3-5
「やった...!」
ティグリスが叫んだ。
「倒したぞ!」
全員が、安堵の息を吐いた。
その瞬間、全員に光が注いだ。
キィン!
『レベルアップ!』
『マルクス レベル71 → レベル72』
『ティグリス レベル68 → レベル69』
『ギムリ レベル65 → レベル66』
『ルーナ レベル62 → レベル63』
『アリア レベル69 → レベル70』
『セリア レベル66 → レベル67』
『カミラ レベル60 → レベル61』
(また上がったな)
ティグリスの声。
(古代の守護者は、強敵だったからね)
アリアが呟く。
キィン!
『パーティー平均レベル: 66.9』
マルクスは、砕けた水晶の破片を拾った。
「これは...凄い魔力だ」
まだ、微かに光っている。
フェリックスが駆け寄ってきた。
「皆さん、大丈夫ですか!?」
「ええ、何とか」
マルクスは頷いた。
「先生、この水晶は?」
「魔力水晶です」
フェリックスが説明した。
「古代文明の技術の結晶」
「膨大な魔力を蓄えることができます」
「これがあれば」
「何百年でも、魔法装置を動かせます」
マルクスは、破片を見つめた。
「凄い技術だな」
「現代では、作れないんですか?」
「はい」
フェリックスは首を振った。
「製法が、失われています」
「古代の技術は」
「我々の想像を超えています」
ギムリが奥の部屋を指差した。
「おい、あそこに何かあるぞ」
全員が、奥の部屋に入った。
石の台座。
その上に、古い本。
「これは...!」
フェリックスが感動で震えている。
「古代の魔法書です!」
「失われた魔法の記録!」
アリアが本を開いた。
古代文字で、びっしりと書かれている。
「読めますか?」
「少しなら...」
アリアは、ゆっくりと読み始めた。
「これは...転移魔法の応用...」
「時空を超える魔法...?」
マルクスが驚いた。
「時空を超える?」
「タイムトラベル?」
「そのようです」
アリアは続けた。
「ただし、理論だけで」
「実際に成功したかは、不明です」
フェリックスが興奮している。
「これは、大発見です!」
「この魔法書を持ち帰れば」
「古代魔法の研究が、飛躍的に進みます!」
マルクスは頷いた。
「持って帰りましょう」
遺跡を出ると、夕日が森を照らしていた。
「今日は、大収穫でした!」
フェリックスが嬉しそうだ。
「魔法書に、水晶の破片」
「そして、遺跡の地図!」
「これで、論文が書けます!」
マルクスは微笑んだ。
「お役に立てて、良かったです」
「いえいえ!」
フェリックスは深々と頭を下げた。
「あなた方のおかげです!」
「守護者が現れた時は」
「死ぬかと思いました!」
ティグリスが笑った。
「まあ、俺たちに任せておけば安心だ」
八人は、王都への帰路についた。
夜になる前に、王都に到着した。
「では、ギルドに報告しましょう」
マルクスが言った。
冒険者ギルド。
フェリックスが、受付で報告する。
「任務、完了しました!」
「『灰色の刃』の皆さんのおかげで」
「無事に、調査を終えました!」
受付嬢が微笑んだ。
「それは良かったです」
「報酬の金貨200枚です」
マルクスは受け取った。
一人当たり、28枚と銀貨57枚。
「それと」
フェリックスが言った。
「私からも、お礼をしたいのですが」
老学者は、小さな袋を差し出した。
「この水晶の破片を、どうぞ」
「私が持っているより」
「あなた方が持っている方が」
「きっと、役立つはずです」
マルクスは受け取った。
青く光る破片。
まだ、魔力を感じる。
「ありがとうございます」
「大切に使います」
フェリックスは微笑んだ。
「いえ、こちらこそ」
「また機会があれば」
「よろしくお願いします」
ギルドを出ると、ティグリスが伸びをした。
「今日も、いい仕事だったな」
ギムリも頷く。
「ああ、平和な依頼だったし」
「マルクスも、無事だった」
ルーナが微笑む。
「アリシアさんも、安心するわね」
マルクスは、水晶の破片を見つめた。
「古代の魔法か...」
「時空を超える魔法...」
カミラが聞いた。
「興味あるの?」
「ああ」
マルクスは頷いた。
「もし、時間を遡れたら」
「前世に戻れるかもしれない」
「戻りたいの?」
アリアが心配そうに聞く。
「いや」
マルクスは首を振った。
「戻りたくはない」
「この世界の方が、遥かにいい」
「ただ、少し思っただけだ」
マルクスは微笑んだ。
「前世の俺に、言ってやりたい」
「諦めるな、って」
「いつか、幸せになれるって」
セリアが祈るように手を組んだ。
「神は、あなたを導いてくださいました」
「この世界へ」
マルクスは空を見上げた。
「ああ、そうだな」
「この世界に来れて」
「本当に、良かった」
屋敷に戻ると、アリシアが玄関で待っていた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
マルクスは、アリシアを抱きしめた。
「無事で、良かった」
アリシアが微笑む。
「今日は、どうでしたか?」
マルクスは、遺跡調査の話をした。
古代の守護者。
魔法書の発見。
水晶の破片。
「素晴らしい冒険でしたね」
アリシアが嬉しそうだ。
「でも、危険はなかったんですか?」
「少しはあった」
マルクスは正直に答えた。
「でも、仲間がいたから」
「無事に帰ってこれた」
二人は、食堂で夕食を取った。
「あ、そうだ」
マルクスは水晶の破片を見せた。
「これ、古代の魔力水晶なんだ」
「綺麗ですね」
アリシアが破片を見つめる。
「青く光って」
「でも、これが何の役に立つんですか?」
「まだ、わからない」
マルクスは答えた。
「でも、いつか役立つ時が来る」
「そんな気がする」
食後、二人はバルコニーに出た。
星空が、広がっている。
「綺麗な星ですね」
アリシアが呟く。
マルクスは、アリシアのお腹に手を当てた。
「赤ちゃん、元気かな」
「ええ」
アリシアは微笑んだ。
「まだ小さいですけど」
「確かに、いますよ」
マルクスの目に、涙が浮かんだ。
「俺、父親になるんだな」
「ええ」
「どんな子になるんだろう」
「あなたに似て」
アリシアが言った。
「強くて、優しい子になりますよ」
「それとも、私に似て」
「おっとりした子かもしれません」
マルクスは笑った。
「どっちでもいい」
「元気に生まれてくれれば」
二人は、しばらく星を見ていた。
穏やかな時間。
幸せな時間。
「マルクス様」
アリシアが小さな声で言った。
「はい」
「もう少し、冒険を控えませんか?」
「心配なんです」
マルクスは、アリシアの手を握った。
「わかった」
「当分は、安全な依頼だけにする」
「それに」
マルクスは微笑んだ。
「赤ちゃんが生まれたら」
「しばらく休暇を取ろう」
「家族との時間を、大切にする」
アリシアは涙を流していた。
「ありがとうございます」
「あなたは、本当に優しい」
二人は、抱き合った。
星空の下、静かな夜。
灰色の刃の団長は。
今は、一人の夫であり。
もうすぐ、父親になる。
翌朝。
マルクスは、執務室で仲間たちを集めた。
「少し、話がある」
六人が座る。
「どうした?」
ティグリスが聞く。
マルクスは深呼吸した。
「当分、危険な依頼は控えようと思う」
「アリシアが妊娠しているし」
「父親としての責任がある」
全員が頷いた。
「当然だ」
ギムリが言った。
「お前には、家族がいる」
「守るべき人たちがいる」
ルーナも微笑んだ。
「私たちも、賛成よ」
「無理はしないで」
カミラが続けた。
「それに、私たちも少し休みたいわ」
「ここ五ヶ月、ずっと戦い続けてたし」
アリアも頷く。
「はい、たまには休息も必要です」
セリアが祈っている。
「神も、休息を勧めておられます」
マルクスは、仲間たちを見渡した。
「ありがとう」
「お前たちがいてくれて」
「本当に、助かる」
ティグリスが笑った。
「何を言ってるんだ」
「俺たちは、家族だろ」
「ああ」
マルクスは微笑んだ。
「家族だ」
「では、これから一ヶ月」
「安全な依頼だけにしよう」
「護衛、調査、配達」
「戦闘の少ないものだけ」
全員が頷いた。
「了解!」
一ヶ月後。
灰色の刃は、穏やかな日々を送っていた。
商人の護衛。
学者の調査補助。
貴族への配達。
どれも、戦闘のない平和な依頼。
「こういう生活も、悪くないな」
ティグリスが呟く。
七人は、王都の酒場で昼食を取っていた。
「ああ」
ギムリも頷く。
「毎日戦うのも、疲れるしな」
ルーナがワインを飲んでいる。
「でも、少し物足りないわね」
「たまには、強敵と戦いたいわ」
カミラが笑った。
「あら、戦闘狂ね」
アリアが魔法書を読んでいる。
「私は、この時間が好きです」
「勉強できますし」
セリアが祈っている。
「平和が、一番です」
マルクスは、窓の外を見ていた。
王都の街並み。
人々が、笑顔で歩いている。
「平和だな」
マルクスは呟いた。
「俺たちが守った平和だ」
「宰相派を倒し」
「闇の教団を壊滅させ」
「盗賊団を捕らえた」
「だから、この平和がある」
ティグリスが肩を叩いた。
「そうだな」
「俺たちの功績だ」
その時、酒場の扉が開いた。
王宮の使者が入ってくる。
「マルクス公爵!」
「お探ししました!」
マルクスは立ち上がった。
「何かあったのか?」
「王が、お呼びです!」
「緊急の用件です!」
マルクスの表情が、引き締まった。
「わかった」
「すぐに行く」
マルクスは仲間たちを見た。
「行こう」
全員が頷いた。
「ああ」
七人は、王宮に向かった。
平和な日々は、終わりを告げた。
王宮。
謁見の間。
王エドワード三世が、深刻な表情で座っていた。
「よく来てくれた、マルクス公爵」
マルクスは膝をつく。
「何があったのですか?」
王は、地図を広げた。
「北部の国境で、異変が起きている」
「隣国ノーザランドが」
「軍を集結させている」
マルクスの目が、鋭くなった。
「戦争の準備ですか?」
「おそらく」
王は頷いた。
「スパイの報告によれば」
「ノーザランドは、五万の兵を集めている」
「我が国への侵攻を企てている」
ティグリスが拳を握った。
「五万...!」
「我が国の軍は?」
「三万だ」
王は苦い顔をした。
「数で劣る」
「それに」
王は続けた。
「ノーザランドには」
「『魔王軍団』がいる」
「魔王軍団?」
マルクスが聞く。
「ああ」
王は説明した。
「魔物を操る軍団だ」
「ドラゴン、ワイバーン、トロール」
「数百匹の魔物を従えている」
「それを率いるのが」
「魔王ヴォルデモート」
ギムリが息を呑んだ。
「魔王...!?」
「そんな奴が、実在するのか!?」
「ああ」
王は頷いた。
「百年に一度現れる」
「災厄の化身だ」
「前回の魔王は」
「三つの国を滅ぼした」
マルクスは、冷静に考えた。
「それで、俺たちに何を?」
王は、マルクスの目を見た。
「頼みがある」
「魔王ヴォルデモートを」
「倒してほしい」
謁見の間に、沈黙が流れた。
「魔王を...倒す...?」
ルーナが呟く。
「無茶な依頼ね」
「だが、他に方法がない」
王は立ち上がった。
「通常の軍では、魔王に勝てない」
「魔物の大群に、圧倒される」
「だが、そなたたちなら」
「Sランク冒険者なら」
「勝てるかもしれない」
カミラが聞いた。
「報酬は?」
「金貨一万枚」
王が答えた。
「それと、侯爵位」
「領地も与える」
アリアが驚く。
「一万枚...!」
セリアも目を見開いている。
「そんな大金...」
マルクスは、少し考えた。
アリシアの顔が浮かんだ。
妊娠している妻。
お腹の中の子供。
危険な任務だ。
死ぬかもしれない。
だが。
「わかりました」
マルクスは頭を下げた。
「引き受けます」
全員が、マルクスを見た。
「マルクス...」
ティグリスが呟く。
「いいのか?」
「ああ」
マルクスは頷いた。
「この国を守るのが」
「俺たちの使命だ」
「それに」
マルクスは仲間たちを見た。
「お前たちがいれば」
「勝てる」
王は、安堵の表情を浮かべた。
「感謝する」
「そなたたちこそ」
「真の英雄だ」
マルクスは立ち上がった。
「魔王の居場所は?」
「北部の国境」
王は地図を指差した。
「ノーザランドの軍の中心に」
「黒い城塞がある」
「そこに、魔王がいる」
ギムリが聞いた。
「いつまでに?」
「一週間後」
王は答えた。
「それまでに、魔王を倒さねば」
「戦争が始まる」
「五万の軍が、国境を越える」
マルクスは頷いた。
「わかりました」
「一週間以内に、倒します」
七人は、王宮を後にした。
外では、雲が空を覆っていた。
「魔王か...」
ティグリスが呟く。
「今までで、最強の敵だな」
「ああ」
マルクスは頷いた。
「でも、やるしかない」
ルーナが不安そうだ。
「本当に、勝てるのかしら」
「勝つさ」
ギムリが拳を鳴らした。
「俺たちは、今まで負けたことがない」
カミラも頷く。
「そうね」
「宰相も、闇の教団も、ドラゴンも」
「全部倒してきた」
「魔王だって、同じよ」
アリアが魔法書を握りしめる。
「私も、全力で戦います」
セリアが祈っている。
「神が、守ってくださいます」
マルクスは、屋敷に向かった。
「まず、アリシアに話さないと」
屋敷に着くと、アリシアが待っていた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
マルクスは、アリシアを抱きしめた。
「話がある」
二人は、執務室に入った。
マルクスは、魔王討伐の任務を説明した。
アリシアの顔が、青ざめた。
「魔王...ですか...」
「ああ」
マルクスは頷いた。
「危険な任務だ」
「でも、やらなければならない」
「この国を、守るために」
アリシアは、涙を流した。
「でも...あなたが死んだら...」
「私は...赤ちゃんは...」
マルクスは、アリシアの頬を拭った。
「大丈夫だ」
「必ず、帰ってくる」
「約束する」
「でも...」
「信じてくれ」
マルクスは、アリシアの目を見た。
「俺は、今まで」
「どんな敵も倒してきた」
「魔王だって、同じだ」
「お前と、子供のために」
「必ず、生きて帰ってくる」
アリシアは、マルクスに抱きついた。
「約束...ですよ...」
「必ず...帰ってきてください...」
「ああ、約束だ」
二人は、長く抱き合っていた。
翌日。
マルクスは、仲間たちと作戦会議を開いた。
「一週間で、魔王を倒す」
地図を広げる。
「北部国境まで、徒歩で三日」
「テレポートなら、一瞬だが」
「敵地の構造がわからない」
「まずは、偵察が必要だ」
ティグリスが聞いた。
「どうやって近づく?」
「テレポートで、国境付近まで」
マルクスは答えた。
「そこから、俺が単独で偵察」
「魔王の城塞を確認する」
「その後、全員で突入」
ギムリが拳を鳴らした。
「いつものパターンだな」
「お前が先に行って」
「俺たちが続く」
ルーナが心配そうだ。
「でも、魔王相手に」
「一人で大丈夫なの?」
「見つかったら、すぐテレポートで逃げる」
マルクスは答えた。
「偵察だけだ」
「戦闘は、全員揃ってからだ」
カミラが資料を見ている。
「魔王ヴォルデモート」
「過去の記録によると」
「炎、雷、闇の魔法を使う」
「それに、魔物を操る能力」
アリアも魔法書を確認している。
「対策は...」
「氷と光の魔法が有効らしいです」
セリアが祈っている。
「神の光が、闇を払います」
マルクスは頷いた。
「では、明日出発する」
「今日は、準備と休息だ」
「装備を整え、魔力を回復させる」
全員が頷いた。
「了解!」
その夜。
マルクスは、アリシアと最後の夜を過ごした。
「明日、出発します」
「はい...」
アリシアは、不安そうだ。
「怖いです」
「あなたが、帰ってこないんじゃないかって」
マルクスは、アリシアを抱きしめた。
「大丈夫だ」
「俺は、強い」
「それに、仲間がいる」
「どんな敵でも、倒せる」
「でも、魔王ですよ...」
「ああ、魔王だ」
マルクスは微笑んだ。
「でも、俺は転生者だ」
「前世の知識がある」
「魔法がある」
「最強の仲間がいる」
「何より」
マルクスは、アリシアのお腹に手を当てた。
「お前と、子供がいる」
「守るべき家族がいる」
「だから、負けない」
「絶対に、生きて帰る」
アリシアは涙を流した。
「信じています」
「あなたを」
二人は、口づけを交わした。
長い、長い口づけ。
「愛してる」
マルクスが呟く。
「私も...愛しています」
アリシアが答える。
その夜、二人は深く愛し合った。
明日から始まる、危険な戦いの前に。
最後の、穏やかな時間を。




