2話 503の重竜車
一瞬フリーズしたが、4秒程で活動を再開した。
「怪我は見ての通り...貴方は?」
そう聞くと、彼女は自信有りげに
「私の名前は彩裕 天鼠。魔王雷貴の妹であり、多分最強のアスワングである!」
と、答えた。
アスワング...フィリピンに伝わる伝説の吸血鬼...だったものの目撃情報や被害報告から未確認生物に昇格した奴である。確かに目が猫目になっている。
「魔王とかアスワングとかなかなか物騒になってきましたが...?」
「大丈夫、物騒なのは文面だけだよ。で、まず何から聞きたい?」
「何からなんて言われても...」
そんな唐突に聞かれても何をどう聞けばいいか分からない。
「例えば何で言葉が通じるの〜?とか、ここって何処なの〜?とか、色々あるんじゃない?」
「えっ、教えてくれるんですか?」
「勿論!教えてあげるに決まってるよ!あと緊張しすぎじゃないかな?もっとフレンドリーに。ね?」
なんて言われても第一印象は「くたばれ害鳥」の人である。あの鳥結構好きなのに...。
彼女は巨鳥が倒した倒木に座り、手を叩いた。
「じゃあまず、ここの世界について。」
そう言うと、天鼠は一息ついてから、話し始めた。
「...簡単に言えばここは君からしたら異世界にあたる世界だよ。」
「えっ...異世界...?」
いや、いくならんでも急すぎるだろ...とは思った物の、確かに辻褄は合う。しかし、なぜ...
「なぜ転移したかって?それは君を殺したのがこっちの世界から来た奴だから。死因に2つの世界が絡むことなんてそうそう無いからさ、死後の世界の不具合みたいな物だね。」
と、天鼠は心でも読んだかのように言った。
「凄い壮大になってきたな...」
2つの世界とか転移とか、色々大事になっている...
「実際壮大だからね。モンスターをそっちの世界に送り込んだ張本人については、また別の機会に。...あと敬語じゃなくて良いよ?」
敬語じゃなくて良いらしい。そして敬語じゃなくて良いということは敬う必要は無いということだと解釈する。解釈したい。まぁ敬語は外すことにする。
「まぁ...大まかなことは分かったけどさ...」
とりあえずここが異世界だということが分かっていればいいだろう。と、なると...
「いや何で言葉通じるの?」
当然の疑問である。
「それは君に翻訳魔法をかけてるからだね。」
「何それめっちゃ便利じゃん!」
魔法のイメージの斜め135度先を行った使い方だった。と言うか魔法あるのかこの世界。
「じゃあ、次は君のターン。色々と教えてくれるかな?」
「成る程、そう来ますか...」
まぁ当たり前と言えば当たり前の事だ。
天鼠はすぐに
「君の名前は?出身は?職業は?何に殺された?」
と言った
「多いな!」
「そうかな?」
まぁ、そうは言ってもちゃんと答える。
「俺の名前は弘原海 銀!出身は山梨。職業はまだ無い。何に殺されたかは名前とかよくわかんないけど1本爪で黄色い羽毛の咆哮が大音量な生物に殺されました...」
「咆哮が大音量って...まぁ...なんか、その、お気の毒に?...とりあえず最寄りの城塞都市行にでも行く?行かない?」
「城塞都市あんの!?絶対行く!」
「敬語外した瞬間めっちゃ距離感近くなるな...」
天鼠はゆっくり立ち上がった。
「じゃあ行こう!」
その後、何事もなく山を下る事が出来た。
森をしばらく歩くと、大きな道に出た。
そこには2〜3人を乗せた1頭の生物がいた。
そしてその生物の姿に、目を疑った。
バクの様な鼻の竜脚類の様な姿をしている。
「お!重竜車じゃん!」
天鼠が嬉しそうに言った。嬉しいと言っても、その嬉しさは念願と言うよりラッキーに近い感じだろうか?
「弘原海あれ乗る?」
天鼠は当たり前のように聞いてきた。
「えまって乗れるの!?」
「乗れるよ〜?ちょうど城塞都市行くみたいだし」
「マジで!?あれにそんな気軽に乗れんの?絶対乗るわ!」
竜脚類に乗れるなんて夢のような話、逃すわけには行かない...とか言って咆哮の主に殺されたことも同時に思い出した。
「よし、じゃぁ乗るか!」
ちょうど重竜車が目の前を通った。
「乗りまーす!!」
天鼠が大きく手を振ると重竜車は止まった。
そして、折りたたまれていた階段が降りてきた。
「お二人さんですね?好きなところ座ってください!」
大きな箱状のデッキが左右に2箱づつついており、
背中の席には御者が座っている。
1箱4席、御者の含め計17人乗りだ。
この竜脚類的な生物は...重竜車だから重竜とでも言うのだろうか?
「弘原海は重竜車乗るの初めて?」
「初めても何も残念ながらこっちの世界じゃこんなやつとっくに絶滅してるよ。」
「なるほど...だからあんなに驚いてたのか...」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それから暫くして、森を抜けると高さ15mほどの巨大な城壁と門が現れた。重竜車が門へと進むと、門はゆっくりと開いた。
重竜車はそのまま広い道路を歩き続けた。
「これどこまで行くの?」
と、天鼠に聞いたのだが、
「アウルテスの商店街です。この時期だとちょうどルミナリーフが安くなってるらしいですね。」
答えたのは御者だった。
「貴方たちここらへんの人じゃないでしょ?」
「まぁ...一応転移してきましたけども...」
別に言っても良いよね?
「貴方転移者ですか!?噂じゃこの街にも1人いるらしいですけど...まだ会ったことなかったんですよね!」
御者は嬉しそうに言った。
「転移したことを当たり前のように言う人初めて見たよ...?」
天鼠は少し驚いたように言った。
「別に隠すことじゃないら?」
「まぁそうだけどさ...」
「そろそろ着きますよ〜」
御者の声がした。重竜車が止まると折りたたまれていた階段が降りた。
「弘原海は金なんて持ってないでしょ?私払っとくから先行ってて」
と言った。申し訳ないが持ってない物は持ってないので仕方が無い。
少しして天鼠が降りてきた。
「お金ありがと...払ってくれて...」
「それくらい大丈夫!私は魔王の妹だよ?これでも大金持ちだからねぇ、安心して好きなだけ甘えちゃいな!」
と、自慢げに言った。
さすがに金持ちと言っても、永遠に金を出してもらうわけにはいかない。それは人としてちょっとあれである。そして周りの視線が気になる。どちらかと言えば後者が本音だ。
すると天鼠が
「さて、城塞都市に着いたので弘原海に質問です。」
と、偉そうな雰囲気で聞いてきた。まぁ実際とてつもなく偉いのだが...
「転移してきて、初めにしなければいけない事といえば?」
これは流石に分かる。と言うか皆するだろう。
「助けを求める!」
「そうだけどそうじゃない!」
天鼠は若干驚いた表情で言った。
「普通は皆冒険者ギルドとかって答えるんだよ?」
「その発想は無かったわ...」
「いやあってくれよ...」
「それで、ギルドはどこにあるの?」
天鼠は少し考えた様子で、
「ん〜多少は危険だけどここをまっすぐ行けば着くと思うよ?」
と、不安そうに言った。
「いや...思うよって何...?」
「そりゃ途中で襲われたら死んじゃうからね」
「襲われるって、ここ城塞都市だよね?」
ここは城塞都市、人を襲うようなやつは基本的に立ち入れないはずである。
「モンスターは居なくても、グールなんかが居るんだよ...ま、行こっか!」
と言って、歩き出してしまった。
「いや死ぬかもしれないんだよね!?」
すると天鼠は自慢げに...
「大丈夫。私にはバウンドチャージャーが...」
と、いいながら背中を確認していた。
「あれ...?」
「...えっと...無いの?」
「...多分...。」
無いらしい。
「と言うかバウンドチャージャーって?」
「弘原海を助けた時の武器...しかも世界に13本しか無い...。」
あのショベルカーみたいな武器か...
「まぁ魔法だって使えるし。どうにかなると思うよ...?」
「なんか不安気だなぁ...」
読んでくれてありがとぉぉぉぉ!!!
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