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49.憧れの先輩


「……ていっ」


 地下水道への扉は鍵が掛かっていたので、真ん中の金具を剣で斬った。

 みんな入ってから中から針金で縛り――これでよし。


「よし。先に進むか」

「いいのかそれ?」


 ひとまず長い通路を進み、以前シャドーウルフと戦った小部屋から地下水道へと入る。

 幻影魔法で隠されていた場所には簡易なバリケードが置かれて居たが、もちろんそれを乗り越え先へと進む。


「えっと、第3地区への行き方は……少し遠回りになるけど鍵が掛かってないルートを通ろう」


 ぼんやりとした明かりのランタンを持ち、一同は地下水道を目的地を目指し歩いていく。

 この街の地下水道はざっくり1地区から25地区まで割り振られ、水道は大体上の道と連動している。

 しかし高低差があったり鍵が掛かった場所もあり、街中を進むのとは勝手が違う。


「第11地区って、ちょうど街の真ん中付近か……」


 そんな移動しながらもう結構な時間が経っている。

 地図によるとそろそろ11地区に入りそうだけど……。


『魔力を感知しました。詳細は不明』

「反応が……この近場なのか?」

『センサーの範囲に入っていますが、詳細は不明』


 辺りを見渡すが、前も後ろも水路が続くだけだ。


「どうしたんだ兄ちゃん」

「いや。この辺りに何かあるっぽいんだけど」


 また幻影魔法なのかと思い、周囲の壁を触って見るが特に問題無し。


「うーん? ここは確か古い遺跡を利用してるのじゃろ……だったら、どっかに仕掛けがあるんじゃなかろうか」

「そういう話、聞いた事あります。壁のみならず天井や床に分かり難いようにスイッチがあったり、所定の場所に立たないと開かないとか……」

「ならばアレを使うか……魔力眼(ルビーアイ)、発動」


 眼、正確には視覚センサーに魔力を集中させ、物体の魔力の流れを観察することができる。

 ルビィが中に入っていた時の経験もアップデートしたので、俺は鎧の機能を使って擬似的に再現することが出来たのだ。


「壁や天井には怪しい点は……いや、水の流れが――」


 水路の水のエレメントが一部途切れているようだ。

 俺はエレメントの流れを辿って歩き――床が消失した。


「うぉ!?」

「兄ちゃん!」

「8号さん!?」


 俺は水路の床から下に落ちた。

 それほど高さは無く、白い無機質な壁の通路に出た。

 天井を見上げると、ガラスのように透明になっているが、水だけ通さず人だけ通れるようだ――不思議な仕掛けだ。

 ハナコとミルメルモもすぐに後を追い掛けて来てくれた。


「ここは、水路のさらに地下なのか」

「ちゃんと整備されて、灯りもちゃんとしてますね」

「恐らくもう教団の施設に入ったんだろう。ここからは慎重に……」

「では、ここで私のスライムちゃんの出番ですね」


 ミルメルモは背負っていた革袋から大きめの瓶を取り出す。

 中身は無色透明に見えるが……。


「これを開けて、振り掛ける!」

「おわっ!?」

「うひゃあ」


 ドロっとした液体が全身を包むように形を変え、そして俺達の姿を覆った。


「これは……」

「はいコレは鏡です。どうです? 見えませんよね」

「ホントだ」

「感知結界も多分すり抜けられます。このスライムを被った者同士なら見えるので安心して下さい。でも声は聞こえちゃうので、手でサインを下さい」

「これは有り難いな……」


『魔力センサーも使えないのでご注意して下さい』


「分かった――よし、とりあえずこっちに行ってみよう」


 どっちに行っても分からないので、前進することにした。

 しばらく歩くと、前から人の声がする――それは魔道ギルドのローブと似ていたが、こちらは紺色に近い黒だ。

 どちらもフードを頭に被り顔は見えないが、首からウロボロスの飾りを掛けている。


「今夜ついに大神官様からお告げがあるらしい」

「おぉ。ついにこの時が来たのですね――だから拠点の移動をするのか」

「上の連中も、まさか地下水道に我々の本拠地があるとは思わないだろうな」


 そんな雑談を聞きながら、少し後を追ってみる。


「あの女エルフが来てから、どんどん研究も進んだらしいぞ」

「さすが長年生きて叡智を蓄えている種族だな……」

「奥の研究室にずっと引き篭もっているらしいな」


 その話を聞いて、俺は後ろの2人に合図をして、再び元来た方向へと戻る。

 しばらく進むと、鍛冶部屋や倉庫などの色んな名前の部屋があり、さらに進むと最奥に【魔族研究室】と書かれた部屋があった。


(ここか、入るぞ)


 2人に合図し、そっと扉を開く。

 長細く広い部屋で、壁際に複数の丸い水槽が並び……その奥に、人影が見える。

 それは銀髪のショートヘアの、鋭い目つきの女研究者――探していたアリシアだ。


「先輩!」


 思わず被っていたスライムを脱ぎ去り、ミルメルモは駆け出し、アリシアの下へと走る。


「あら……ミルちゃんじゃない。久しぶり。ちょっと痩せたんじゃないの?」

「せ、先輩……ぐすっ」


 泣く彼女を優しく抱き締め頭を撫でるアリシア。

 どうするかと思案していた俺は彼女と――目が、合った。


「お友達も居るようね。そんな所に立ってないで、こちらに来なさい――ティータイムにしましょう」


 俺とハナコは思わず顔を見合わせる。

 今はミルメルモの隠遁(いんとん)スライムのおかげで姿が見えないはずなのに――。


「ちなみにカマ掛けじゃないわよ」


 アリシアが指に魔力を込め、音を鳴らす。

 すると俺とハナコを覆っていたスライムが勝手に動き出し――全て床に落ちてしまった。


「スライムが嫌う波長を出したの……さぁ、こっちに来なさい」


 ひとまず、俺達は彼女に従うしかないのだった。


 ――――――――――



「これはここで栽培しているハーブなの……良い香りでしょ」

「はぁ……」

 

 俺の隣にはハナコ。

 アリシアの隣にはミルメルモが座っている。

 目の前の丸いテーブルには高級そうなティーセットと、お茶菓子が用意されている。


「このお菓子、美味いのじゃ」


 おい忍者。なに普通にご馳走になってるんだよ。


「あら。後輩の大事なお友達に盛ったりはしないわよ」

「……はい」


 こちらの考えは全て見透かされているようだ。

 俺はハーブティーをいただく。


「――それで先輩……私、先輩を連れ戻しに来たんです」

「……そう」


 アリシアはハーブティーには手を付けず、静かに頷いた。


「先輩の研究したいテーマが魔族だからって、違法な組織に手を貸したら……それこそ、捕まったら死刑になるんですよ!」

「そうね。もし捕まったら死刑台送りは確実ね……」

「不死の研究も……昔から色んな研究者がやっているけど、全然実現しない、空想の議論だって……先輩も言ってたじゃないですか」

「……それは違うって分かったわ。今は理論も大体完成していて……後は実践だけ」

「そんな……」

「時間は有限。エルフの私の時間ですら足りないの……だから、まずは時間の確保をしないといけないわ」

「そんなの間違って――」


「ごめんなさい。貴女とは、同じ時間は歩めそうにないわね」


 アリシアは寂しそうに、ミルメルモの目元に指を向けた。

 何か魔力を飛ばしたようだ――すぐに彼女は昏倒してしまう。


「お前! ミルメルモがどんだけ心配したか分かっておるのか!」

「分かってるわよ……この子は本当に優しい子なの。私には、もったいないわ」

「――分かりました。では、彼女を連れてここから出て行きます」


「あら――誰が出て良いって言ったかしら」


 俺とハナコの背後と真隣に、顔を黒い布地で隠した、黒い神官服の女性が4人現れた。

 彼女らは錫杖を持ち、それを俺達の首や胴体に向ける。


「この子は責任持って地上に送り返すわ。でもね、()()が欲しいのは――貴方の、鎧なのよ」



ここまで読んで下さってありがとう! Thank You!

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