7.強盗を追え
スコップや武器などの装備一式を取りに戻ったジェイドと合流し、俺達は美術館跡へとたどり着いた。
燃えている時に外から見たが、それは立派な建物だった。
しかし……今はもう黒く時化った炭と瓦礫の山でしかなかった。
周囲をロープで囲っているだけで見張りの兵士は居ない。他のみんなは捜索に出ているのだろうか。
「さて……アムル大丈夫?」
「うん。大丈夫」
吐き出しそうになったモノを押し込め、アムルは俺の中で頷いた。
「確か――この辺りか」
ジェイドが当たりを付けると、スコップの切っ先を右下へ向けて両手で構える。
スコップ全体が揺らめく何かに覆われたかと思うと、一気に斜めに空中を斬った。
「ハッ」
その瞬間、目の前の瓦礫の山が同じ方向に斬れ――そして吹っ飛んだ。
「お、おぉ……なんだそれ! 飛ぶ斬撃ってやつ?」
「冒険者の基本的な技だ。それより……ここが地下の入り口か」
地下階段も瓦礫に埋まっていたので、俺とジェイドで掘り起こし、そして壊れていた地下室の扉を引っ剥がした。
「――ビンゴだ」
石造りの地下室の床には――大きな穴が空いていた。
ジェイドが小声で呪文か何かを唱えるとランタンに明かりが灯された。穴の下には複数の足跡。さらに奥からは水音が聞こえる。
「強盗の奴ら、地下水道からここまで掘って来やがったのか」
「地下水道?」
「お父さんから聞いたことあります。この街は元々古い時代の遺跡の上に造られたって。地下水道も遺跡の通路を利用して造られた、と」
「この地下水道は浄化用のスライムを放して管理されているけど、普段は人の出入りが出来ないようになってるはずだ。強盗達はどっから侵入したんだ」
「――あっちだ。足跡が続いている」
俺が指差すと、ジェイドがランタンを向ける。
水路の脇の通路に複数人の薄汚れた足跡が照らし出された。しかしその足跡も途中で水路の中に消えている。
「少し外で待っていてくれ」
――――――――
「じゃあ行ってみるか」
しばらくするとジェイドは戻ってきた。恐らくは兵士に報告にでも行ったのだろう。
水路の殆ど流れは無いが、膝下までの深さはある。たまにぬるっとした感触があるのはコケなのかスライムなのか。
「うぇ――」
ジェイドは気持ち悪そうだ。
しばらく先に進むと――鉄格子が水路を塞いでいた。通路部分には鍵付きの扉があったが、特に異常はなかった。
「マジかよ。でも他に出入り口みたいなもんはなかったぞ」
「うーん……うん?」
水路の壁を見上げていくと、何か違和感を覚える。
ジャブジャブと流れに逆らい壁へと近づき、手を置いてみると――そのまますり抜けた。
「うわっ」
「なんだそれ……幻影魔法かよ」
幻の壁を抜けると、そこは大きな石造りの部屋になっていた。最奥に出入り口が見える。
床にはやはり複数の人間の足跡が、そのまま奥へと続いていた。
よく見ればここで一夜明かしたのか、携帯食のゴミや汚れた毛布などが捨てられていた。
「はー。こりゃただの強盗じゃないな……見ろよ」
ジェイドの声に振り替えると部屋の壁に幾何学模様の描かれた札が、装飾の付いたナイフで縫い留められている。
「指定した場所に像を投影し続ける幻影結界魔法だ。ちょっと魔法習ったくらいじゃ使える代物じゃないぜっと」
適当な石をナイフに向かって投げるジェイド。
コントロールが非常に良いのか1発で石がナイフに当たり、そのまま抜けてこちらへ落ちてきた。
「あんま見ないデザインだけど……闇魔法ギルドの連中が関わってんのかな」
(闇魔法ギルドとか……なんか凄いファンタジーな響きだ!)
「そんな人たちがどうしてお爺ちゃんの美術館を狙ったんでしょうか」
「――もしかして神器……」
「え?」
「いやなんでもないない。はははっ」
明らかに無理矢理ごまかしたので追求しようとしたが――周囲に変化が起きていた。
『警告します。周囲の魔力反応増大――何かが召喚されます』
「ジェイド! 何かが来るみたいだ!」
「ッ!?」
周囲の瓦礫やゴミに紛れ、床に貼られていた別の呪符から黒い魔法陣が起動する。
『識別――モンスター、シャドーウルフです』
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