57.VSジロウ その1
クロエが印を構え、呪文を唱えると巻物が開き、中から――黒い鎧の頭が、胴体が、腕組みをした両腕が、脚が――出てきた。
「ふんッ」
出てくると同時にステラは剣を振るうが、黒い鎧に阻まれてしまう。
「後は頼みましたよ」
「……御意」
クロエはそのまま俺が開けた穴へと戻って行った。
気付けば舟で倒れていた守護者達も居なくなっていた――。
「貴様らは、ここで始末する――」
ジロウの着ている鎧は、黒く禍々しい装飾が付いている――それ以外の部分は俺の鎧に似ていた。
部分的に若干細くなっているが……昔、美術館で見た姿見に写った自分を思い出す。
この鎧が白と金なら、アレは黒と赤といった感じだ。
「ジロウ! お前、それ俺のパクリか!」
「なに、バカ委員長居るのじゃ?」
舟の上から叫ぶが、ジロウは全く意に介して無かった。
静かに俺の方へ向くと、こう言ってきた。
「――これはウロボロス・ルメ……貴様の鎧の、贋作よ」
「レプリカ!?」
「ただ1つ足りないものがあると、あの人は言っていた――」
ジロウは背中の黒い大きな刀を抜いた。
何故かその身体には、見覚えのある黒いオーラが漂っていた。
(もしかして)
『魔素反応あり』
(やっぱり。でもジロウは魔族じゃなかったぞ)
『魔素はあの鎧から発生しているようです』
「ミルメルモ、退却しろ!」
「あいさー! スライムさん達、逆方向です!」
尋常ならざる雰囲気にステラが叫ぶと、舟の下の水が迫り上がり――舟を逆方向に押し流した。
「やべっ」
「とぉ!」
「のじゃ!」
このままでは一緒に運ばれてしまうので、俺達は急いで舟から降りた。
「ミルメルモ! 後は頼んだぞ!」
「分かりました――」
どんどん遠ざかっていく舟を見送る。
俺達はジロウへと向き直った。
「そのまま外へ出て行っても良かったんだぞ」
「冗談言うなや」
「アイツは俺をご指名のようだしな」
「お前、バカ委員長だろ。何してんだこんな所で!」
「全ては、任務の為――参るッ!」
ジロウは一直線に俺を狙い、剣を構えながら突っ込んで来た。
「させるか!」
ステラは瞬速を2度連続で発動し、フェイントを掛けてジロウの死角から攻撃するが――振り向き様に刀で防がれてしまう。
「何!?」
「このウロボロス・ルメに、死角は無い!」
片手で持った刀で受け止めながら、ジロウは掌底を放つ。
ステラはすぐに背後へ跳ぶが、間に合わず腹に攻撃を受けてしまう。
「ぐっ――ッ」
その隙に、ルビィは通路の石畳にハンマーを叩き付け、無数の石の針をジロウへと飛ばした。
「そんなもの!」
刀も使わず、腕に魔力を込めて全て拳で打ち落とす。
「なら、これはどうや!」
石の針に紛れ、柄を伸ばし大外からハンマーを横薙ぎに振るう。
ジロウは刀でハンマーを受け止めるが――。
「再構成……出来へん!?」
「貴様は未知の金属さえも鍛えることが出来るのか」
「それは――」
「そう、出来ない!」
一気に距離を詰め、ルビィの腹に膝蹴りが入る。
「ぐぅぇッ――」
「これはあの人がゴッチンに与えた、旧時代の遺物……」
倒れたルビィに刀を向ける――と、同時にハナコが叫ぶ。
「バカ委員長!」
瞬時に印を構え、呪文を――。
『喝ッ!!』
「ぁ、れ――?」
空気がビリっと震え、ハナコの身体は萎縮したように動かなくなる。
(マナビーストが使っていた、魔力を乗せた咆哮攻撃か!)
「ニンジツは声が無ければ、成立しない!」
刀を構え、動けないハナコへトドメを刺そうと近づいて来る。
「待てッ!」
身体の復元は未だに出来ていない状態だ。
それでも俺は、両手を広げてハナコの前に立ち、ジロウへと向く。
「ヨーイチか。出来れば武器コンテストのリベンジをしたかったが……是非も無し」
「お前、ずいぶん変わったな」
「あの方に力を貸して頂いただけだ……何ひとつ、ひとつも俺の強さでは、無い!」
「ッ!」
ジロウは剣ではなく、拳で俺を殴ってきた。
それを何度も、何度も――。
拳からは敵意と怒りが伝わってくる。
そして鎧から感じる魔素も、それに呼応するかのようにドス黒くなる。
「俺は、俺は――ッ!」
まるで迷いを振り払うかのように、殴って、殴って――。
「――そこまでだ!」
後ろでステラが立ち上がったのが見えた。血の混じったツバを吐き捨て、剣を構える。
ルビィもハンマーを構え直し、ハナコも硬直が解けたようだ。
ジリジリと間合いを詰めるが、周りを振り向きもせずに、ジロウは呟いた。
「……邪魔だな」
ジロウが呪符を取り出し、それを握りしめたまま地面を殴った。
「ドートン=ダイリュウキ!!」
――異変はすぐに起こる。
「な、なんや!?」
「地面が……ッ!?」
俺達の周囲の地面が、突如浮き上がる――。
何かに視線が遮られ……次に俺が見たのは――満天の星空だった。




