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(その夜・コウタの部屋)
「……ちっ。」
コウタは布団にもぐり込み、今日の自分を振り返っていた。
「俺は慶次じゃない……」
窓の外の月明かりが、部屋を薄く照らす。
「あんな生活してたら……確実に破滅するぜ」
頭の中で計算が回る。
今日だけで使い切った金額。
孤児院への寄付は良かったが、魚や野菜の浪費。
明日からの生活費──ゼロ。
「はあ……マジでどうすりゃいいんだ……」
ドンドン。
「……入りますよ」
セシリアがパジャマ姿で部屋に入ってくる。手には帳簿と小さな袋。
「まだ起きていましたか」
「ああ……ちょっと考え事してて」
「今日の支出の計算ですか」
セシリアは机の前に座り、帳簿を広げる。
「今日の総支出:Sランク任務賞金全額」
「内訳:指輪代(95%)、食料品浪費(4%)、交通費(1%)」
「現在の所持金:私の貯金を除き、0G」
「…………」
「はい、破滅目前です」
コウタは布団の中でうめく。
「わかってるよ……オレ、バカだった」
「ええ。最高にバカでした」
「でもな、セシリア……」
「はい」
「慶次みたいに……自由に生きてみたかったんだ」
コウタは天井を見つめる。
「常識に縛られず、思いっきり『傾けて』みたかった」
「わかっています」
「で……結局、現実は厳しいってことか」
長い沈黙が流れる。
セシリアがそっと袋を開ける。中から、少しばかりの金貨と銀貨が出てくる。
「……これは?」
「私の貯金です。緊急用に取っておきました」
「えっ!?でも、それはお前の……」
「『二人で、一から築き上げる』と言ったのはあなたです」
セシリアは真剣な目でコウタを見つめる。
「なら、私の貯金も『二人の資金』です」
「…………」
「でも、今回は違います」
セシリアが金貨を一つ、コウタの前に置く。
「これからの資金管理は、私が主導します」
「慶次流は……たまの特別な日にしてください」
「普段は……現実的に生きましょう」
コウタは金貨をじっと見つめる。
「……オレ、ずっと夢ばかり追ってたな」
「ええ」
「お前の現実的な支えがなかったら、とっくに破滅してた」
「その通りです」
「……ごめんな」
「謝る必要はありません」
セシリアが帳簿を閉じる。
「あなたが夢を見る人なら……」
「私は現実を見る人でいればいい」
「そういう役割分担も、ありですよね?」
コウタは布団から起き上がり、セシリアの前に座る。
「……オレ、やっぱり慶次にはなれねえ」
「いいえ」
セシリアがかすかに笑う。
「あなたは、あなたなりの『かぶき』を見つければいい」
「豪快に散財するのでなく……」
「現実の中で、それでも輝く方法を」
「……それができるかな」
「できますよ」
セシリアがコウタの手を取る。
「だって……あなたには、私がついていますから」
「現実を管理する者がいれば、夢見る者も生きていけます」
「……逆に言えば」
「え?」
「オレが夢見るから……お前は現実を見られるのかもな」
コウタはにやりと笑う。
「二人で、一つのバランスをとってる」
「そうかもしれません」
セシリアは立ち上がる。
「では、明日から現実的に行きましょう」
「まずはFランク任務からです」
「えー……またゴブリン退治かよ」
「はい。そして、収入の70%は貯金に回します」
「ちっ……わかったよ」
「では、おやすみなさい」
セシリアが部屋を出ようとする。
「……セシリア」
「はい?」
「……ありがとな。お前がいてくれるから……オレ、破滅せずにいられる」
「……バカです」
ドアが静かに閉まる。
コウタは金貨を手に取り、じっと見つめる。
(慶次にはなれねえ……)
(でもな……)
(慶次より……幸せかもしれねえ)
彼は金貨を握りしめ、布団にもぐり込む。
明日からは現実と向き合う。
でも、時々……たまには……
夢も見させてくれる人がそばにいる。
それで、充分じゃないか。
(現実と夢・バランス編)
(冒険者ギルド・翌朝)
「てか、こんだけ仲良しなんだからさ!」
コウタはFランク任務の紙をビリビリに破り、ギルドの掲示板をバン!と叩いた。
「ギルドFランク、おかしいぜ!」
周囲の冒険者たちが騒然とする中、ミーシャが冷たい視線を送る。
「コウタさん、掲示板破損の賠償金が発生します」
「どうでもいい!おい、ミーシャ!」
「はい」
「オレ、これまでSランク任務クリアしたよな!?」
「……セシリアさんの助力ありきですが、記録上はそうです」
「指輪もセシリアにあげた!全財産はたいた!」
「それは浪費として記録されて……」
「そんだけの実績と愛情があるのに、なんでまだFランクなんだ!?」
コウタは熱く訴える。
「これって……ナーロッパだから爆速チート最強ってやつだろ!?」
「階級なんて形骸化してるんだ!オレはもう……!」
「……もう?」
「結婚資金集めくらいしかやることなくね?」
「…………」
ギルド内が水を打ったように静かになる。
ミーシャの眼鏡がキラリと光る。
「……結婚、ですか」
「あ、ああ!セシリアとはもう……ほら、指輪も……」
「了解しました」
ミーシャが突然、真剣な表情で記録簿を開く。
「では、正式な手続きを」
「え?なに?」
***
(十分後・ギルド長室)
「……ふむ」
ひげ面のギルド長が、コウタとセシリアを交互に見つめる。
「二人とも、覚悟はあるんだな?」
「あ、ああ!」
「…………はい」
セシリアは無表情だが、耳が少し赤い。
「よし!なら特例だ!」
ギルド長が机をバン!と叩く。
「『結婚資金調達・超特急ランクアップ試験』の許可を出す!」
「おおっ!?」
「内容はな……」
ギルド長がにやりと笑う。
「三日間で、Aランク任務を三つクリアだ」
「できたら、一気にAランクに昇格させる」
「報酬も三倍だ!」
「わあっ!そ、それって……」
「ただし」
ギルド長の目が鋭くなる。
「二人だけで行け。パーティーは組むな」
「セシリアさんの助力は認めるが、他の冒険者の助けは一切なし」
「死んだら自己責任だ」
「…………」
「どうだ?やるか?」
コウタはセシリアを見る。彼女は軽くうなずく。
「……やるぜ!」
「よし!じゃあ……」
ギルド長が三枚の任務書を差し出す。
1.「亡霊城塞の浄化」(Aランク)
2.「古代遺跡の守護竜撃退」(Aランク)
3.「魔獣の森の大侵攻阻止」(Aランク)
「全部、三日でな」
「任せとけ!」
***
(三日後・ギルドにて)
「……戻ってきたぜ」
コウタはボロボロの姿で、しかし誇らしげにギルドに戻ってきた。背中には眠っているセシリアを背負っている。
「任務……完了だ……」
ミーシャが記録簿を確認する。
「亡霊城塞:浄化完了。コウタ単独戦闘記録あり」
「古代遺跡:守護竜撃退。セシリア援護、コウタとどめ」
「魔獣の森:侵攻阻止。二人の連携攻撃確認」
「……全て、条件を満たしています」
ギルド長が深くうなずく。
「よし!約束通りだ!」
ガシャン!
コウタの冒険者ランク証が、Fから一気にAへと変わる。
「これで、Aランク冒険者・コウタだ!」
「おめでとうございます」
「で、報酬は?」
ミーシャが計算機をパチパチ叩く。
「Aランク任務報酬三件分:合計 300万ゴールド」
「特例ボーナス:200万ゴールド」
「合計:500万ゴールド」
「おおおっ!結婚資金、一気に貯まったぜ!」
「…………」
背中で、セシリアがもぞもぞ動く。
「……コウタ……」
「おう、起きたか」
「……私、重くないですか」
「軽いぜ。いつもの特訓より楽だ」
セシリアがそっと降りる。彼女も傷だらけだが、満足そうな表情を浮かべている。
「……できましたね」
「ああ。これで……」
コウタはセシリアの手を取る。
「結婚式、あげられるな」
「…………はい」
***
(その夜・街の高台)
二人は結婚資金の入った袋を抱え、街の夜景を見下ろしている。
「……すげえな、オレたち」
「ええ」
「ほんの数ヶ月前まで、Fランクの落ちこぼれだったのに」
「……あなたが頑張ったからです」
「お前もだよ」
コウタはセシリアの肩を抱く。
「これが……ナーロッパの爆速チートか」
「形骸化した階級を、愛の力でぶち破る」
「ふん……悪くねえぜ」
セシリアがそっと袋を覗き込む。
「……本当に、結婚するんですか」
「ああ。指輪もあげたしな」
「……私、料理は下手です」
「オレが覚える」
「掃除も苦手です」
「二人でやればいい」
「……本当に、バカですね」
「ああ。だからお前が好きなんだ」
沈黙が流れる。街の灯りが、二人を優しく照らす。
「……コウタ」
「ん?」
「Aランクになったからって……調子に乗らないでください」
「はは!わかってるよ」
「Fランクの頃の気持ちを忘れずに……」
「ああ。それと……」
コウタはセシリアの顔を真っ直ぐ見つめる。
「どんなにランクが上がっても……」
「お前の目の前では、相変わらずのバカでいるからな」
セシリアは目を細め、かすかに笑う。
「……それでいいです」
ギルドランクはAになった。
でも、二人の関係は──
Fランクの頃から、何一つ変わっていない。
それでいい。
いや、それが一番なんだ。
(爆速昇格・結婚資金GET編)
(高台・その瞬間)
「…………え?」
コウタはセシリアの言葉を数秒間消化できず、目をぱちぱちさせた。
「お、おい……セシリア……」
「はい」
「今……なんて言った?」
「『料理も掃除も苦手です』と言いました」
「サラッと爆弾投下してるぜ!!」
「爆弾ですか?」
「そりゃ爆弾だろ!はじめて聞いたぜ!」
コウタはセシリアの肩を掴んで振る。
「十年以上一緒にいて、今まで一度も聞いたことねえ!」
「言う機会がありませんでした」
「そんなわけあるか!毎日一緒に飯食って、同じ家に住んで……」
「あなたが気づかなかっただけです」
セシリアは淡々と事実を述べる。
「朝食:市販のパンか、街の食堂で買ったもの」
「昼食:冒険者ギルドの食堂」
「夕食:外食か、私が『練習』として作ったもの」
「……あ」
「掃除について:月に一度、専門業者を呼んでいます。あなたは『セシリアがささっとやってくれてるんだな』と思っていただけでしょ?」
「…………」
コウタは記憶をさかのぼる。確かに……。
「でも……たまに、手作りらしき料理も……」
「レシピ本を見ながら、三時間かけて作ったものです。味は……まあまあでしたよね?」
「そ、そういえば……塩辛かったり、甘すぎたり……」
「はい。失敗作ばかりです」
「……ちっ。」
「驚きましたか?」
「驚いたよ!だってお前……なんでもできる完璧超人だと思ってた!」
「そんなはずありません。私は人間です」
セシリアがかすかにため息をつく。
「あなたは私を『理想の幼馴染』として見ていただけです」
「現実の私は……料理も掃除も苦手で、感情表現もへたで……」
「……それでいいんだよ」
コウタが突然言った。
「え?」
「お前が完璧超人じゃなくて……よかった」
コウタは笑い出す。
「だってよ……オレみたいなダメ男と、完璧超人じゃ釣り合わねえだろ?」
「でもな……料理も掃除も苦手で、感情表現もへたで……」
「それなら……オレと一緒だ」
「…………」
「オレだって、戦闘はセシリアに頼りっぱなしだ」
「金の管理もできない」
「計画性なんてまるでない」
コウタはセシリアの手を取る。
「二人とも、できないことだらけだ」
「だから……これから、一緒に覚えていけばいい」
「……覚える?」
「ああ!料理だって、掃除だって!」
「でも……私、不器用です」
「オレもだ!だったら、笑いながら失敗しようぜ!」
コウタはいたずらっぽくウインクする。
「まずは明日から……二人で料理教室に通おう!」
「料、料理教室?」
「ああ!それから掃除の達人に弟子入りだ!」
「それは……大げさでは?」
「ぜんぜん!結婚するなら、家事も二人で分担だ!」
セシリアの目が、少し潤んでいる。
「……本当に、バカですね」
「ああ!でもな……」
コウタは結婚資金の袋を揺らす。
「これだけあれば、料理教室も掃除講座も余裕だろ!」
「……無駄遣いです」
「結婚資金の一部を『家事スキルアップ投資』に回す!これぞ賢い金の使い方だ!」
「……それも無駄遣いに聞こえます」
「細けえことはいいんだ!とにかく……」
コウタはセシリアを抱きしめる。
「お前が完璧じゃなくて……ほんとに……よかった」
「…………」
セシリアはそっとコウタに抱きつき返す。
「私も……あなたがダメ男で……よかった」
「おう!これからも、ずっとダメ同士でいこうぜ!」
「……はい」
街の灯りが、二人の上に優しく降り注ぐ。
料理も掃除も下手くそ。
お金の管理もへた。
計画性なんてまるでない。
でも、それでいい。
なぜなら……
二人でなら、笑いながら失敗できるから。
(欠点開示・それでいい編)
今回のプロンプト
俺は慶次じゃないからそんな生活してたら
破滅するぜ
てかこんだけなかよし何だから、ギルドFランおかしいぜ!やっぱりナーロッパだから爆速チート最強だろ!指輪もあげたし!もう結婚資金集めくらいしかやることなくね?
おいセシリアサラッと爆弾投下してるぜ!
料理と掃除苦手ってはじめて聞いたぜ!




