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47.スライムの導き



「すいません! 助けて頂いて有難うございます」


 黒い三角帽子に黒いローブという典型的な魔法使いの恰好をした、おさげの女の子は律儀に頭を下げてお礼を言ってくれた。


「いやいや大した事じゃないのじゃ」

「凄い立派な鎧……しかもあんな凄い魔法見た事ありません!」

「そうじゃろそうじゃろ」


 腕組みをして、物凄くドヤっているハナコ。


「……それでなんでこんな所に? 街道からも離れてますし――」

「ぎくッ――」


 もちろんあの魔道ギルドを調べに来たとか言える訳ない。

 ハナコは少し明後日の方向を見た後、何かを思い付いたようだ。


「あ、あぁそうじゃな。実は前にこの近くの水場に巨大スライムが出たって話があってな」

「うッ」


(う?)


「何を隠そうアタシが退治したのじゃが……あんな巨大スライムが野良で偶然発生する訳もないし、キナ臭いので少し調査しておったのだ」


 苦し紛れの取って付けたような理由だが、目の前の女の子は何故か目が虚ろになっていく。


「今回もスライムは出たし、やはり何かこの地にはあるようなので国に通報するべきかと思うのじゃが」

 

 通報すると言った途端、女の子が青ざめて震えだした。

 そして、

 

「す……」


(す?)


「すい゙ま゙せん゙でした! 私がや”りまじだ!」


 泣きじゃくりながらその場で土下座して地面に頭を擦り付けるのであった。


 ――――――――――――



「こ、こちらですどうぞ……」


 ひとまず詳しい話を聞くということで、ギルド内に入れて貰う事ができた。

 このギルドは建物の外と敷地に、部外者はもちろん内部の人間が勝手に出て行かないようにする為の感知結界を張り巡らせてあるらしい。

 今は彼女が出入り用の申請パスを持っているので、一緒にギルドへ入る事が出来る。

 これを知らずに侵入していれば、今頃捕まって居ただろう。

 

 さすがに全身がスライムの肉片でベトベトなので、先に風呂を貸して貰うことに。


「いいか兄ちゃん。色々説明するのは面倒じゃから、アタシの造った魔道生物って事にする。だからアタシの命令以外で余計な行動や私語は喋らないように」

『らじゃー』

 

「こ、ここが浴場です。と言っても今の時間は湯は入ってないので……シャワーだけになりますが」

「この体液流せるだけで助かるのじゃ……よいしょっと」

「す、凄い。やはり動く鎧(リビングアーマー)のようなものだったんですね! しかも中に入って動かせるなんて……」

「これはアタシの自信作。搭乗者が乗って操作することも可能で、さらにアタシの命令で動くように半自律を可能にした……えっと、そう! 機動勇者ヤマトタケル8号じゃ!」


 なんだその名前。

 しかし目の前の女の子は瞳をキラキラと輝かせながら俺の内部を観察している。


「凄いこの触手みたいなので身体から魔力と伝達を……こういうのは専門外ですが、それでも凄いのは分かります!」

「ふふーん、そうじゃろ」

「あ、では私は後で……」

「面倒じゃ。お前さんも一緒に入ろうではないか」

「え、えぇ!?」

「良いではないか、良いではないか」

「じ、自分で脱ぎますから〜!」


 浴場に入り、俺は壁際で座り込む格好で置かれる。

 兜(頭)は角度的に床しか見えないようで、実は正面も視えているのは内緒だ。


「ふわー、気持ちいいのじゃ」

「あ。スライムの体液はこの洗剤使うとよく落ちますよ」

「ありがとなのじゃ」


 少女2人(片方は超年上だけど)のキャッキャッしたシャワーシーンは目に薬なのだが、それよりこの浴場。

 風呂を張る浴槽以外にも広め浅めの浴槽がある。何か微妙に血のようなものがこびりついてように見え――無いはずの背筋が冷たくなる。

 女の子の方はハナコの耳に気付き、少し羨ましそうに微笑んだ。


「あ、エルフの方だったんですね。いいなー。私の尊敬する先輩もエルフで……長い年月を研究と実験に費やせるとか羨ましいです」

「そ、そうかな?」

「無理だと思ってても早く追い付きたくて……それで、焦って……ぐすっ」

「あぁもう分かったのじゃ……アタシが洗ってやるのじゃ。ほら座った座った」


 風呂用の椅子に座らせ、そのウェーブ状の髪を丁寧に洗っていく。

 こうしていると姉妹に見えなくもない。


「それで? なんで巨大スライムなんて野に放ったのじゃ」

「あれは……侵入者を生きたまま捕獲できるスライムを開発中で。でも私の部屋は手狭だから、ちょっと裏の森で動作チェックしてたら……その。目を離した瞬間、どっかに行っちゃって」

「行方知れずになったんなら、他のメンバーに助けを求めれば良かったのじゃ」

「基本的にギルドのみんなは他人に不干渉が基本で……自室に引き篭もって研究しているか、逆に外へ素材探しに行って年に数回しか帰って来ない人も居ますし……」

「ふーん、難儀じゃのう」

「……それに私、先月もスライム爆発させて始末書出したばかりで……次やったら追い出される……」


(そっちが本音だな)


「よし。次はこの鎧洗うかの」

「あ、手伝います……」


 ブラシとタオルを持った2人がちかづいてくる。

 女の子はもちろん、ハナコも特に気にしてないのかタオルすら巻いてない。

 ちなみに2人共似たような体型である。あまり大きくは無いが平原でもない。

 

(いかん――心を、無にするんだ)


 ハナコはともかく見ず知らずの女の子の裸を見る訳にいかない――。

 

『シャットダウンしますか?』

(それやると見えなくなるだろ!)


 俺はしばらく好きなように洗われるのであった。


 ――――――――――――



 ハナコは服も洗濯中なので、女の子から黒いローブを借りた。

 

「ふぅ、すっきりしたのじゃ」


 薄暗い廊下を進んでいくと……ある部屋の前に案内された。

 ドアの前に【ミルメルモ・ライム】と簡素なプレートが貼り付けてある。


「ど、どうぞ」

「お邪魔しますなのじゃ」


 分厚いカーテンに、所狭しと並べられた棚には本や薬品。テーブルの上にも何かの実験器具が並び――床にも本が積まれている。

 ベッドにも本やローブやら下着やらが散らばり、一体この子はどこで寝ているのだろうか。


「ち、散らかっててすいません! すぐ片付けます!」


 女の子――ミルメルモは慌てて本や服を部屋の隅っこに積み重ねた。


「ほーこれが研究所か。見事にスライム関係しか無いのじゃ」

「私はスライム専門で……依頼があればその要望に沿ったスライムを作ったりするんです」

(都合良く中に入れたし、仕事をするか)


 魔力センサーを展開――大小様々な反応が見つかる。

 人間やエルフ、獣人や亜人など……武器や道具、本に至るまで。

 センサーに感知し、丁寧に検証していく――。

 その結果は……。


(うん。シロだ)


 いかん。このままでは女の子同士のシャワーシーンを覗いただけになってしまう。


(盗んだものをそんな分かりやすくギルド内には置かないか……地道に街中歩くしかないのか)


「そういえばエルフの先輩がいるって言ってたけど、その人は何を専門にしとるんじゃ? あ、やっぱりメンバーにも秘密だったりするのじゃ?」

「――はい。研究内容に関しては……でも先輩の専門はその、それそのものが秘密というか……」


 急に言葉の歯切れが悪くなる。


「――ハナコさんは冒険者もやっているんですよね」

「うん? そうなのじゃ。地元から上京して来たんじゃが、今は冒険者でお金を稼いでいるのじゃ」

「……あの、依頼したい事があるんです」

「依頼?」

「これはギルドとか通せないので、私が直接お金を払います……迷惑掛けて知り合ったばかりなのに……でも、他の人に頼めなくて……」

「何を言うのじゃ。アタシは冒険者である前にプロニン者でもある……それに、そんな顔している――アレ、名前聞いたっけ?」

「ぐすっ――ミルメルモ=ライムって言います」

「ミルメ……ミルちゃんがそんな顔をしつ頼んでおるのじゃ。今回はサービスでアタシが受けてやるのじゃ」


 ミルメルモが落ち着くまで待ち、ベッドの横に座らせて依頼の詳しい話を聞いた。

 

「まだ新人で……ギルドに入った時からお世話になった先輩が、行方不明になっちゃって」

「行方不明?」

「実はこのギルドだけでなく、他の魔道ギルドでも帰って来ない人が居て……普通は遠征申請出さないといけないのに、それすら出さないでどこかに行ったってマスターが怒ってました」

「まぁ魔道研究者ならそういう時もあるんじゃないのかの……例えば魔獣が専門なら山奥に行ってるとか」

「それが……消えた人達はみんな共通点があって」

(共通点とな)

「表向きはみんな専門が違うんですが……その、実は魔族の研究をしていたんです」

「魔族の研究……そういうのって国の魔道研究室くらいしか……」

「そうです。邪教のこともあり、どの国もギルド内での研究は禁止です……」


 邪教と言えばウロボロス教団。

 魔王崇拝を掲げ、この国のどこかで暗躍する宗教団体――としか俺も知らない。

 図書館調べによると、輪廻を巡るという意味のウロボロスを象徴として活動しており、魔族を崇めている団体――と、これも大した情報は書いてなかった。

 多分詳細を書けば、興味ある人が増えるからであろうけど。


「元々国の研究室に先輩は居たんですが、そこにいる上司と研究方針が噛み合わず、折り合いが悪くなり辞めて――このギルドに入ったらしいです」

「ふーむ。魔族専門の研究者のみが行方不明か……これは面倒なことになってきたのじゃ」

「公になれば魔道ギルドもただでは済まないので、この件については魔道協会から戒厳令が敷かれました」


 戒厳令――つまりお前ら黙ってろ。何もするなとお上から言われたのだ。


「ちなみにいつから行方不明なのじゃ?」

「えっと――大体3ヶ月前からポツポツと行方不明者の話が出て……先輩は先月に……先輩は少ししたら戻るからって……私が協力して、夜にこのギルドの感知結界に穴を……」

「もしかしてスライムが爆発したのって」

「はい。私が先輩を外に出す時に……まさかこんな事になるなんて思いもしなくて……」


 うーん、しかし依頼が2つも重複してしまうとは。

 どっちも失せ物だけど、手掛かりが無いとなぁ。


「とりあえずその先輩の部屋に行ってみるのじゃ。何かの手掛かりが残されているといいが――」

「あっ。私がギルド入った時に、記念に魔道絵師の人に絵を撮って貰ったんで、部屋のどこかに飾ってるかも」

「よーし。タケル8号、一緒に来るのだ」

 

(………………あ、俺か)


『かしこまりました、マイマスター』

「……それにしても凄いね、この8号君。人の言葉喋るなんて」

「ふ、ふふーん。凄いじゃろ」


 普通は人の言葉喋らないのか――設定詰める時間無かったしなぁ。


 

「ここが先輩の部屋です――」


 部屋のプレートには【アリシア・ヘンネル】と書いてある。


「お邪魔しますのじゃ」

『シツレイします』


 こちらはミルメルモの部屋と違って整理整頓されて――いなかった。

 壁はさっぱりしていて、窓も雨戸が閉まっているが、机や床に置いてあるモノの量と厚みはこちらが上だ。

 床なんてもう何がどうなってるのか


「うわっ、汚いのじゃ……」

「先輩は特別待遇で、研究室は別にあるので――ここは寝泊まりだけする部屋だって聞いています」

「ふーん……おっ、これが先輩なのじゃ?」

「そ、そうです」


 辺りはゴミなのか私物なのか分からないモノで溢れているが、そのハガキサイズの絵は額縁に入れられ壁に飾られていた。

 銀髪のショートヘアーの目つきの鋭いエルフ美人だ。白衣を着ている。

 背後から抱き締められ、恥ずかしそうにしているのはミルメルモだ。後ろの先輩もどこか微笑んでいるようにも見える。

 

「高価なもので、これ1枚しかないんです。だから先輩に渡したんですけど……こんな所に飾ってくれてたんですね」


 どこか懐かしむ顔だが、すぐに俯いて暗い表情になる。


「……先輩」

「ふむ。しかしこれだけものぐさな先輩とやらが、よく絵を大事に飾っておったの。てっきりその辺に埋まってるかと思ったぞ」

(部屋の中は、床に私物がたくさんあるけど、壁には窓を除けば、この絵しか飾ってない……他の人はわざわざ確認したりしないだろうけど……)

「ちょ、ちょっとマスター」

「なんじゃ。今捜査中じゃ」

「いいから。その額縁を調べて見てくれ」

「この額縁を? 別に変な所は何も……あっ」


 額縁の留具を外すと、中の板が外れ――1通の手紙が滑り落ちた。


「この手紙は……【親愛なる後輩へ】と書いてあるの」

「えぇ!?」


 ミルメルモがこのゴミの中、器用に歩いてきてその手紙を拾う。

 手紙を読み上げるミルメルモ。

 内容は――やはり行方不明ではなく自発的に出て行ったようだ。

 国の研究室でも、この魔道ギルドでも、彼女の研究に対する情熱を満たすことが出来ず――前から誘われていたある研究室へと行ったのだという。


「だから心配しなくてもいい。ギルドはしばらくしたら除籍処分となるから、気にしなくても大丈夫よ――これで終わりです」

「その研究室がきな臭いの……詳細は書いておらんのか」

「何も……」


 わざわざミルメルモにしか分からないような所に隠した……でも除籍処分になれば部屋のゴミは片付けられ、この手紙も偶然第三者に見つかっていた可能性もある。

 この手紙には、なんの研究かまでは書いていない……。


「――スライムだ」

「えっ」

「何かどっかにスライムの体液――おっ脚の先にまだ残ってるな。もっと丁寧に洗って欲しかったよ」

「え、えぇ8号君が、凄い喋って!?」

「なにしてるのじゃ兄ちゃん! アタシの完璧な作戦を――」

「ちょっとその手紙貸して!」

「えっ、あっ、はい、どうぞ……」


 俺は手紙を受け取ると、左脚を外して中に残っていたスライムの体液に浸け込んだ。

 手紙のインクはスライムの分解酵素により溶けるが、紙は無事だ。


「何を?」

「まぁちょっと見てなって……よし」


 俺は脚から手紙を取り出すと――新たな文字が浮かび上がって来たのだ。


「これ!?」

「スライムを専門にする君なら気付くかもしれないって、手紙にトリックを仕掛けてたんだ」

 


 ◇ ◇ ◇


 親愛なるミルメルモちゃんへ。

 表の内容の通り、私は新たな研究室へ行きます。

 その研究室なら魔族のことをもっと学べるし、実験もたくさん出来る。

 でも、良ければ貴女にも同じ研究室に来て欲しい。貴女のスライム研究に対する情熱が本物だと信じている。

 だから……ウロボロス教団で、まずは一緒に不死になる研究をしましょう。そうすれば、私達はずっと探求を続けられる。

 もしその気があるなら、地下水道の11番地区に来なさい。

 ただし、私がギルドを出てから30日後までが期限です。

 それを過ぎれば、私達はそこから居なくなるでしょう。


 では、御機嫌よう――アリシアより。


 ◇ ◇ ◇ 



「……今日で何日だ」

「な、何が」


 目を白黒させるミルメルモに、俺は再度質問をする。


「今日で先輩がギルドを出て行って何日目だ?」

「ッ! た、確か……28日です」


 かなりギリギリだが、まだ間に合うはずだ。


「――それで、君はどうする。先輩のこと、連れ戻したいのか、それとも一緒に行きたいのか」

「……わ、分かりません。でも、教団に関わることが正解だとは思いません……」

「そうか――とりあえず準備もあるし一旦戻るよ。ハナコもそれでいいよな」

「分かったのじゃ」

「明日の晩、鐘が鳴る頃に街外れの遺跡跡から地下水道に入ろうと思う……」

「……はい」

「1日よく考えて、もし君が先輩と会って話がしたいなら――ここに来てくれ」

「分かりました……」

「じゃあ、またな」


 俺が片手でバッチシ挨拶を決め、窓から出ようとすると後ろから、


「あの!」

「……なんだい?」

「そのまま出ると、通報されますよ」

「……」


 一緒に玄関から外へ出て貰った。

 締まらないなぁ……。


 

 第6話へ続く。


ここまで読んで下さってありがとう! Thank You!

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