3-7
三ヶ月後。
冬が訪れた。
王都は、雪に覆われていた。
マルクスは、アリシアの隣で眠っていた。
その時。
「マルクス様...!」
アリシアが、マルクスを揺すった。
「陣痛が...!」
マルクスは、飛び起きた。
「何!?」
「今!?」
「はい...痛い...!」
アリシアが、お腹を押さえている。
マルクスは、慌てて医者を呼んだ。
「誰か! 医者を! 急いで!」
執事が駆けつける。
「すぐに!」
数分後。
医者と助産師が到着した。
「王女様を、分娩室へ!」
アリシアが、分娩室に運ばれる。
マルクスは、外で待つしかなかった。
「頼む...無事でいてくれ...」
祈るように、手を組む。
数時間後。
ティグリスたちも駆けつけた。
「マルクス!」
「大丈夫か!?」
「まだ...生まれてない...」
マルクスは、不安そうだ。
「アリシアが...心配だ...」
ギムリが肩を叩いた。
「大丈夫だ」
「王女様は、強い」
ルーナも微笑む。
「きっと、無事よ」
セリアが祈っている。
「神よ、お守りください」
さらに数時間。
ついに。
赤ちゃんの泣き声が聞こえた。
「オギャー! オギャー!」
マルクスは、立ち上がった。
「今の...!」
扉が開いた。
助産師が現れた。
「おめでとうございます」
「元気な男の子です」
マルクスの目から、涙が溢れた。
「本当か...!」
「はい、母子ともに健康です」
マルクスは、分娩室に飛び込んだ。
アリシアが、ベッドに横たわっていた。
疲れた顔。
だが、幸せそうな笑顔。
腕の中に、小さな赤ちゃん。
「マルクス様...」
アリシアが微笑む。
「私たちの子供です」
マルクスは、赤ちゃんを見た。
小さな顔。
閉じた目。
小さな手。
「俺の...子供...」
マルクスは、涙が止まらなかった。
「前世では...こんな日が来るなんて...」
「思わなかった...」
アリシアが、赤ちゃんをマルクスに渡した。
「抱いてください」
マルクスは、そっと抱き上げた。
温かい。
柔らかい。
命の重み。
「重い...命って、こんなに重いのか...」
赤ちゃんが、目を開けた。
マルクスを見上げる。
「ああ...」
マルクスは、赤ちゃんに語りかけた。
「俺が、お前の父親だ」
「これから、お前を守る」
「どんな危険からも」
「必ず、守る」
赤ちゃんが、小さく笑ったような気がした。
アリシアが聞いた。
「名前は、どうしますか?」
マルクスは、少し考えた。
「エドワード」
「父さんの名前と同じだ」
「エドワード・フォン・グレイウルフ」
アリシアは微笑んだ。
「素敵な名前です」
数日後。
王宮で、エドワードのお披露目が行われた。
大広間には、貴族たちが集まっている。
王エドワード三世が、玉座に座っている。
「本日は」
王が声を上げた。
「我が孫、エドワードの誕生を祝うために」
「皆を集めた」
拍手が、広間を包む。
マルクスは、アリシアと共に前に出た。
アリシアが、赤ちゃんを抱いている。
「これが、我が孫」
王が微笑む。
「エドワード・フォン・グレイウルフ」
「王家の血を引く者だ」
貴族たちが、次々と祝福に訪れる。
「おめでとうございます、侯爵様」
「可愛いお子様ですね」
マルクスは、一人ずつ丁寧に対応した。
「ありがとうございます」
祝宴が始まった。
音楽、食事、踊り。
だが、マルクスは早めに退出した。
「アリシアと、エドワードを休ませないと」
屋敷に戻ると、仲間たちが待っていた。
「マルクス!」
ティグリスが笑顔で迎えた。
「赤ちゃん、見せてくれよ」
アリシアが、エドワードを見せた。
「可愛い...」
ルーナが目を細める。
「本当に、小さいのね」
ギムリが指を差し出した。
エドワードが、その指を掴む。
「おお! 握力あるな!」
「将来、戦士になるぞ、これは」
カミラが微笑む。
「それとも、魔法使いかしら」
アリアが魔法書を閉じた。
「どちらでも、私たちが教えます」
セリアが祈っている。
「神の祝福がありますように」
マルクスは、仲間たちを見た。
「この子の、叔父さん叔母さんだ」
「よろしく頼む」
ティグリスが胸を叩いた。
「任せろ」
「俺たちが、守る」
全員が頷いた。
「当然だ」
その夜。
マルクスは、エドワードを抱いて窓の外を見ていた。
星空が、広がっている。
「エドワード」
マルクスは、息子に語りかけた。
「お前が大きくなる頃には」
「もっと平和な世界になっている」
「俺が、そうする」
「戦争も、悪も、理不尽も」
「全部、なくす」
「お前が、安心して育てる世界を」
「作る」
エドワードが、小さく笑った。
マルクスは微笑んだ。
「前世では、何も残せなかった」
「ただ、働いて、死んだ」
「でも、この世界では違う」
「家族がいる」
「子供がいる」
「未来がある」
マルクスは、星を見上げた。
「これが、俺の新しい人生だ」
「転生して、良かった」
「本当に、良かった」
アリシアが、後ろから抱きついた。
「何を考えているんですか?」
「幸せだなって」
マルクスは答えた。
「お前と、エドワードと」
「仲間たちと」
「この世界で生きられて」
「幸せだ」
アリシアは微笑んだ。
「私も、幸せです」
一年後。
エドワードは、元気に育っていた。
歩き始め、言葉を話し始めた。
「パパ」
「ママ」
マルクスとアリシアは、毎日が幸せだった。
だが、マルクスは冒険者でもある。
ある日。
ティグリスから、テレパシーが届いた。
(マルクス、久しぶりだな)
(ああ、どうした?)
(ギルドから、依頼が来た)
(お前にも、来てほしい)
マルクスは少し考えた。
エドワードは、まだ一歳。
だが、もう安定している。
(わかった。行く)
マルクスは、アリシアに話した。
「少し、出かけてくる」
「依頼ですか?」
「ああ」
マルクスは頷いた。
「でも、危険なものじゃない」
「すぐに帰ってくる」
アリシアは微笑んだ。
「わかりました」
「エドワードと、待っています」
マルクスは、エドワードを抱き上げた。
「パパ、行ってくるぞ」
「パパ」
エドワードが笑う。
マルクスは、冒険者ギルドに向かった。
六人が、既に待っていた。
「よう、マルクス」
ティグリスが笑った。
「父親の顔してるな」
ギムリも笑っている。
「幸せそうだな」
マルクスは微笑んだ。
「ああ、幸せだ」
「で、依頼は?」
ルーナが依頼書を見せた。
「東の街で、魔物が出現している」
「調査と討伐」
「報酬は、金貨300枚」
カミラが続けた。
「危険度は低い」
「Bランク程度ね」
アリアも頷く。
「私たちなら、余裕です」
セリアが祈っている。
「神の加護がありますように」
マルクスは頷いた。
「では、行こう」
「久しぶりの冒険だ」
七人は、ギルドを出た。
街道を歩く。
「懐かしいな」
ティグリスが呟く。
「こうやって、七人で歩くの」
ギムリも頷く。
「ああ、一年ぶりだ」
ルーナが微笑む。
「でも、まだまだ現役よ」
「私たち、灰色の刃だもの」
カミラも笑った。
「伝説の冒険者集団ね」
アリアが魔法書を開いた。
「レベル77ですからね」
「魔物くらい、余裕です」
セリアが続けた。
「神も、見守ってくださいます」
マルクスは、仲間たちを見た。
「お前たちと冒険できて」
「本当に、良かった」
ティグリスが肩を叩いた。
「何を今更」
「俺たちは、永遠の仲間だ」
全員が頷いた。
「ああ!」
七人は、東の街に向かって歩いた。
新しい冒険が、始まる。
灰色の刃は、まだまだ続く。
父親になっても。
家族ができても。
彼らは、冒険者だ。
民を守り、悪を倒す。
それが、使命だ。
朝日が、七人を照らしている。
十年後。
王都は、さらに発展していた。
街は広がり、人々は豊かになっていた。
マルクスは、執務室で書類を見ていた。
北部の領地からの報告。
順調に発展している。
「良い傾向だ」
その時、扉が開いた。
少年が飛び込んでくる。
「父さん!」
エドワード。
十一歳になった息子。
父親譲りの黒髪。
母親譲りの優しい目。
「どうした?」
「冒険者ギルドに行きたい!」
「俺も、冒険者になりたいんだ!」
マルクスは微笑んだ。
「まだ早い」
「もう少し、訓練してからだ」
「でも!」
エドワードが抗議する。
「父さんは、俺と同じ年で」
「もう冒険してたって!」
「ああ、してた」
マルクスは頷いた。
「でも、危険だった」
「何度も、死にかけた」
「お前には、そんな思いをさせたくない」
エドワードは、不満そうだ。
「でも、俺も強くなりたい」
「父さんみたいに」
マルクスは、息子の頭を撫でた。
「わかった」
「では、ティグリスおじさんに頼もう」
「剣の訓練をしてもらえ」
エドワードの顔が、明るくなった。
「本当!?」
「ああ」
「やった!」
エドワードが飛び跳ねる。
その時、アリシアが入ってきた。
「あら、エドワード」
「また、冒険者の話?」
「うん!」
エドワードが笑う。
「父さんが、訓練させてくれるって!」
アリシアは、マルクスを見た。
少し心配そうだ。
マルクスは微笑んだ。
「大丈夫だ」
「俺たちが、ちゃんと見守る」
アリシアは頷いた。
「わかりました」
「でも、無理はさせないでくださいね」
夕方。
マルクスは、バルコニーに立っていた。
王都の夕景。
平和な街並み。
「十年か...」
マルクスは呟いた。
「あれから、十年」
「魔王を倒してから」
あの後、大きな戦いはなかった。
小さな魔物退治。
盗賊の捕縛。
護衛任務。
平和な依頼ばかり。
「平和だな」
マルクスは微笑んだ。
「俺たちが守った平和だ」
ティグリスが現れた。
「よう、マルクス」
「エドワードから聞いたぜ」
「剣の訓練、頼まれた」
「ああ、頼む」
「任せろ」
ティグリスが笑った。
「お前の息子だ」
「きっと、強くなる」
二人は、夕日を見た。
「なあ、マルクス」
「俺たち、いい人生だったよな」
「ああ」
マルクスは頷いた。
「前世では、考えられなかった」
「仲間、家族、冒険」
「全てを手に入れた」
「転生して、本当に良かった」
ティグリスが肩を叩いた。
「これからも、続くぜ」
「俺たちの物語は」
「ああ」
マルクスは微笑んだ。
「灰色の刃は、永遠だ」
(完)




