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50.ウロボロス教団


 牢獄のような場所に連れて行かれると思ったが、俺は来賓室みたいな綺麗で整った部屋に連れて来られた。

 壁紙は何かの絵画を模したものだろうか。高級そうなのは分かる。

 高価な調度品や、美術品も飾ってある――しかし、どこかで見た事があるモノだ。


「これ……美術館から持ち出されたやつか」

「その通りだよ。ヨーイチ君」


 その部屋には既に、見覚えのある恰幅のいい体格の男が、高級そうな椅子に鎮座していた。

 見慣れた神官服を黒く塗りつぶしたようなデザインだ。神官帽にはウロボロスの刻印がしてある。


「お前は……司教ロータス!」

「ここではウロボロス教団大神官ロータス、が正しい」

「知るかよ!」


 俺は両手を後ろで鎖で縛られ、さらに背後には錫杖を持つ2人の女神官。

 ロータスの両隣にも同じように配置されている。

 ウロボロスの刻印の入った布地で隠されている為、表情などは分からないが、みんな特徴的な長耳が見える――エルフのようだ。


「お前! 俺に卵探せとか言っといて……嘘だったのかよ!」

「本当はお前1人をここに誘き寄せる為の算段だったのだが――まさかお人好しにも、アリシアの後輩の頼みを聞くとは思わなかったぞ」


(という事は、星命の卵(マナストーン)自体も2個目は特に盗まれた訳じゃないのか?)

 

『――星命の卵(マナストーン)の反応、あり』


 ニーアからの警告だ。

 

「ここに卵があるみたいだな……」

「おお。さすが初代勇者の鎧だな。そんな事まで分かるのか!」

「……お前らは強盗使って美術館襲わせたって事だよな。どんな目的があってそんな事したんだよ!」

「いいだろう。我々の崇高なる目的を話してやろう――そう、それはだな……」


 コンコン――とノックされる。


「失礼します。ディアン様がご到着しました」

「クロエか。ここへ通しなさい」

「御意」


 興を削がれたのか、続きを話してはくれなかった。

 しばらく待つと、ある男が部屋にやってきた。


「失礼します。ロータス様」

「おおディアン=ディアトよ。待っておったぞ」


 その男は一見すると優しい雰囲気に包まれた好青年だ。

 癖のある黒い髪は背中まで届き、その顔付きも穏やかである。

 服装も青色で統一され、鎧当てなど冒険者のような格好だ。

 

「ディアト……?」


 その名はもちろん知っているが――。


「ヨーイチ君、君にも紹介しておくよ――彼こそは初代勇者ディアス=ディアト……その子孫だ」

「子孫……?」


 紹介された青年は軽く会釈をした。

 

「もう2000年以上も昔の話だ……かつて異世界から召喚され、魔王を討ち滅ぼした勇者ディアスの伝説――」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ……確か図書館で読んだ本には異世界から召喚されたとか書いてなかった……」

「それはそうだ。昔のディアト教会が、都合の良いように歴史書を書き換えたのだ。本来の正しい歴史は教会と、この国の王家のみが知っている」

「なんで、そんなことを……」


 その言葉に頷きながら、ロータスは続けた。


「……その勇者が、魔王より強かったからだ。幾万の兵隊でも敵わなかった……強大な魔力を持つ魔族の王が、たった1人の人間に倒された――その事実を当時の連中は隠した」


 俺の調べた勇者の伝説では、神の力に導かれた勇者は3人の仲間と、多数の軍隊を率いる有能な将軍と共に戦ったとされている。

 最後は仲間3人との協力により、死力を尽くしてなんとか勝ったという。

 

「そんな、身勝手じゃないか!」

「その通り。身勝手な話だ……魔王を1人で、しかも圧倒的な力で屠ったと記録には載っている。

 その後、勇者はこの国を、魔王によって滅ぼされる寸前だったシンディアを再興した――やがて1人の貴族の娘と結ばれ、子を成し――何年後かに子と妻を残し、国を去ったのだ」

「それは……国民に裏切られたから?」

「そうだ。国民は彼を畏怖し――国が荒れたのだ。それを嫌って勇者は国を去り――その後の記録は残っておらんかった」


 それが歴史の真実だと言うなら――あまりにも酷い話だ。

 だがロータスはニヤりと笑いながら、こう続ける。


「しかし、そんな事は関係無いのだ」

「え?」

「歴史の真実として、かつて勇者は民衆に裏切られた。教会はこの事実を捻じ曲げた――それだけが分かっていればいい」

「お前――」

「大義さえあれば良いのだよ、民衆を動かすにはな……そして、ヨーイチ君。君は運が良い! 今日は歴史的な記念日なのだよ!」


 大げさに両手を広げ、天を仰ぐロータス。


「ここに、我が教団が創り上げた勇者の子孫!」

「なっ!?」

「さらにかつて勇者が着た鎧に、星命の卵(マナストーン)も揃った。我が教団はついに、表舞台へと立つのだ。はーっはっはっはっ」


 部屋にロータスの下卑た笑い声が反響する。

 ディアスと呼ばれた青年の方を見ると、こちらに気付いたのか虚ろな微笑みで返してきた。


『――』

(ニーア?)


 気のせいか、何かに反応したような――。


「さて……時間までもう少しあるから、ワシは準備をする――クロエ、手伝いなさい」

「はい、お義父様」


 ロータスとクロエと、あと女神官達も出て行った。

 しかし扉の前には居るのだろう。反応もあるし。

 そして、部屋の中には俺と彼のみが残った。


「……改めて初めまして。ディアンと申します」

「……響陽一だ。お前、今の話聞いてたよな」

「話……あぁ、勇者の子孫という話ですか」

「そうだよ。あのオッサンが何するか知らないけど、絶対ロクな事じゃない。一緒に行こうぜ」

「――ふふっ」

「なんだよ」

「別に自分だけ逃げればいいのに……貴方は良い人ですね」

「……いや逃げない」

「えっ?」

「逃げても、あのオッサンがあの手この手で捕まえようとしてくるは目に見えているからな――ここでちょっと教団には再起不能になって貰う」

「なるほど……ここを潰す手伝いをしろという訳ですか」

「そうだ」

「すいません。それは出来ません」

「ッ!?」


 ディアスの抜いた装飾の入った剣が、俺の喉元へ向けられていた。

 警戒をしてなかった訳じゃない――それでも反応が出来なかった。


「僕自身の為にも、ロータスさんの邪魔はさせません」

「……分かった」


 両手を上げ、抵抗の意志が無い事を示しながら――ひとまず俺は席に座る。

 それを見て、ディアスも剣を収めた。


「安心して下さい。悪いようにはしませんよ」

「……ふんっ」


 とりあえず今は様子を見るしかない――ハナコとミルメルモは無事だろうか。


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