16
16
(訓練場・ある日の午後)
「……てか、ふと思ったんだけど」
コウタは木刀を下ろし、汗をぬぐいながら突然口を開いた。
「オレ……ほぼチート使ってなくね?」
セシリアが水筒を渡す手を止める。
「……どういうことですか」
「いや、だってさ……」
コウタは指を折りながら数え始める。
「①〈ビビるな、それが恋の魔法だ〉:セシリア専用無敵チート」
「でも最近、戦闘はほぼオレの実力だ」
「特訓したからな」
「②スマホチート:アナログ回帰でほぼ不使用」
「体調表示もオフ、学習モードもオフ」
「③神様からのその他特典:……そもそも何ももらってない」
「つまり……」コウタは目を見開く。「オレ、チートほぼ持ってないのと同じじゃね!?」
***
(その夜・神様への緊急要請)
(純白の空間・強制召喚)
「神様ああああ!!」
コウタが純白の空間に放り込まれ、叫ぶ。
「なんでだよ!オレ、チートほとんど使ってないじゃん!」
「これって……チートものラノベとして成立してるのか!?」
神様(相変わらず)が胡坐をかいて、退屈そうにあくびをする。
「またお前か……今度は何だ?」
「チート!オレのチート、ほとんど機能してません!」
「ああ、それか」
神様がからからと笑う。
「お前、ようやく気づいたな」
「え?」
「お前のチート……もうとっくに進化してるんだよ」
「……進化?」
「ああ。初期設定:〈ビビるな、それが恋の魔法だ〉」
「効果:セシリアの前で無敵になれる」
「でもな……」神様がいたずらっぽく笑う。「お前、もう気づいてるだろ?」
「最近、セシリアがいなくても……結構強いってこと」
「……た、確かに」
「峡谷のサンダーバード、一人で倒したろ?」
「魔獣の森の侵攻も、ほぼ一人で阻止した」
「あれ、全部……お前の実力だ」
「……じゃあ、チートは?」
「チートはな……」
神様が虚空に画面を映す。
〈ビビるな、それが恋の魔法だ〉 Ver.3.0
『セシリアに愛されることで、本来の潜在能力が解放される』
「お前のチートの真の姿だ」
「セシリアがお前を愛すれば愛するほど、お前の眠ってた才能が目覚める」
「無敵になるんじゃない。もともと持ってた力が、戻ってくるだけ」
「…………」
「お前はな、現世でもかなりの潜在能力を持ってた」
「でも、ナンパばかりしてて、磨かなかった」
「で、死んで、転生して……セシリアに出会った」
神様がコウタを見つめる。
「セシリアがお前を信じるから、お前は頑張れる」
「セシリアがお前を愛するから、お前は強くなれる」
「それが……お前の『チート』の正体だ」
***
(現実に戻る)
目が覚める。自分の部屋。
コウタは布団の中で、ゆっくりと起き上がる。
「……そう、か」
彼は拳を握る。力がみなぎる。
「チートなんて……最初からいらなかったのか」
「オレが強くなれたのは……全部……」
ドンドン。
「コウタ、起きていますか?」
「ああ、セシリアか」
ドアが開く。セシリアが入ってくる。
「何か悩んでいますか?」
「いや……ちょっと、気づいたことがあって」
コウタはセシリアの目を見つめる。
「オレがここまで強くなれたのは……全部、お前のおかげだな」
「……それは違います。あなたが努力したからです」
「でも、努力するきっかけをくれたのは、お前だ」
「…………」
「チートなんて……もう、どうでもいい」
「だって……」
コウタは笑う。
「お前がいてくれることが、最大のチートだ」
セシリアの頬が、ほのかに赤らむ。
「……バカですね」
「ああ!でもな……」
コウタは立ち上がり、窓を開ける。
朝日が差し込む。
「今日からは……チートなしでいこう」
「アナログで、自分の力だけで」
「お前と一緒に、強くなっていく」
「……はい」
「それで……いいか?」
「もちろんです」
スマホは机の上。もう、いらない。
〈ビビるな、それが恋の魔法だ〉も、もう発動しないかもしれない。
でも、それでいい。
だって……
本当の『チート』は──
ずっと前から、彼のそばにいたのだから。
(チート不要・真の力編)
(訓練場・数日後)
「……ちっ。」
コウタは木刀を地面に突き刺し、深いため息をついた。
「アイデンティティの消失を感じたぜ……」
セシリアが水筒を差し出す手を止める。
「……どういうことですか」
「だってよ、よく考えてみろ」
コウタは熱く語り始める。
「オレ、最初はな……『モテモテチート』が欲しかった!」
「異世界転生して、チートで女の子にモテまくりたいって!」
「それが……この物語の前提だったぜ!」
「…………」
「でも今?チートほぼ不使用!アナログ回帰!真の力!」
「これって……」
コウタは目を見開く。
「よくあるなろう系のテーマを、全否定してねえか!?」
***
(街の酒場・その夜)
「聞けよ、みんな!」
コウタは酒を片手に、冒険者仲間に訴える。
「普通のなろう系ならさ……」
「転生 → チートGET → モテモテ → ハーレム → 人生逆転!」
「これが定番だろ!?」
「あ、ああ……そうだな」
「コウタ、また変なこと言い出した」
「でもオレはどうだ!?」
コウタはグラスをバン!と置く。
「転生 → チートGET(けどセシリア専用)→ モテ失敗連発 → チートほぼ不使用 → アナログ回帰」
「これ……逆張りすぎじゃねえか!?」
エルフの弓使いが首をかしげる。
「……それが悪いことか?」
「悪くはねえけど……アイデンティティが!」
ドワーフの戦士が大笑いする。
「ははは!お前らしいじゃねえか!王道なんて糞食らえだ!」
「そうじゃねえ!オレは……オレは……」
人間の魔法使いが冷静に分析する。
「つまり……あなたは『チートもの主人公』としての自覚を持っていたが、実際はそうならなかった。そのギャップに悩んでいる」
「そ、それだ!」
***
(帰り道)
「……わかんねえな、セシリア」
コウタは星空を見上げながら歩く。
「オレ……なんだったんだろうな」
「『モテたい』って願ってたのに……」
「結局、セシリア一人だ」
「チート欲しかったのに……結局、自分の力で強くなった」
「……後悔ですか」
「違う。後悔じゃねえ……」
コウタは足を止める。
「……喪失感だ」
「…………」
「オレがオレじゃなくなる……そんな気がする」
「最初に願ったこと……目指してたもの……全部、変わっちまった」
長い沈黙が流れる。
セシリアがそっとコウタの手を取る。
「……変わったのは、悪いことですか」
「え?」
「あなたは……『モテたい』と願いました」
「でも、本当に欲しかったのは……」
セシリアの目が、星のように輝く。
「私に、愛されることではなかったのですか?」
「…………」
「チートが欲しかった……」
「でも、本当に欲しかったのは……自分自身の価値を認めてほしかったのでは?」
コウタは息を呑む。
「最初の願いと、今のあなた……矛盾しているようで、実は……」
セシリアがかすかに笑う。
「繋がっているんですよ」
「…………」
「『モテたい』も『強くなりたい』も……全部……」
「『私に認められたい』の、別の形だったのでは?」
***
(その夜・コウタの部屋)
コウタは一人、窓辺に立つ。
(……そう、か)
月明かりが部屋を照らす。
(オレが願ってたこと……全部……)
(……セシリアに、認められるため……?)
彼は拳を握る。
(なら……アイデンティティは失ってねえ)
(むしろ……)
(ずっと前から、同じものを見つめてた……?)
***
(翌朝・訓練場)
「セシリア!」
「はい」
コウタは木刀を構え、宣言する。
「オレ……わかったぜ!」
「何がですか」
「オレのアイデンティティは……変わってねえってことだ!」
「……どういう?」
「最初から最後まで……オレが欲しかったのは……」
コウタはセシリアを真っ直ぐ見つめる。
「お前に、カッコいいとこ見せて、認められることだ!」
「……それは」
「モテモテチートも、ハーレムも、全部……その手段に過ぎなかった」
「本当の目的は……いつも一つだった」
セシリアの目が、かすかに潤む。
「……バカですね」
「ああ!このバカで、ずっといるぜ!」
コウタは木刀を振り上げる。
「でもな……この物語がなろう系の定番を否定してようが……」
「逆張りしてようが……」
「オレらしく生きるだけだ!」
「……はい」
「これからも……お前がいてくれる限り……」
「オレはオレでいられる」
風が吹き、木々が揺れる。
王道を否定しようが。
チートを捨てようが。
モテモテから遠ざかろうが。
それでいい。
なぜなら──
この物語は、
『なろう系の定番』なんかじゃない。
ただの、
『コウタとセシリアの、等身大の物語』
なんだから。
(アイデンティティ再発見・等身大編)
(訓練場・数日後)
「……真の力って言われるとさ」
コウタは木刀をぶんぶん振りながら、突然夢見るような目をした。
「やっぱり……覚醒モードに憧れるぜ!」
セシリアが水筒を差し出す手を止める。
「……覚醒モード?」
「ああ!あのね、セシリア!」
コウタは熱く語り始める。
「目がギラギラ光って、髪が逆立って、周りにオーラがまとわるやつ!」
「『これが……オレの真の力だあああ!』って叫んで、急に強くなる!」
「これぞ、チートものの醍醐味だろ!?」
セシリアは一瞬考え込む。
「……確かに、見た目は派手ですね」
「だろ!?オレも一度くらい、ああなりてえ!」
「でも、あなたのチートは……」
「もう進化したって言うけど!まだ何か隠れてるかもだぜ!」
コウタは拳を握りしめ、目を輝かせる。
「もしかしたら……オレ、限界突破できるかも!」
「隠された潜在能力が、危機に瀕して覚醒するみたいな!」
「ほら、あの時も……」
***
(コウタの妄想・その1)
想像:死闘の末、瀕死のコウタ
セシリア:「コウタ……だめ……!」
コウタ:「(血を吐きながら)ふふ……これが……限界か……」
(体内で何かが砕ける音)
コウタ:「……ちがうな。これが……オレの……始まりだあああ!」
(金髪に変身、オーラ爆発)
現実:ただの木刀の素振り
***
(コウタの妄想・その2)
想像:セシリアが人質に
悪役:「ふはは!この女、殺してやる!」
コウタ:「……やめろ」
悪役:「なに?小さくな」
コウタ:「……やめろって言ってるだろ!!」
(目が赤く光り、周囲の空間が歪む)
悪役:「な、なんだこいつ……!?」
コウタ:「覚悟しろ。これが……オレの覚醒モードだ」
現実:セシリアが無表情で水筒を洗っている
***
(現実に戻る)
「……ちっ。なんか、盛り上がんねえな」
コウタはがっくり肩を落とす。
「現実は……ただの特訓ばっかり」
「覚醒もクソもない」
「……あなた」
「ん?」
「それで、満足できないのですか?」
セシリアが真剣な顔で尋ねる。
「派手な変身も、オーラもない」
「ただ、少しずつ、確実に強くなる」
「それでは……ダメなのですか?」
「……いや、ダメじゃねえけど」
「では?」
コウタは深くため息をつく。
「……憧れちゃうんだよな」
「漫画みたいに、かっこよく変身して……」
「一瞬で敵をなぎ倒して……」
「……そうですか」
セシリアは少し間を置き、そっと言う。
「では、私が見てあげましょう」
「え?」
「あなたの『覚醒モード』を」
「……どうやって?」
「こうです」
セシリアがコウタの前に立ち、両手を上げる。
パン!パン!(手拍子)
「わあ!今、コウタ、目が光りました!」
「えっ!?まじで!?」
「はい!髪も、サラサラと風になびいて……」
「お、おれ……変身してる!?」
「ええ!そして今……『これがオレの真の力だああ!』って叫びました!」
「うおおおお!これがオレの真の力だあああ!」
コウタは思わず叫んでしまう。
「……どうですか?」セシリアが無表情で尋ねる。「満足しましたか?」
「…………」
コウタはしばらく固まっていたが、突然笑い出した。
「ははは!あんた……マジでな!」
「気に入りましたか?」
「ああ!最高の覚醒モードだった!」
彼は木刀を肩に担ぐ。
「でもな……やっぱり」
「はい?」
「本当の『覚醒』は……もっと地味なもんなんだろうな」
「……そう思います」
「少しずつ、強くなる」
「昨日より、今日の方がちょっと上手い」
「そんな積み重ねが……」
コウタは拳を握る。
「いつか……本当の『真の力』になる」
「ええ。それこそが、本物の『覚醒』です」
二人は笑い合う。
派手な変身も、オーラもない。
ただ、汗と努力の毎日。
でも、それでいい。
だって……
本当の『覚醒』は──
派手な光ではなく、静かな成長の中にあるのだから。
(地味覚醒・毎日進化編)
(ある晴れた日・教会の前)
「……ふと思ったんだけど」
コウタは教会の大きな扉を見上げながら、口を開いた。
「もう指輪も渡したし、結婚資金もたまったし……」
セシリアが白いウェディングドレスの裾を軽く持ち上げながら、無表情でうなずく。
「ええ」
「なのに……なんでエンディングいってないんだぜ!」
コウタは突然、教会の階段を駆け上がり、大声で宣言する。
「結婚式エンドにむかうのが一番綺麗なエンディングなんだぜ!」
***
(その日の午後・街中が騒然)
「え!?今日!?」
「コウタさん、突然すぎませんか!?」
「でも、二人なら……うん、いいかも!」
街の住人たちが一斉に動き出す。
エリカ:「ウェディングドレス!私、仕立て屋さんに走ります!」
ミーシャ:「……式の段取りを。ギルドとしても支援します」
ギルド長:「ははは!宴は盛大にやるぞ!」
***
(夕方・教会の準備)
花びらが敷き詰められた通路。街中の花が集められている。
コウタはタキシード(ちょっとサイズが合ってない)を着て、神父の前に立つ。
「あの……神父さん、急ですみません」
「いやいや、若者の純愛ほど美しいものはない」
セシリアがエリカとミーシャに付き添われて現れる。手作りのウェディングドレスが、夕日に照らされて輝く。
「……すごい人だかりです」
「当たり前ですよ!街のみんな、二人のこと応援してますから!」
***
(式の最中)
神父:「コウタさん、この女性を妻とし、富める時も貧しい時も、病める時も健やかな時も、愛し続けますか?」
コウタ:「ああ!もちろんだ!」
神父:「セシリアさん、この男性を夫とし……」
セシリア:「はい。ずっと前から、決めていました」
観客から歓声が上がる。
***
(指輪の交換)
コウタがセシリアの指にはめるのは──あのムーンストーンの指輪。
セシリアがコウタにはめるのは──シンプルな銀の指輪。
「……銀?」
「はい。私が……初めての報酬で買ったものです」
「ずっと……あなたに渡す日を、待っていました」
「…………」
***
(「はい、新郎は花嫁にキスしてもよろしい」)
「よし!きたぜ!」
コウタがセシリアに近づく。が、足がもつれる。
「うわっ!?」
「……大丈夫ですか」
「あ、ああ……いける……!」
もう一度近づく。今度は成功。
「……セシリア」
「はい」
「これで……本当のエンディングだな」
「……ええ」
コウタがセシリアにキスする。
観客から大歓声。花びらが舞う。
***
(式の後・街の広場で宴会)
「かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
コウタとセシリアは祝福に囲まれる。
エリカ:「本当に……おめでとうございます!(泣)」
ミーシャ:「……記念に、写真を撮らせてください」
ギルド長:「ははは!これでやっと落ち着くか!」
***
(夜・新居のベランダ)
二人だけの時間。
「……すごい一日だったな」
「ええ」
「これで……本当にエンディングか」
コウタは夜空を見上げる。
「でもな……ちょっと、寂しくねえか?」
「……寂しい?」
「ああ。だって……これで『おしまい』だぜ」
「物語が終わる」
セシリアは少し考えて、そっとコウタの手を取る。
「……違います」
「え?」
「これは……エンディングじゃありません」
彼女がかすかに笑う。
「新しい章の、始まりです」
「……新しい章?」
「ええ。『結婚した二人の、その後の物語』の」
「…………」
「冒険は続きます」
「喧嘩もするでしょう」
「笑い合う日も、泣く日もある」
「でも……ずっと、一緒」
コウタの目が、少し潤む。
「……そっか」
「はい」
「じゃあ……明日からも……」
「ええ。いつものように、始めましょう」
二人は手をつないだまま、星を見上げる。
教会の鐘が、遠くから聞こえる。
これがエンディングじゃない。
ただの、新しいページをめくる音だ。
(結婚式・新しい章編)
──そして、物語は続く──
今回のプロンプト
てかふと思ったんだけどおれほぼチートつかってなくね?
真の力って言われると、やっぱり覚醒モードに憧れるぜ!
ふと思ったんだけど、もう結婚してるし
なんでエンディングいってないんだぜ!
結婚式エンドにむかうのが一番綺麗なエンディングなんだぜ!




