3-3
翌日。
マルクスは、執務室で書類を整理していた。
昨日のドラゴン討伐の報告書。
そして、Sランク昇格の証明書。
「Sランクか...」
マルクスは銀色の徽章を見つめた。
中央に刻まれた、Sの文字。
「ここまで来たんだな」
その時、テレパシーが響いた。
(マルクス、起きてるか?)
ティグリスの声だ。
(ああ、どうした?)
(みんなで、また依頼を受けに行こうって話になってる)
(昨日はドラゴンだったし)
(今日は、もう少し気軽なやつがいいかなって)
マルクスは微笑んだ。
(わかった。すぐに行く)
30分後。
七人は、再び冒険者ギルドに集まっていた。
昨日と同じ、普通の冒険者装備。
「おはようございます」
受付嬢が、笑顔で迎えた。
「昨日は、本当におめでとうございました」
「Sランク昇格、すごいです!」
マルクスは頭を下げた。
「ありがとうございます」
「今日も、依頼を受けに来ました」
受付嬢は、少し驚いた。
「昨日、ドラゴンを倒したばかりなのに」
「もう次の依頼ですか?」
「ええ」
マルクスは頷いた。
「俺たちは、冒険者です」
「休んでいる暇はありません」
ティグリスが笑った。
「まあ、今日はもう少し楽な依頼がいいけどな」
「ドラゴンの後だし」
ギムリも頷く。
「そうだな」
「気軽に倒せる相手がいい」
受付嬢は、依頼書の束を持ってきた。
「では、こちらをご覧ください」
「AランクとBランクの依頼です」
マルクスは、一つずつ見ていく。
『東部の村で、オークの群れ出現。討伐求む。報酬:金貨200枚』
『北部の街で、盗品が盗まれた。犯人捕獲求む。報酬:金貨150枚』
『西部の森で、薬草採取。護衛求む。報酬:金貨100枚』
『南部の山に、盗賊団の砦。壊滅求む。報酬:金貨500枚』
マルクスは、最後の依頼に目を留めた。
「南部の山、盗賊団の砦...」
ティグリスが覗き込む。
「盗賊団か」
「何人くらいいるんだ?」
受付嬢が説明した。
「情報によると、約50人です」
「元傭兵が多く、かなり武装しています」
「村を襲い、物資を略奪しています」
「民衆が、困っています」
マルクスの目が、鋭くなった。
「民衆を苦しめている...」
「それは、許せないな」
ギムリが戦斧を握った。
「盗賊団か」
「ちょうどいい運動になりそうだ」
ルーナが頷く。
「50人なら、私たちなら余裕ね」
カミラも微笑んだ。
「昨日はドラゴン、今日は盗賊団」
「バラエティに富んでるわね」
アリアが少し心配そうだ。
「でも、民間人を襲っているなんて...」
「許せませんね」
セリアが祈るように手を組んだ。
「悪人を裁くのも、神の意志です」
マルクスは、依頼書を取った。
「これにします」
「南部の山、盗賊団討伐」
受付嬢が依頼書を受理する。
「わかりました」
「盗賊団の砦は、南部のロックマウンテンです」
「お気をつけて」
マルクスは頷いた。
「ありがとうございます」
ギルドを出ると、ティグリスが聞いた。
「で、どうやって行く?」
「テレポートか?」
マルクスは首を振った。
「いや、今回は徒歩で行こう」
「え? なんで?」
ギムリが驚く。
「テレポートの方が速いだろ」
マルクスは微笑んだ。
「確かに速い」
「だが、たまには旅を楽しもう」
「冒険者らしく」
「景色を見ながら、のんびりと」
ルーナが笑った。
「それもいいわね」
「最近、テレポートばかりだったし」
カミラも賛成した。
「旅の醍醐味は、道中にあるものね」
「たまには、ゆっくり行きましょう」
アリアも嬉しそうだ。
「はい、私も賛成です」
「景色を楽しみながら」
セリアが微笑んだ。
「神が創りし自然を、感じましょう」
マルクスは全員を見渡した。
「では、決まりだ」
「徒歩で、南部のロックマウンテンへ」
「二日かけて、のんびり行こう」
全員が頷いた。
「了解!」
七人は、王都の南門から出発した。
南への街道。
広い平原が広がっている。
青い空。
白い雲。
遠くに見える山々。
「いい天気だな」
ティグリスが空を見上げた。
「こんなにのんびり歩くの、久しぶりだ」
ギムリも笑っている。
「そうだな」
「最近は、テレポートで一瞬移動ばかりだったからな」
ルーナが草原を見ている。
「花が咲いてるわ」
「綺麗ね」
カミラが深呼吸した。
「空気が美味しいわ」
「王都の埃っぽい空気とは違う」
アリアが魔法書を閉じて、景色を楽しんでいる。
「こういう時間も、大切ですね」
セリアが祈っている。
「神に感謝します」
「この美しい世界を、創ってくださって」
マルクスは、仲間たちを見た。
全員、リラックスしている。
笑顔だ。
「いいな、これ」
マルクスは呟いた。
「前世では、こんな時間なかった」
「毎日、会社と家の往復」
「景色を楽しむ余裕もなかった」
「でも、この世界では違う」
マルクスは空を見上げた。
「仲間と一緒に、冒険する」
「景色を楽しみながら、旅をする」
「これが、本当の人生だ」
アリシアの顔が、頭に浮かんだ。
「妻もいる」
「家族もできる」
「全て、手に入れた」
マルクスは微笑んだ。
「幸せだな」
数時間後。
七人は、小さな村に着いた。
「休憩しようか」
マルクスが提案した。
村の酒場に入る。
「いらっしゃい!」
店主が笑顔で迎えた。
「冒険者さんかい?」
「ええ」
マルクスは頷いた。
「南部のロックマウンテンへ向かっています」
店主の顔が、曇った。
「ロックマウンテン...」
「盗賊団のことかい?」
「ええ、討伐に行きます」
店主は、驚いた顔をした。
「本当かい!?」
「あいつら、本当に酷いんだ!」
「村を襲って、食料を奪っていく!」
「抵抗すれば、殴られる!」
「女や子供も、容赦しない!」
店主の目に、涙が浮かんでいる。
「頼む...奴らを倒してくれ...!」
マルクスは、店主の肩に手を置いた。
「任せてください」
「必ず、倒します」
店主は、マルクスの手を握った。
「ありがとう...!」
「あんたたちは、この村の救世主だ!」
店主は、食事を無料で提供してくれた。
「これは、せめてもの礼だ」
「腹いっぱい食べてくれ!」
七人は、美味しい食事を楽しんだ。
パン、スープ、肉。
「美味いな」
ティグリスが満足そうだ。
「王宮の料理もいいけど」
「こういう素朴な料理も、いいな」
ギムリも頷く。
「そうだな」
「これが、庶民の味だ」
マルクスは、店主を見た。
「ありがとうございます」
「美味しかったです」
店主は涙を流していた。
「頼む...村を救ってくれ...」
マルクスは頷いた。
「必ず」
村を出て、さらに南へ。
夕方になると、七人は森の中で野営した。
焚き火を囲んで、座る。
「明日、砦に着くな」
ティグリスが言った。
「作戦は?」
マルクスは、地図を広げた。
「砦は、山の中腹にある」
「周囲は崖で、正面からしか入れない」
「見張りが、常に数人いるはずだ」
「なら、どうする?」
ギムリが聞く。
「テレポートで、内部に侵入する」
マルクスは答えた。
「まず、俺が単独で偵察」
「砦の構造と、敵の配置を確認」
「その後、全員で突入」
「盗賊を全員捕らえる」
「殺すのか?」
ルーナが聞く。
マルクスは首を振った。
「いや、捕らえる」
「抵抗すれば、倒すが」
「できるだけ、生け捕りにする」
「そして、王都の牢に入れる」
「裁判にかける」
カミラが微笑んだ。
「相変わらず、甘いわね」
「でも、それがあなたの良いところ」
アリアも頷く。
「はい、無駄な殺生は避けるべきです」
セリアが祈っている。
「神もそれを望んでおられます」
マルクスは焚き火を見つめた。
「前世で学んだ」
「法と秩序の大切さを」
「私刑は、最小限にすべきだ」
「できる限り、正式な裁判で裁く」
「それが、文明社会だ」
全員が頷いた。
「了解」
「では、明日」
マルクスは立ち上がった。
「盗賊団を、一網打尽にする」
焚き火の炎が、七人を照らしている。
明日、盗賊団との戦いが始まる。
翌朝。
七人は、ロックマウンテンの麓に到着した。
「あれが、砦か」
マルクスが双眼鏡で見る。
山の中腹に、石造りの砦。
高い壁。
見張り台。
「警備は厳重だな」
ティグリスが呟く。
「見張りが、5人いる」
マルクスは魔力探知を使った。
「砦の中に、45人」
「全員、起きている」
「警戒が高い」
ギムリが拳を鳴らした。
「なら、速攻で叩くか」
「待て」
マルクスは首を振った。
「まず、俺が偵察する」
「砦の構造を確認してから」
「全員で突入する」
マルクスは目を閉じた。
「テレポート」
視界が歪む。
次の瞬間、マルクスは砦の屋根の上にいた。
「成功した...」
マルクスは、そっと中を覗く。
広い中庭。
周囲に部屋。
中央に、大きな男が立っていた。
盗賊団の頭目だろう。
傷だらけの顔。
巨大な斧。
「今日も、村を襲うぞ!」
頭目が叫ぶ。
「女も子供も、全部奪え!」
盗賊たちが、歓声を上げる。
マルクスの目が、冷たく光った。
「許さない...」
マルクスは、仲間たちにテレパシーで伝えた。
(全員、準備しろ)
(突入する)
(了解!)
マルクスは、砦の門を内側からテレキネシスで開けた。
「テレキネシス」
ガチャン。
門が開く。
「何だ!?」
見張りが驚く。
その瞬間、六人が突入した。
ティグリスが剣を振るう。
見張りの武器を弾き飛ばす。
ギムリが戦斧で地面を叩く。
衝撃波が、盗賊たちを吹き飛ばす。
「な、何だ!?」
「敵襲だ!」
盗賊たちが、武器を取る。
だが、遅い。
ルーナの矢が、次々と飛ぶ。
盗賊たちの足を射抜く。
「ぎゃあ!」
動けなくなる。
カミラが素早く動き回る。
短剣で、盗賊たちの腱を切る。
「くそ...!」
次々と倒れていく。
アリアが魔法を放つ。
「ウィンドブラスト!」
強風が、盗賊たちを壁に叩きつける。
セリアが回復魔法の準備をしている。
そして、マルクス。
屋根から飛び降りた。
「テレキネシス」
頭目の体を、魔力で拘束する。
「ぐ...! 何だ、これは!?」
頭目が動けない。
マルクスは冷たく言った。
「お前たちを、逮捕する」
「村を襲った罪で」
「抵抗すれば、容赦しない」
頭目が叫んだ。
「くそ...! 全員、かかれ!」
残りの盗賊、40人が一斉に襲いかかる。
「来たな」
マルクスは手を前に出した。
「テレキネシス」
20人の盗賊が、同時に宙に浮いた。
「な...!?」
そして、一斉に地面に叩きつけられる。
「ぐあ!」
全員、気絶した。
残りは20人。
だが、仲間たちが次々と倒していく。
わずか5分。
50人の盗賊、全員が地面に倒れていた。
「終わった...」
マルクスは周囲を見渡した。
50人の盗賊。
全員、倒れている。
死んではいない。
気絶しているか、負傷して動けない。
「全員、無事か?」
マルクスが確認する。
(無事だ)
(問題ない)
(楽勝だったな)
全員の声が響く。
その瞬間、全員に光が注いだ。
キィン!
『レベルアップ!』
『マルクス レベル70 → レベル71』
『ティグリス レベル67 → レベル68』
『ギムリ レベル64 → レベル65』
『ルーナ レベル61 → レベル62』
『アリア レベル68 → レベル69』
『セリア レベル65 → レベル66』
『カミラ レベル59 → レベル60』
(また上がったな)
ティグリスがテレパシーで言う。
(50人分の経験値だからね)
アリアの声。
キィン!
『パーティー平均レベル: 65.9』
『Sランク冒険者』
「よし」
マルクスは盗賊たちを縛り始めた。
「全員、拘束する」
「王都の牢に送る」
仲間たちも手伝う。
30分後、50人全員が縄で縛られた。
頭目が目を覚ました。
「く...くそ...」
マルクスは冷たく見下ろした。
「お前たちは、村人を苦しめた」
「その罪を、償え」
頭目は、恐怖に震えていた。
「た、助けてくれ...」
「駄目だ」
マルクスは首を振った。
「お前たちは、裁かれる」
マルクスは仲間たちを見た。
「俺が、全員をテレポートで王都に送る」
「お前たちは、ここで待機してくれ」
「了解」
マルクスは、50人の盗賊に手を当てた。
「テレポート」
視界が歪む。
次の瞬間、王都の牢の前。
衛兵が驚いた。
「マ、マルクス公爵!?」
「この者たちを、牢に入れてくれ」
「盗賊団だ」
「は、はい!」




