2-7
翌朝。
王都は、前代未聞の大事件に揺れていた。
「宰相ヴィクター・グレイ、暗殺される!」
「敵国のスパイと密会中に襲撃!」
「二人とも、首の骨を折られて即死!」
街中が騒然としている。
マルクスは、王宮に呼ばれていた。
謁見の間。
王エドワード三世が、玉座に座っている。
その顔には、安堵と驚きが混じっていた。
「よくやった、マルクス殿」
マルクスは膝をつく。
「依頼通り、宰相を始末しました」
「そして、これを」
マルクスは、袋を差し出した。
侍従が受け取り、王に渡す。
王は中身を確認する。
書類の束。
目を通すごとに、顔が険しくなる。
「これは...」
「宰相の30年分の悪事です」
マルクスは答えた。
「敵国との密約、賄賂、暗殺指示」
「全てが記録されています」
王は拳を握りしめた。
「ヴィクター...お前は...」
怒りと悲しみが、王の声に滲む。
「余を、30年も裏切り続けていたのか...」
王は深呼吸して、感情を抑えた。
「マルクス殿」
「はい」
「そなたは、ただの暗殺者ではない」
「真実を暴く者だ」
王は立ち上がった。
「約束通り、報酬を支払う」
侍従が、巨大な箱を運んでくる。
金貨500枚。
「そして」
王は、別の書類を取り出した。
「そなたたち全員を、Aランク冒険者に昇格させる」
「さらに」
王は、金の徽章を差し出した。
「王家直属密偵団『灰色の刃』として、正式に認める」
マルクスは徽章を受け取った。
重厚な金。王家の紋章が刻まれている。
「この徽章を持つ者は」
「余の名において、悪を裁く権限を持つ」
「どんな貴族も、騎士も、商人も」
「悪事を働けば、そなたたちが裁く」
マルクスは頭を下げた。
「光栄です」
「ただし」
王の声が、厳しくなる。
「この力は、諸刃の剣だ」
「間違えば、そなたたち自身が悪になる」
「決して、無実の者を傷つけるな」
「必ず、証拠を集めよ」
「そして、正義のために動け」
マルクスは顔を上げた。
「誓います」
「俺たちは、理不尽を裁くだけです」
「無実の者は傷つけません」
「必ず証拠を集め、悪人だけを狩ります」
王は満足そうに頷いた。
「信じている」
「それと、もう一つ」
王は窓の外を見た。
「この事件で、宰相派の貴族たちが動揺している」
「中には、逃亡を企てる者もいるだろう」
「そなたたちに、追跡を依頼する」
「裏切り者を、一人残らず捕らえよ」
マルクスは頷いた。
「承知しました」
謁見が終わり、マルクスは廊下を歩いていた。
王女アリシアが、待っていた。
「おめでとうございます、マルクス様」
「ありがとうございます」
「これで、あなた方は王国で最も信頼される存在になりました」
アリシアは微笑んだ。
「ただし、敵も増えました」
「敵?」
「ええ」
アリシアは真剣な顔になった。
「宰相派の貴族たち」
「彼らは、あなた方を恨んでいます」
「暗殺を企てるかもしれません」
マルクスは冷静に答えた。
「なら、先に狩るだけです」
アリシアは少し驚いた顔をした。
そして、笑った。
「頼もしいですね」
「それと、父上からの個人的なお願いです」
「何でしょう?」
「私の護衛を、お願いできますか?」
マルクスは考えた。
「王女殿下を?」
「はい」
アリシアは頷いた。
「宰相派の貴族たちは、私を狙うかもしれません」
「父上への復讐として」
「わかりました」
マルクスは即答した。
「俺たちが、守ります」
アリシアは安心した表情を浮かべた。
「ありがとうございます」
宿に戻ると、仲間たちが待っていた。
「どうだった?」
ティグリスが聞いた。
その時、部屋に光が満ちた。
キィィィン、キィィィン、キィィィン...!
『ティグリス レベル35 → レベル39』
『ルーナ レベル29 → レベル33』
『ギムリ レベル32 → レベル36』
『カミラ レベル27 → レベル31』
『セリア レベル33 → レベル37』
『アリア レベル36 → レベル40』
「全員、4レベルも上がった...!」
ティグリスが驚愕の声を上げた。
「これが、宰相討伐の経験値...」
アリアが呆然としている。
「すごい...こんなに力が増すなんて...」
ルーナが自分の手を見つめる。
キィン!
『パーティー平均レベル: 37.4』
『王国最高峰の実力者集団に到達』
マルクスは金の徽章を見せた。
「王家直属密偵団『灰色の刃』」
「正式に認められた」
マルクスは金の徽章を見せた。
「王家直属密偵団『灰色の刃』」
「正式に認められた」
「マジか!」
ギムリが驚く。
「それに、Aランクに昇格」
「金貨500枚も手に入れた」
カミラが微笑んだ。
「私たち、出世したわね」
ルーナも嬉しそうだ。
「Aランクか。夢みたいね」
セリアが祈るように手を組んだ。
「神のご加護のおかげですわ」
アリアは感動で涙ぐんでいた。
「私たち...ここまで来たんですね...」
マルクスは全員を見渡した。
「三ヶ月前、俺は底辺のD級冒険者だった」
「お前たちも、それぞれ訳ありだった」
「でも、今は違う」
「俺たちは、王国で最も信頼される存在だ」
「Aランク冒険者」
「王家直属密偵団」
「ここまで来れたのは、お前たちのおかげだ」
マルクスは深々と頭を下げた。
「ありがとう」
ティグリスが肩を叩いた。
「礼なんていいさ」
「俺たちは仲間だろ」
全員が頷いた。
(仲間だ)
テレパシーの声が、一斉に響く。
マルクスは微笑んだ。
「では、次の作戦に移る」
「王の命令で、宰相派の貴族を追跡する」
「裏切り者を、一人残らず捕らえる」
「それと、王女アリシア様の護衛も担当する」
「忙しくなるぞ」
全員が立ち上がった。
「いいね、忙しい方が燃えるぜ」
ティグリスが笑った。
マルクスは窓の外を見た。
王都の街並み。
「前世では、ただのサラリーマンだった」
「理不尽に耐えるだけの人間だった」
「でも、この世界では違う」
「俺たちは、灰色の刃」
「王の名において、悪を裁く者」
「この世界から、理不尽を消していく」
仲間たちが、マルクスの後ろに並ぶ。
七人。
灰色の刃。
王国最強の密偵団。
新たな戦いが、始まる。
数日後。
マルクスは、宰相派貴族のリストを見ていた。
「12人の貴族が、宰相と繋がっていた」
リストには、名前と罪状が記されている。
『バロン・ハーヴェイ - 賄賂、脱税』
『公爵レオナルド - 領民虐待、密輸』
『伯爵マーカス - 反乱扇動、敵国通謀』
「全員、捕らえるか始末する」
ティグリスが資料を見ている。
「12人か。結構な数だな」
「一人ずつ、確実に仕留める」
マルクスは答えた。
「まずは、最も危険な者から」
マルクスは一つの名前を指差した。
『伯爵マーカス・ブラックウッド』
「こいつだ」
カミラが資料を読み上げる。
「伯爵マーカス、45歳」
「宰相の右腕として働いていた」
「現在、逃亡を企てているとの情報」
「どこに逃げる?」
ルーナが聞いた。
「国境の街、ノースリッジ」
マルクスは地図を指差した。
「そこから、敵国に亡命する予定だ」
「いつ出発する?」
ティグリスが聞いた。
「明日の早朝」
マルクスは答えた。
「馬車で、王都を出る」
「なら、今夜のうちに始末するか?」
「いや」
マルクスは首を振った。
「今回は、生け捕りにする」
全員が驚いた顔をした。
「生け捕り?」
ギムリが聞き返す。
「ああ」
マルクスは説明した。
「王の命令だ」
「伯爵マーカスは、宰相派の中心人物」
「こいつを捕らえて、尋問すれば」
「他の貴族たちの情報が手に入る」
「なるほど」
カミラが理解した。
「じゃあ、どうやって捕まえる?」
マルクスは計画を説明し始めた。
「明日の早朝、伯爵が王都を出る」
「俺たちは、街道で待ち伏せる」
「馬車を襲撃し、伯爵を捕らえる」
「護衛は?」
ティグリスが聞いた。
「10人ほどいるらしい」
「なら、戦闘は避けられないな」
「ああ。だが、今回は力押しだ」
マルクスは言った。
「テレポートで馬車の中に侵入する」
「伯爵を気絶させて、連れ去る」
「その間、お前たちが護衛を足止めする」
「了解」
ティグリスが剣を握った。
「久しぶりの戦闘だな」
ルーナも弓を手に取る。
「任せて」
ギムリが戦斧を磨き始めた。
「10人くらい、余裕だぜ」
アリアが魔法書を開いた。
「私も、全力でサポートします」
セリアが祈るように手を組んだ。
「回復は任せてください」
マルクスは頷いた。
「では、明日の早朝5時に出発する」
「街道の森で、待ち伏せする」
(了解!)
全員の声が、テレパシーで響く。
翌朝。
まだ暗い時間。
マルクスたちは、王都から10キロ離れた街道に潜んでいた。
森の中。
馬車が通る道を見下ろせる位置。
「まもなく来るぞ」
ルーナが双眼鏡で道を見ている。
「見えた。馬車が一台」
遠くから、馬車の音が聞こえてくる。
マルクスは全員に指示を出した。
(ティグリスとギムリは前方を塞げ)
(ルーナは高所から狙撃)
(アリアとセリアは後方支援)
(カミラは護衛の注意を引け)
(了解!)
馬車が近づいてくる。
護衛が10人、馬車を囲んでいる。
全員、剣を持ち、警戒している。
「今だ!」
ティグリスとギムリが、道に飛び出した。
「止まれ!」
馬車が急停止する。
「何者だ!」
護衛が叫ぶ。
「王の命により、伯爵マーカスを逮捕する!」
ティグリスが宣言した。
護衛たちが剣を抜く。
「王の命だと? 証拠を見せろ!」
ティグリスは金の徽章を見せた。
「これが証拠だ!」
王家直属密偵団の徽章。
護衛たちの顔が青ざめる。
「まさか...『灰色の刃』...!」
「抵抗すれば、容赦しない」
だが、護衛の一人が叫んだ。
「伯爵様を守れ! 戦え!」
護衛たちが襲いかかる。
ティグリスが剣を振るう。
一人を斬り倒す。
ギムリが戦斧を叩きつける。
二人を吹き飛ばす。
ルーナの矢が飛ぶ。
護衛の肩を射抜く。
アリアが魔法を放つ。
「ファイアボール!」
炎が護衛を包む。
戦闘が始まった。
その隙に、マルクスは動いた。
馬車の位置を確認する。
「テレポート」
視界が歪む。
次の瞬間、マルクスは馬車の中にいた。
太った男が、怯えた顔で座っている。
伯爵マーカス。
「な、何者だ!?」
マルクスは手を振った。
「テレキネシス」
伯爵の体が、動かなくなる。
魔力で拘束される。
「お前を、逮捕する」
マルクスは伯爵の首筋を打った。
気絶させる。
「確保完了」
マルクスは伯爵を担いで、馬車から出た。
外では、戦闘が終わっていた。
護衛10人全員、倒れている。
死んではいない。気絶しているだけだ。
その瞬間、全員に光が注いだ。
キィン、キィン、キィン...
『ティグリス レベル39 → レベル40』
『ギムリ レベル36 → レベル37』
『ルーナ レベル33 → レベル34』
『アリア レベル40 → レベル41』
『セリア レベル37 → レベル38』
『カミラ レベル31 → レベル32』
『マルクス レベル42 → レベル43』
(レベルが上がったな)
ティグリスがテレパシーで言う。
(護衛10人の経験値ね)
カミラの声。
「よくやった」
マルクスは伯爵を地面に下ろした。
「これで、一人目だ」
「よくやった」
マルクスは伯爵を地面に下ろした。
「これで、一人目だ」
ティグリスが剣を鞘に収めた。
「意外と楽だったな」
「相手がビビってたからな」
ギムリが笑った。
「『灰色の刃』の名前、効果抜群ね」
カミラが微笑んだ。
マルクスは伯爵を見下ろした。
「この男から、他の貴族の情報を引き出す」
「そして、一人ずつ狩っていく」
「宰相派の貴族、全員だ」
朝日が昇り始める。
新しい一日。
灰色の刃の、狩りが続く。
王都の地下牢。
伯爵マーカスは、鉄格子の中で目を覚ました。
「ここは...!?」
薄暗い部屋。
石造りの壁。
湿った空気。
「王宮の地下牢だ」
マルクスが、格子の外に立っていた。
伯爵は震えた。
「お前...『灰色の刃』の...」
「ああ」
マルクスは冷たく答えた。
「お前を尋問する」
「話すことなど何もない!」
伯爵が強がる。
マルクスは微笑んだ。
「そうか。なら、方法を変える」
マルクスは手を前に出した。
魔力を込める。
「テレキネシス」
伯爵の体が、宙に浮いた。
「な、何を!?」
「痛みを、教えてやる」
マルクスは指を動かした。
伯爵の腕が、ねじられる。
「ぎゃああああ!」
骨が軋む音。
だが、折れない。
ギリギリの力加減。
「話すか?」
「く...くそ...!」
マルクスは指を動かした。
今度は足。
「ぐああああ!」
「まだか?」
伯爵は涙を流していた。
「わ...わかった...話す...!」
マルクスは魔法を解いた。
伯爵が床に落ちる。
「賢明だな」
マルクスは椅子に座った。
ノートを取り出す。
「宰相派の貴族、全員の名前を言え」
「そして、それぞれの罪状を教えろ」
伯爵は震える声で話し始めた。
「バロン・ハーヴェイは...賄賂を受け取っていた...」
「公爵レオナルドは...密輸をしていた...」
「伯爵ジェームズは...暗殺を指示していた...」
次々と名前が出てくる。
罪状が明らかになる。
マルクスは全てを記録した。
「もっとだ。隠すな」
「わ、わかった...」
伯爵は続けた。
「子爵アーサーは...敵国のスパイだ...」
「男爵トーマスは...民衆から金を搾り取っていた...」
30分後。
全ての情報が揃った。
「よくやった」
マルクスは立ち上がった。
「お前の協力に感謝する」
「じゃあ...俺は釈放されるのか?」
マルクスは冷たく笑った。
「いや」
「お前は、反逆罪で処刑される」
伯爵の顔が青ざめた。
「そんな...!」
「当然だ」
マルクスは背を向けた。
「お前は、国を裏切った」
「死んで当然だ」
「待ってくれ! 俺は協力したんだぞ!」
「協力したから、苦痛のない死を与えてやる」
マルクスは振り返った。
「明日、公開処刑だ」
「いやだ! 助けてくれ!」
マルクスは牢を後にした。
伯爵の悲鳴が、背中に響く。
王宮の一室。
マルクスは、王に報告していた。
「伯爵マーカスから、全ての情報を得ました」
マルクスはノートを渡した。
王は目を通す。
顔が険しくなる。
「12人...全員、腐っていたのか...」
「はい」
マルクスは答えた。
「全員、何らかの罪を犯しています」
王は深く息を吐いた。
「わかった」
「そなたたちに、全員の逮捕を命じる」
「一週間以内に、全員を捕らえよ」
マルクスは頭を下げた。
「承知しました」
「ただし」
王は厳しい顔で言った。
「できるだけ生け捕りにせよ」
「公開裁判で、罪を明らかにする」
「民衆に、真実を知らせる」
「わかりました」
王は立ち上がった。
「マルクス殿」
「はい」
「そなたは、この国を救っている」
「だが、同時に多くの血を流させている」
「重い責任を、背負っている」
マルクスは真剣な顔で答えた。
「覚悟しています」
「前世で、俺は何もできませんでした」
「理不尽に屈するだけでした」
「でも、この世界では違います」
「力があります」
「仲間がいます」
「だから、戦います」
「悪を倒し、弱者を守る」
「それが、俺の使命です」
王は満足そうに頷いた。
「頼もしい」
「では、頼んだぞ」
マルクスは部屋を出た。
廊下で、王女アリシアが待っていた。
「お疲れ様です」
「次は、誰を狩るんですか?」
マルクスはリストを見た。
「公爵レオナード」
「こいつは危険だ」
「私兵を200人持っている」
アリシアの顔が曇った。
「公爵レオナルド...」
「彼は、父上の従兄弟です」
「王族の血を引く者です」
マルクスは驚いた。
「王族...ですか」
「はい」
アリシアは頷いた。
「だから、父上も今まで手を出せなかった」
「でも、もう限界です」
「彼の悪事は、見過ごせません」
マルクスは決意を固めた。
「わかりました」
「公爵レオナード」
「王族だろうと、容赦しません」
「悪は悪です」
アリシアは微笑んだ。
「ありがとうございます」
「ただし、気をつけてください」
「公爵は、狡猾です」
「罠を仕掛けてくるかもしれません」
マルクスは頷いた。
「わかっています」
「俺たちは、慎重に動きます」
宿に戻ると、仲間たちが待っていた。
「次の標的は?」
ティグリスが聞いた。
「公爵レオナード」
マルクスは答えた。
「私兵200人を持つ、大物だ」
「200人!?」
ギムリが驚く。
「さすがに、それは多すぎるだろ!」
「ああ。だから、正面から戦わない」
マルクスは地図を広げた。
「公爵を、単独で襲う」
「どうやって?」
「公爵は、毎週日曜日に教会に行く」
マルクスは説明した。
「その帰り道を、襲う」
「護衛は?」
「20人ほどいる」
「だが、今回は俺一人で行く」
全員が驚いた。
「一人!?」
アリアが心配そうに言った。
「危険すぎます!」
「大丈夫だ」
マルクスは微笑んだ。
「テレポートで公爵の馬車に侵入し」
「テレキネシスで気絶させて」
「テレポートで連れ去る」
「一瞬で終わる」
「護衛は、何が起きたかも気づかない」
ティグリスが唸った。
「確かに...魔法なら可能だな」
「でも、万が一に備えて」
マルクスは続けた。
「お前たちは、遠くから監視してくれ」
「もし失敗したら、援護を頼む」
(了解!)
全員の声が、テレパシーで響く。
マルクスは窓の外を見た。
日曜日まで、あと三日。
「公爵レオナード」
「王族だろうと、悪は悪だ」
「覚悟しろ」
灰色の刃の狩りは、続く。




