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悪い奴を成敗する話  作者: 慈架太子


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1-1

■ プロローグ:日常の戦い


冒険者のマルクス(27歳)は、森の奥深くでゴブリンの群れを追っていた。

足跡を辿り、慎重に茂みの中を進む。長年の経験で、音を立てずに移動する技術は身についていた。

「...いたぞ」

開けた場所に、5匹のゴブリンが焚き火を囲んでいる。マルクスは木陰に身を潜め、状況を確認した。

「見張りが2匹。残りは武器を置いてる。今だ」

弓に矢をつがえ、最初の一撃で見張りの一匹を仕留める。

「ギャッ!?」

ゴブリンたちが慌てる。その隙に、マルクスは茂みから飛び出し、剣を抜いた。

「させるか!」

二匹目のゴブリンが襲いかかるが、剣で薙ぎ払う。返り血が顔にかかった。

残りのゴブリンが武器を取ろうとする。マルクスは素早く間合いを詰め、三匹目の喉を突く。

「ぐぎゃ...!」

四匹目、五匹目が同時に襲ってくる。マルクスは冷静に、一匹の攻撃を盾で受け流し、もう一匹を蹴り飛ばす。

そして、倒れた四匹目に剣を振り下ろし、続けて五匹目にも致命の一撃を加えた。

「...終わったか」

五匹全て倒した。マルクスは息を整えながら、ゴブリンの耳を切り取る。討伐の証拠だ。

「これで報酬は銀貨10枚...まあ、悪くない」

血を拭い、森を後にした。

これが、普通の冒険者の日常だった。


マルクス、27歳。冒険者ランクD。


■ 底辺冒険者の現実


17歳で冒険者になって、もう10年が経つ。だが、未だにランクはD。平凡な実力、平凡な装備、平凡な日々。

「才能がなかったんだろうな...」

同期で冒険者になった仲間たちは、今ではBランク、Aランクと昇進している。華々しい冒険、高額な報酬、名声。

だが、マルクスには無縁だった。

彼が受けるのは、いつも地味な依頼ばかり。ゴブリン討伐、薬草採取、護衛任務。報酬は銀貨10枚から20枚程度。

「今月も、かろうじて生活費が払えるか...」

宿代、食費、装備の修理費。全て払うと、手元にはほとんど残らない。貯金もできない。結婚なんて夢のまた夢。

それでも、マルクスは冒険者を続けていた。

「他にできることもないしな...」

剣の腕は「並」。魔法は使えない。特別な才能もない。ただ、10年間の経験だけが彼の武器だった。

仲間もいない。パーティーを組んでも、すぐに「使えない」と切られる。今では、いつも一人で依頼をこなしている。

「明日も、ゴブリン討伐か...」

安酒場で一人、安酒を飲む。隣のテーブルでは、若い冒険者たちが華やかに笑っている。

マルクスは、そんな彼らを横目に、黙々と酒を飲んだ。

これが、底辺冒険者の現実だった。


マルクスは宿屋への帰り道、突然激しい頭痛に襲われた。


■ 記憶の覚醒


「ぐっ...!?」

頭が割れるような痛み。視界が歪む。

「な、何だ...これは...!」

路地裏に倒れ込む。両手で頭を抱えた。

その瞬間、記憶がなだれ込んできた。

『田中健二、35歳、会社員...』

「誰だ...?俺は...マルクス...」

『毎日終電、休日出勤、パワハラ上司...』

見たこともない景色。高層ビル、電車、パソコン。

『過労死...そして、転生...』

「ああああああ!」

記憶が次々と蘇る。前世の人生。日本という国。現代社会。ブラック企業。

そして、死。

「俺は...田中健二...だったのか...」

27年間忘れていた記憶が、一気に戻ってきた。

前世では35歳まで生きた。つまり、二つの人生を合わせれば62歳相当の経験を持つことになる。

「転生...していたのか...」

頭痛が徐々に収まる。

マルクスは、いや、田中健二の記憶を持つマルクスは、ゆっくりと立ち上がった。

「前世の俺は...会社に殺された」

「データ分析、プロジェクト管理、交渉術...全部、覚えてる」

両手を見つめる。

「なぜ今、記憶が戻った...?」

理由はわからない。だが、確かなことが一つある。

「俺は...もう一度、人生をやり直せる」

前世の知識と経験。それが、今、武器になる。

マルクスの目に、新しい光が宿った。

「底辺冒険者の人生は、今日で終わりだ」

月明かりの下、彼は決意した。

この世界で、前世でできなかったことを成し遂げる。

理不尽と戦い、弱者を守り、悪を成敗する。

「さあ、始めるか...第二の人生を」

転生者マルクスの、本当の物語が、今、始まった。


マルクスは宿屋の狭い部屋で、窓際に座り込んでいた。


■ 前世の記憶


月明かりが、彼の疲れた顔を照らす。しかし、その目には今まで見たことのない光が宿っていた。

「田中健二...」

自分の前世の名を、口に出してみる。

三十五年間。日本という国で、サラリーマンとして生きた。毎朝満員電車に揺られ、夜遅くまで働き、休日も出勤した。

「あの頃の俺は...何も言えなかった」

上司のパワハラを見ても、黙っていた。同僚が不当に解雇されても、見て見ぬふりをした。後輩が過労で倒れても、自分の仕事で精一杯だった。

「怖かったんだ」

自分が標的になることが。クビになることが。家族を養えなくなることが。

だから、理不尽を受け入れた。耐え続けた。

そして、ある日。

「会議室で...倒れた」

意識が遠のいていく中、最後に思ったこと。

『ああ...俺の人生、これで終わりか』

後悔だけが残った。

何も成し遂げられなかった。誰も守れなかった。理不尽と戦うこともできなかった。

「でも...」

マルクスは立ち上がった。

「神様は、俺にもう一度チャンスをくれた」

この異世界に転生して二十七年。最初は記憶を失っていた。だが今、すべてを思い出した。

二つの人生。合わせて六十二年分の経験と記憶。

「前世では、何もできなかった」

マルクスは剣を手に取った。

「でも、この世界では違う」

前世の知識がある。データ分析、計画立案、交渉術、会計、法律の基礎。ブラック企業で嫌というほど叩き込まれたスキル。

そして、この世界での十年間。冒険者としての戦闘経験。魔物との戦い方。この世界のルール。

「二つを合わせれば...俺は強くなれる」

マルクスは机に向かい、羊皮紙を広げた。前世の癖で、計画を書き始める。

「まず、レベルを上げる。効率的に経験値を稼ぐ方法を、前世の知識で分析する」

「次に、仲間を集める。一人じゃできないことも、チームならできる。前世のプロジェクト管理の経験を活かす」

「そして...証拠を集める技術を確立する」

ペンを走らせながら、マルクスは決意を固めていく。

「この世界にも、理不尽はある」

十年間、冒険者として生きてきた中で、何度も見た。

貴族が平民を虐げる光景。悪徳商人が弱者を騙す姿。腐敗した騎士団が賄賂で目を瞑る現実。

「前世と同じだ...権力者が、弱者を踏みにじる」

だが、前世と違う点がある。

「この世界では、俺が直接、戦える」

前世では、法に守られた悪人を裁けなかった。会社の不正を訴えても、もみ消された。

「でも、この世界では...剣がある。魔法がある」

マルクスは窓の外を見た。

街の灯りの向こう、暗闇の中。誰かが苦しんでいるかもしれない。誰かが理不尽に泣いているかもしれない。

「前世の俺は、何もできなかった」

「守るべき人を、守れなかった」

「でも、もう違う」

マルクスは剣を腰に差した。

「この世界では、弱者を守る」

「理不尽と戦う」

「そして、悪を成敗する」

彼は部屋のドアに手をかけた。

「前世で学んだこと、この世界で経験したこと、すべてを使う」

「法で裁けない悪は、俺が直接裁く」

「証拠を集め、真実を暴き、必要なら自分の手で始末する」

ドアを開ける。

廊下に出ると、宿屋の喧騒が聞こえてきた。酔った冒険者たちの笑い声。

だが、マルクスの耳には、もっと遠くの声が聞こえる気がした。

助けを求める声。理不尽に苦しむ声。

「前世では、その声を無視した」

「怖くて、自分のことで精一杯で、何もできなかった」

階段を降りる。

「でも、もう違う」

宿屋を出ると、夜の冷たい空気が頬を撫でた。

街は静かだ。だが、この静けさの裏に、どれだけの理不尽が隠れているだろうか。

「さあ、始めるか...」

マルクスは歩き出した。

「第二の人生を」

前世の後悔を胸に。この世界での決意を心に。

「俺は、もう逃げない」

「理不尽を見て見ぬふりしない」

「弱者を見捨てない」

月が、彼の長い影を地面に落としていた。

「前世の田中健二は、理不尽に殺された」

「でも、この世界のマルクスは...」

彼は剣の柄を握りしめた。

「理不尽を殺す側になる」

夜の街を歩きながら、マルクスは新しい自分を感じていた。

もう底辺冒険者じゃない。ただ生き延びるだけの人間じゃない。

「俺は...制裁人になる」

これが、転生者マルクスの、本当の物語の始まりだった。

前世で守れなかった人々の分まで。

この世界で、彼は戦う。

そして、必ず成し遂げる。

前世でできなかったことを。


マルクスは机に向かい、羊皮紙を広げた。

前世の癖で、まずは現状分析から始める。

「俺の現在のスペック...」

ペンを走らせる。

名前: マルクス

年齢: 27歳(前世含めて62歳)

レベル: 18

ランク: D

スキル: 剣術(中級)、弓術(初級)

魔法: なし

「レベル18...10年やってこれか」

普通の冒険者なら、10年でレベル30は超える。マルクスが遅れているのは、効率が悪かったからだ。

「前世の知識で、効率化する」

新しい紙に書き始める。

【レベル上げ計画】

「まず、経験値効率の分析」

前世で学んだデータ分析の手法を使う。

「スライム: 経験値10、討伐時間5分、効率は時給120」

「ゴブリン: 経験値30、討伐時間15分、効率は時給120」

「オーク: 経験値100、討伐時間60分、効率は時給100」

「...待てよ」

マルクスは気づいた。

「オークは効率が悪い。ゴブリンを狩り続けた方が、経験値効率がいい」

今まで、何となく「強い敵を倒せばレベルが上がる」と思っていた。

だが、データで見れば違う。

「前世のゲーム理論と同じだ。効率重視で、弱い敵を大量に狩る」

次に、狩場の選定。

「ゴブリンの巣を見つけて、定期的に狩る。リスポーン周期を計算して、効率的に回す」

「前世のMMORPGで学んだ『狩場回し』の技術だ」

マルクスは計画を書き続ける。

「1日8時間狩りをすれば、経験値960。レベル30まで必要な経験値は...約2週間か」

「よし、これなら現実的だ」

次の問題。

【魔法習得計画】

「俺は魔法を使えない...今までは」

マルクスは前世の記憶を辿る。

「前世で、俺は科学を学んだ。物理、化学、生物学」

「魔法は、この世界の『エネルギー』だ。科学的に分析できるはず」

ペンを走らせる。

「まず、魔法使いから魔法理論を学ぶ。金を払ってでも、基礎を叩き込む」

「次に、前世の科学知識と照らし合わせる。魔力の流れ、詠唱の意味、属性の関係」

「そして...独自の魔法を開発する」

マルクスは興奮してきた。

「魔法学院の教科書通りじゃなく、前世の知識を使った『新しい魔法』」

「例えば...火の魔法。燃焼には酸素が必要だ。なら、酸素濃度を操作すれば、威力を上げられるはず」

「風の魔法で空気を圧縮し、火の魔法と組み合わせれば...爆発が起きる」

次々とアイデアが浮かぶ。

「でも、一人じゃ無理だ。魔法使いの協力が必要」

【仲間集め計画】

マルクスは新しい紙を取り出した。

「前世では、プロジェクトチームを組んだ。適材適所で人を配置する」

「この世界でも、同じことをする」

必要な役割をリストアップする。

1. 魔法使い: 魔法開発、戦闘支援

2. 鍛冶師: 武器・魔道具の開発

3. 斥候: 情報収集、潜入

4. 戦闘員: 前衛、護衛

5. 諜報員: 証拠収集、誘惑

「それぞれ、どこで見つけるか...」

マルクスは考える。

「魔法使い...学院を落ちこぼれた奴がいいな。才能がないと言われた奴」

「そういう奴は、新しい方法を試す意欲がある。それに、安く雇える」

「鍛冶師...借金で困ってる職人を探す。恩を売れば、仲間になる」

「斥候...元盗賊とか、訳ありの奴がいい。裏社会のコネが使える」

一人ずつ、具体的な条件を書いていく。

「前世の人材採用と同じだ。履歴書じゃなく、本人の実力と人柄を見る」

次に、仲間をどう管理するか。

「前世のチームマネジメント手法を使う」

「目標を共有し、役割を明確にし、定期的にミーティング」

「それに...」

マルクスは少し躊躇したが、書いた。

「報酬を公平に分配する。前世のブラック企業と同じ過ちは犯さない」

最後に、全体のロードマップ。

【3ヶ月計画】

第1週: レベル上げ(18→25)

第2週: 魔法使いをスカウト、魔法理論学習開始

第3週: レベル上げ継続(25→30)、魔法習得開始

第4週: 鍛冶師スカウト、装備強化

第2ヶ月: 仲間を増やし、チーム編成

第3ヶ月: 最初の「仕事」を開始

マルクスは書き終えた計画書を見つめた。

「前世では、こういう計画書を何百枚も書いた」

「でも、全部上司に潰された。理不尽な修正、無茶な要求」

「この世界では...俺が決める」

彼は計画書を丁寧に折りたたんだ。

「まず明日、ギルドでゴブリン討伐の依頼を受ける」

「効率的に狩って、レベルを上げる」

「そして、魔法使いを探す」

窓の外、夜が明け始めていた。

マルクスは気づけば、一晩中計画を立てていた。

「前世では、こんなに夢中になったこと、なかったな...」

ブラック企業では、やらされる仕事ばかりだった。

だが今は違う。自分のための計画。自分の意志で動く。

「これが...自由か」

マルクスは立ち上がり、剣を腰に差した。

「さあ、始めよう」

「前世の知識と、この世界の経験を組み合わせた」

「俺だけの戦い方を」

部屋を出る。

廊下を歩きながら、マルクスは微笑んだ。

底辺冒険者マルクスは、もういない。

今ここにいるのは、二つの人生を持つ男。

前世の後悔を力に変え、この世界で成り上がる。

「第一歩は、レベル上げだ」

「そして、仲間を集める」

「前世でできなかったこと、この世界で全部やる」

朝日が、新しい一日を照らしていた。

マルクスの第二の人生が、本格的に動き出した。


転生者マルクスの三ヶ月

第1週: レベル上げ(18→25)

朝、マルクスは冒険者ギルドに向かった。

「ゴブリン討伐の依頼を全部くれ」

受付嬢が驚いた顔をする。

「全部...ですか?一人で?」

「ああ。まとめて受ける」

前世の効率重視思考。依頼を一つずつ受けるより、まとめて受けた方が移動時間が減る。

森に入ると、マルクスは計画通りに動いた。

ゴブリンの巣を三つ特定。それぞれのリスポーン周期を記録。朝、昼、夕方で巡回ルートを組む。

「1日目: 27匹討伐、経験値810」

「2日目: 31匹討伐、経験値930」

データを記録しながら、効率を改善していく。

「ゴブリンの行動パターンは...朝は警戒が薄い。夕方は数が増える」

前世のデータ分析スキルで、最適な狩り方を見つけていく。

5日目、レベルが20に上がった。

「順調だ。このペースなら、1週間でレベル25は確実」

7日目、レベル24。もう少しで目標達成。

最後の夜、大きなゴブリンの巣を発見。

「よし、ここで一気に稼ぐ」

15匹のゴブリンを、一人で全滅させた。

【レベル25到達】


「計画通り」

マルクスは満足げに頷いた。



第2週: 魔法使いスカウト、魔法理論学習開始

マルクスは王都の魔法学院前で、ある少女を待っていた。

情報収集の結果、「才能がない」と言われて退学寸前の魔法使い、アリアという少女がいることを知った。

「あの...あなたが、私を雇いたいという...?」

アリアは自信なさげに現れた。

「ああ。お前の魔法、必要なんだ」

「でも、私は才能がなくて...」

「才能なんて関係ない」マルクスは真剣に言った。「俺には魔法の知識がある。お前には魔力がある。二人で新しい魔法を作ろう」

アリアの目が輝いた。

「本当に...?」

「ああ。ただし、厳しいぞ。毎日勉強だ」

こうして、最初の仲間を得た。


マルクスはアリアから、毎日魔法理論を学んだ。

「魔力は体内を循環し、詠唱で方向性を与える...」


「なるほど。前世の『エネルギー保存の法則』と同じだな」

マルクスは前世の知識と照らし合わせながら、魔法を科学的に理解していく。

「火の魔法は、魔力を熱エネルギーに変換する...なら、酸素と組み合わせれば...」

「え!?そんな発想!」アリアが驚く。

「試してみよう」

二人で新しい魔法の開発を始めた。


詠唱の真実

魔法理論の授業

マルクスはアリアから魔法を教わっていた。

「では、火の魔法の詠唱を」

アリアが呪文を唱える。

「我が求めるは紅蓮の炎、古の契約に従い、今ここに顕現せよ――ファイアボール!」

火球が現れた。

「すごいな。でも...」

マルクスは疑問を感じていた。

「なんでそんな長い呪文が必要なんだ?」

「え?それは...詠唱しないと魔法が発動しないからです」

「本当に?」

アリアは困った顔をした。

「魔法学院で、そう習いました。詠唱は魔法の基本だって...」

マルクスは前世の記憶を辿る。

「前世で、俺はプログラミングを学んだ」

「プログラミング...?」

「コンピューターに命令を出す技術だ。似てると思わないか?」

アリアは首を傾げる。

マルクスは説明を続けた。

「プログラミングでは、『関数』というものを使う。例えば『print("Hello")』と書けば、『Hello』という文字が表示される」

「...?」

「つまり、決まった『呪文』を唱えると、決まった結果が出る」

「それって、詠唱と同じですね!」

「そうだ。でも...」

マルクスは重要なことに気づいた。

「プログラミングの本質は、『命令』じゃない。『処理の内容』なんだ」

「処理の内容...?」

「つまり、『何をしたいか』を理解していれば、命令文は変えられる」

アリアは混乱している。

マルクスは別の角度から説明した。

「アリア、火の魔法を使う時、何を考えてる?」

「え?詠唱の言葉を...」

「その言葉の意味は?」

「えっと...紅蓮の炎...古の契約...」

アリアは止まった。

「あれ...意味、わかってないかも」

「だろうな」


詠唱の正体

マルクスは紙に図を描いた。

「魔法の仕組みを、前世の知識で分析してみた」

魔力(エネルギー) → 変換 → 現象(火、水、風など)

「魔法は、体内の魔力を、何かに変換する技術だ」

「はい、その通りです」

「じゃあ、『詠唱』の役割は何だ?」

アリアは考える。

「...魔力を、火に変換するための...命令?」

「違う」

マルクスは断言した。

「詠唱は、『イメージの補完』だ」

「イメージ...?」

「火の魔法を使う時、お前は火をイメージしてるか?」

「え?詠唱で頭がいっぱいで...」

「だろうな。つまり、お前は火のイメージができてないから、詠唱という『補助輪』を使ってるんだ」

アリアは驚いた顔をした。

「補助輪...?」

「そうだ。詠唱は、イメージを作るための『道具』に過ぎない」

マルクスは続けた。

「『紅蓮の炎』と唱えることで、頭の中に火のイメージが浮かぶ。『古の契約』と唱えることで、魔力が動き出すイメージが浮かぶ」

「つまり、詠唱は...イメージを作るための補助?」

「その通り」

アリアは呆然としている。

「でも、魔法学院では...」

「学院の先生たちも、気づいてないんだろうな」

マルクスは冷静に言った。

「何百年も『詠唱が必要』と教えてきたから、誰も疑問に思わなかった」

「じゃあ...詠唱なしで魔法を使える?」

「ああ」

マルクスは手を前に出した。

「俺は前世で、『火』というものを科学的に理解してる」

「燃焼、熱エネルギー、酸素との反応、温度、色」

「だから、詠唱なしでも、火のイメージが明確にできる」

マルクスは目を閉じた。

頭の中で、火を思い浮かべる。

赤い炎。熱。燃える音。前世で見たガスコンロの火。キャンプファイヤー。

そして、魔力を手に集中させる。

「...出ろ」

手のひらに、小さな火球が現れた。

詠唱なしで。

「え!?嘘!?」

アリアが叫んだ。

「詠唱なしで...魔法が!?」

「ほら、できた」

マルクスは火球を消した。

「詠唱は、絶対に必要じゃない。イメージさえあれば、魔法は発動する」


イメージの重要性

アリアは混乱していた。

「でも...じゃあ、私たちが何年もかけて学んだ詠唱は...?」

「無駄じゃない」

マルクスは優しく言った。

「詠唱は、イメージを作るための『訓練』だったんだ」

「何度も詠唱を繰り返すことで、無意識に火のイメージが刷り込まれる」

「だから、ベテラン魔法使いほど、詠唱が短くなるんだろ?」

「あ...!」

アリアは気づいた。

「そうです!上級魔法使いは、『ファイア!』だけで発動できます!」

「それは、もうイメージが完成してるからだ」

マルクスは説明を続けた。

「この世界の人々は、科学を知らない」

「だから、火がどうやって燃えるのか、水がどうやって流れるのか、風がなぜ吹くのか、理解してない」

「でも、俺は前世で学んだ」

「物理、化学、生物学。自然現象の仕組みを、科学的に理解してる」

「だから、明確なイメージができる」

「それが、俺の強みだ」

アリアは興奮してきた。

「じゃあ、私も!科学を学べば、詠唱なしで魔法が使える!?」

「理論上は、そうだ」

マルクスは頷いた。

「ただし、時間がかかる。お前の場合、すでに詠唱でイメージを作る癖がついてる」

「それを変えるのは、簡単じゃない」

「でも...できる?」

「ああ。俺が教える」


新しい魔法理論

マルクスは新しい紙を取り出した。

「これから、俺たちは新しい魔法を作る」

「詠唱に頼らない、イメージベースの魔法」

アリアは真剣な顔で聞いている。

「まず、火の魔法」

マルクスは火について説明を始めた。

「火は、可燃物、酸素、熱の三つが揃うと燃える」

「可燃物...?」

「燃えるもの。木、油、布。この世界にも同じものがある」

「酸素は、空気の中にある。目に見えないけど、これがないと火は消える」

「熱は...摩擦や火打ち石で作れる」

アリアは必死にメモを取る。

「つまり、火の魔法は、魔力でこの三つを作り出してるんだ」

「魔力を熱に変換し、空気中の酸素と反応させ、魔力自体を可燃物として燃やす」

「そういうイメージで魔法を使えば...」

マルクスは手を出し、再び火球を作った。

今度は、さっきより大きい。

「威力も、制御も、向上する」

アリアは呆然としている。

「すごい...魔法が、こんなに論理的だったなんて...」

「科学と魔法は、実は同じなんだ」

マルクスは微笑んだ。

「前世では、科学で自然を操った」

「この世界では、魔法で自然を操る」

「本質は同じだ」

アリアは決意した顔で言った。

「マルクスさん、教えてください!科学を!」

「ああ。でも、大変だぞ」

「構いません!詠唱なしで魔法を使えるなら!」

こうして、マルクスとアリアの、新しい魔法研究が始まった。


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