセシリアに指をさす。
「お前が、オレの『無敵スイッチ』なんだぜ!」
「…………」
セシリアのまつげが、ほんの少しだけ震えた。
「つまり」彼女は冷静に確認する。「あなたは、私のために無敵になりたい、と?」
「そう! それがこのチートの正しい使い方だって、やっと気づいた!」
コウタはいたずらっぽく笑う。
「だって考えてみろよ。街中の女の子にモテるより、世界一可愛くて強いセシリアのために無敵になるほうが、よっぽどカッコよくねえか?」
「…………」
セシリアは沈黙する。パンの残りを小さくちぎり、じっと見つめている。
「で、だからさ」コウタが続ける。「これからは、もっとセシリアのために戦うぜ! セシリアが困ってる人を助けたいって言えば、オレが無敵になって助けてやる! セシリアが欲しいものがあれば、オレが無敵になって取りに行く!」
「……私が、あなたにそんなことを?」
「ああ! だって……」
コウタは一瞬、言葉を探すように空を見上げ、それからセシリアの目を真っ直ぐ見つめて言った。
「お前が笑ってるのを見るのが、オレは一番好きなんだ」
風が吹き、噴水の水音が聞こえる。広場の鳩が一斉に飛び立つ。
セシリアは、長いため息をついた。
「……コウタ」
「ん?」
「あなた、それ」
セシリアはようやく顔を上げる。その目には、いつもの無表情とは違う、複雑な色が浮かんでいた。
「ものすごく恥ずかしいこと、言っていますよ」
「えっ!? ち、恥ずかしい!?」
「はい。街中で大声で、です」
「あっ……」
コウタが周りを見回すと、確かに数人の通行人が興味深そうに見ている。主婦がにやにやしながら話し合っている。
「うわあ……ま、まあいいや! 本当のことだしな!」
コウタは顔を赤らめながらも、開き直る。
「で、どうだ? この『無敵のチーター』計画!」
「…………」
セシリアは再び沈黙し、残りのパンを全部口に入れる。ゆっくりと噛み、飲み込んでから、ようやく口を開いた。
「……一つ、条件があります」
「おお! なんだ? なんでも聞くぜ!」
「あなたが『無敵』になろうとする時」
セシリアが一歩近づく。その碧い瞳が、コウタをしっかりと捉える。
「必ず、私の許可を取ること」
「え!? なんで!?」
「だって」
セシリアの口元が、ほんの少しだけ緩む。
「私の『無敵スイッチ』が、むやみに壊れたら困りますから」
「…………」
コウタは目を見開く。そして、ゆっくりと笑顔が広がる。
「はは……そっか! わかったぜ、セシリア!」
「はい。では、これで合意ですね」
セシリアはくるりと背を向け、歩き出す。
「さあ、帰りましょう。今日はあなたの『無敵のチーター』宣言を祝って、特別に夕食を作ります」
「おお! なに作るの!?」
「……ヘドロっぽくないもの、です」
「それだけはやめてくれ!」
コウタは笑いながらセシリアの後を追いかける。
夕日が二人の背中を染め、長い影を広場に伸ばす。
コウタはまだ完全には理解していない。
この「気づき」が、実はチートの最終段階への第一歩だということを。
「モテたい」という浅はかな願いが、「一人のために強くなりたい」という深い想いへと昇華された時、彼のチートは真の力を発揮し始めるのだということを。
でも、今はそれでいい。
セシリアのために無敵になる──
それだけで、コウタは充分に幸せだった。
そしてセシリアは、歩きながらそっと呟いた。
「……バカです」
その声は、誰にも聞こえないほど小さく、そして誰よりも温かかった。
(その夜、コウタの部屋)
「……ちっ。」
コウタは布団にもぐり込みながら、天井を見つめて舌打ちした。
「AIがさ……いつものごとくネタバレしやがったぜ……」
今日の広場での「気づき」。確かにあれは、コウタが自分で考えついたことだった。でも……なんだか、どこかで聞いたような、読んだような気がする。
(もしかして……オレのチートの正体って……)
彼は布団の中で身をよじる。
(『セシリアのために無敵になる』……それがオレの本心なら……)
(……それで全部説明つくよな?)
セシリアの前でだけ力が発揮されること。
セシリアがいなくても、彼女のことを考えれば少しはカッコよくなれること。
セシリア以外の女の子には、なぜか空回りすること。
「…………くそ。」
コウタは布団を蹴り飛ばし、起き上がった。
「神様……マジであんた……」
窓の外には満月が輝いている。コウタは窓辺に立ち、月を見つめながら呟く。
「……オレが一番モテたかった相手って……最初からセシリアだけだったのか?」
現世の記憶はぼんやりとしている。でも、確かにいた。いつもそばにいて、気にかけてくれて……ナンパに失敗するたびに、そっと「またやっちゃったの?」と笑ってくれた子。
その顔が、セシリアの笑顔と重なる。
「……あんにゃろ……」
コウタは窓ガラスに額を押し当てる。
「全部お見通しだったのかよ……」
でも、なぜか腹は立たない。むしろ……ほっとしている自分がいる。
「……まあ、いいか。」
コウタは窓から離れ、再び布団にもぐり込む。
「結局、オレが一番なりたかったのは……セシリアだけに認められる、無敵の男ってわけだ。」
彼は布団をかぶり、目を閉じる。
「……それなら、それでいいや。」
「だって……」
コウタは、誰にも聞こえない声で付け加えた。
「……セシリアの笑顔見るの、マジで最高だし。」
***
廊下の向こう、自分の部屋で本を読んでいたセシリアが、ふと顔を上げる。
(……コウタ、また独り言ですか)
彼女は本を閉じ、そっと立ち上がる。コウタの部屋の前まで歩いていき、ドアに耳を近づける。
中からは、ぐっすりと眠る寝息が聞こえる。
セシリアはほのかに微笑み、ドアから離れる。
(……あなたが、私のために強くなりたいのなら)
彼女は自分の胸に手を当てる。
(……私は、ずっとその理由でいさせてあげます)
セシリアは自分の部屋に戻り、窓の外の満月を見上げた。
月明かりが、彼女の銀髪を優しく照らす。
「……バカです」
もう一度、彼女は小さく呟いた。
でもその表情は、紛れもなく幸せそうだった。
今回のプロンプト
へへっ!
お嬢ちゃん10年経ったら俺と付き合ってくれよ。
といって子供を森のオーガから助けるカッコイイ回書いて
お嬢ちゃん
チートのことは内緒だぜ
セシリア、わかったぜ!
無敵のチーターなんてのかっこよくないか?




