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53.生誕


「うふふ……ついに超越した力が我が物になるか」


 今は壇上と席との間に分厚いカーテンで仕切られている。

 ロータスは器具の付いた椅子へと座り、その時を今かと待ち侘びていた。

 俺も別の椅子に座らされ、手脚は鎖で椅子に縛り付けられている。この鎖は魔法的な処理がされているのか、引っ張っても全く切れる気がしない。


「楽しみだ――ごほっ、ごほっ」


 突如咳き込みだし、抑えた手の間からは血が滲む。


「忌々しい病魔め……だがこの苦しみとも……」

「お義父様、準備が整いました」

「おぉ……」


 カーテンが取り払われ、再び信者達の前に姿を表すロータス。


「信徒達よ……大神官様へ祈りを捧げなさい」

『あぁ魔王様よ――どうか我らの父に、祝福を――』


 この大聖堂にはパイプオルガンが置かれているのだろう。荘厳なBGMが部屋の中に響き渡る。


「そして我らが父は、魔王へと成る」

『あぁ魔王様よ――どうかお導きを――』


 信者達の合唱と共に、装置は禍々しい光を放つ。


「来るぞ、来るぞ、来るぞ――来た、来た来た来たキタタタタタダダダ――」


 ロータスは白目を剥き――ケースの中の黒いモヤが蠢く。

 そのモヤは、すぐに管を通って星命の卵(マナストーン)のあるケースへ移動する。

 卵がモヤに包まれたと思った瞬間――卵はヒビ割れ、光が漏れる。


「さぁ、誕生します」

『おぉ……』


 その光は徐々に輝きを増す。

 そして、


 バリバリバリッ――!


 派手な音と共に、ケースを破って外へと出た。


「フシュウルルルルゥ――こ、コレがマナの力か。素晴らしい、素晴らしいゾ!!」


 光は次第に人型へと変貌する。

 しかしその姿はロータスではなく、あの白い化け物のようだった。


「だガ、確かにコレは制御がムズかしい……早速その鎧、使わセテ貰うゾ」

「くッ」


 ロータスはゆっくりとこちらへ歩いてくる。


(ずっと考えていたけど、有効打が何も思い付かないッ!)

 

 ゲートに仕舞うことはできるか――ダメだ。結局俺の魔力で創った空間だから、それ以上の力で無理矢理出てくるだろう。

 あえて取り込んで精神力で俺が勝つか――ダメだ。あのオッサンの狂気を超えれる正気なんか、元リーマンの俺が持ってるはずない。


(せめて両手両足が自由になればコアを――!)


「さァ、ひとつにナロうではなイカ」

「そこまでなのじゃ!」


 大聖堂の中に響く声に、信者達が一斉に周囲を見渡す。


「あそこだ!」

「天が呼ぶ、地が呼ぶ、兄ちゃんが助けてと呼ぶ! 最強ニン者ハナコ、ここに見参なのじゃ!」


 ハナコは大聖堂のシャンデリアに登って、片手で顔面を覆う決めポーズをしていた。

 あまりにも目立ち過ぎる忍者の姿に、一同は思わず唖然とする。


 そんな中、クロエが最初に声を掛けた。


「ハナコちゃん。ニン者は忍ばないとダメなのよ」

「クロエよ。これからのニン者はカッコ良さをアピールする事が大事なのじゃ……ほれ」


 瓶に入ったナニかを信者達の間に落とし――そこから巨大スライムが出現した。


「――!!」

「ぎゃああ、スライムが!?」

「と、取り込まれ――ごぼぼ」


 手当たり次第に巨大スライムが周りの信者を取り込みだした。

 クロエは周りの神官へ支持を出す。


「守護者達はスライムから信者の救出を。私は不埒者を処理します」


「「御意」」


「そうはさせん! 大海を見よ、大いなるその腕に抱かれよ――スートン=ダイオオショウ!」


 印の構えと呪文を唱えたと同時に、どこからか現れた大量の水が大聖堂へと流れこむ。

 水は飛び掛ってきた守護者ごと流し、その隙にハナコはクナイを投げ、俺を縛り付けている鎖を砕いた。


「ナイス、ハナコ!」


 即座にゲートから白皇剣を取り出し、魔力を込める。

 そして、異形のロータスの腕を斬り落とした。


「ぎゃあああアアア――なんてナ」

「んなもん想定済だ!」


 さらにゲートの中から鎧袖ナックルを左腕に装着し、回転する魔力をロータスの腹に喰らわせる。


「ドリルナックル!」

「ギャハハハ」


 腹に穴が空くが、全く気にも止めない。

 しかしそれで構わない。


「火よ爆ぜろ、ファイアーボール!」


 前準備として用意していた……腕に貼り付けていた呪符を起動する。


「ギャハ――ボハッ!?」


 体内で爆発は思っても見なかったのだろう、思わずよろめくロータス。


「――そこだッ!」


 経緯がどうあれ、マナビーストであるならコアを破壊すれば倒せるはず。


「白皇、一閃!」


 俺の一撃がロータスのコアを破壊――、


「えっ!?」


 ――出来なかった。

 詳しく言うなら、コアのある部分を斬ったはずなのに、手応えが無かったのだ


「ギャハッ、ギャハッ――言ったロ、ワシは魔王になると……コアなんぞ魔族――いやマ族に存在すると思ったノカ!」

「そんな……」


 相手がマナビーストではなく、魔族であるなら弱点は基本的に1つしかない。

 魔力を込めた強力な攻撃を、相手が死ぬまで叩き付ける――。


「ムダな抵抗はヤメロ。さっきはああ言ったが、お前はワシの中で、生き続けるコトがデキるのダ……これ以上の幸福はないゾ」

「クソッ」

「ナニをしとるんじゃッ!」


 間合いなんて気にせずどんどん前進してくるロータス――その後頭部に目掛けて、ハナコの飛び蹴りが炸裂した。

 ロータスに特にダメージも無かったようだが態勢を少し崩した。

 ハナコは空中で回転しながら、俺の前に降り立つ。


「さっさと、こんな所からはオサラバじゃ!」


 ハナコが懐から取り出した丸い玉(煙幕)を床に叩き付けようとした――その腕と脚を、光の束が撃ち抜く。


「ぐッ!?」

「ハナコ!」

「逃すとデモ……?」


 さらにロータスの前にクロエが降り立つ。後ろには剣を抜いたディアンの姿も見える――。

 状況は絶望的だ。


「さぁ、その鎧ヲ――」


 ロータスがこちらに手を伸ばしたその瞬間だった。

 胸元から装飾の付いた剣が、生えたのだ。


「……ナンの真似ダ。()()()()!」

「貴方の出番は、終わりです」


 ディアンは剣から手を離し、クロエはロータスへ向き直る。

 さらにロータスの周囲に守護者達が集まり、錫杖を床に突き立てながら呪文を唱え始めた。


「か、カラダが動かヌ――」


 どうやら突き刺した剣を媒介にして、何かの封印魔法を使っているようだ。

 

「お義父様――お別れです」


 クロエは錫杖を構え魔力を込めると、それは鍵のような姿を取る。


「魂よ開け、そして汝のあるべき姿を取り戻せ――ゲートン=カンナヅキ!」


 鍵をロータスの頭に突き刺すと扉が出現し、そして捻る。


「う、うギギギぁぁぁぁアアアッ!?」


 ロータスは悲鳴を上げながら、その身体がパズルのように分解され――再構築される。

 再構成は一瞬で終わった――光が収まると、1人の男が現れた

 今度は先ほどとは違い、ちゃんとした人の姿をしていた。

 顔は少しロータスに似ている気もするが、年齢で言えば40代くらい。鋭い眼光の、引き締まった肉体を持つ全裸の男が、静かに立ち上がった。


「ふむ……ワシの名前は……なんだったか」

「魔王ロベリア様、お帰りなさいませ」

「ロベリア……おお、そうだ。ワシはロベリア」


 クロエが(こうべ)を垂れ、跪く。

 周りの守護者達もそれに続いた。


 そして、未だに混乱が続く信者達を指差した。


「あそこに贄を200名ほど用意しました。程よく、混沌に満ちています」

「ふむ――」


 ロベリアが深呼吸を行うと、信者達の口から黒いモヤが飛び出し――それらが口の中へと消えていった。

 信者達は皆、意識を失い倒れた。


「おっと。吸い過ぎたせいで贄が――」

「また新たに用意しますゆえ……」


 ディアンが剣を収め、ロベリアに声を掛ける。


「ロベリア卿。初めまして」

「君は……魔族か」

「いいえ――貴方と同じですよ」


 会話の内容は気になるが、それを悠長に眺めている訳にはいかなかった。

 俺は怪我をしているハナコを中へ収納すると、即座に煙幕を叩きつけた。


「む?」


 怪訝そうなロベリアの声を背中に、俺は大聖堂から脱出したのだ。


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