45.激ヤバ案件来ました
午前中、ギルドの酒場にて。
ラーナは少し困ったようにステラに話し掛けていた。
「ステラさんすいません……先週の研究所へと発送の件なのですが……」
「なに? 王都への道が全面封鎖?」
「はい……途中のケンザン大橋が老朽化の為、補修工事に入っちゃってて。2ヶ月以上は掛かるみたいです。臨時で渡し船が運行されるんですが、それも色々時間が掛かっているらしくって……」
「そうか……」
「お急ぎなら飛竜便があるって言いたいんですが、こちらは予約が満杯で……」
「いやそこまで急ぎじゃないから気にしなくていい」
「町の魔道ギルドでも鑑定依頼はできると思いますが……」
「ふむ……」
そんな会話を俺は掲示板を眺めながら聞いていた。
工事で流通が滞る影響なのか、町はいつものより多少賑わっていた気がする。
さすがに危険な山や、遠くの橋まで迂回するよりは待った方が安全――そう考えた商人や冒険者が多いのだろう。
あとギルドに貼ってあった飛竜便の値段見たら、目が飛び出すほど高かった(目はないけど)
「うーん迷うな」
「お、これなんかいいとちゃうん? 【鍛治職人のルビィお姉さんと行く、魔物ハントの旅】とか」
「……おわっ、ルビィか!」
俺の右隣にはいつの間にかルビィがいた。
「おはよーさん! いやーこの間は大盛り上がりやったな! また是非やってくれって要望が出るくらいやったわ」
「そりゃ良かった」
「で、ちょっと遊びに来たんやけど……依頼の量、少なくないとちゃうん?」
そう。多くの冒険者が街に滞在し、路銀を稼ぐ為にギルドメンバーとパーティを組んだり、フリー枠を取り合ったりで掲示されている依頼がめっきり減ってしまった。
あまり人気の無い――例えば地下水道のスライムカウントなんかはまだ残ってる。
そして、このギルドの酒場も昼から大盛り上がりである。
「だから残った依頼受けるかなーって迷ってる」
ルビィが上の依頼書を指差しながら、
「これがえぇんちゃうん。【東の森の中でキラーボアとサイミンシビレオオダケが縄張り争い中なので全部退治して下さい】だってさ……次はイノシシとキノコ焼きもええかな」
「ふむふむ……この【漁港でカツヲン大量発生の兆しあり。漁を手伝ってください。報酬はカツヲンたくさん】がいいのじゃ!」
俺の身体によじ登り、右の依頼を指差すハナコ。
「……では【西の遺跡、探検冒険者募集中。防衛ゴーレムはかなり手強いので、強い冒険者に限る】に一緒に行くのはどうだろうか。手強いだけでなく、とんでもなく硬いらしいぞ」
左隣にステラも来た。
左の依頼書を見ているようだ。
そして3人は互いに顔を見合わせた後、口々に言った。
「イノシシとキノコ狩り!」
「魚じゃ!」
「ゴーレム倒しに行こう」
ふっ、モテる男は辛いな――などと冗談を言ってる場合じゃない。
さすがに3人とも取っ組み合いの喧嘩なんかはしないだろうが、微妙な空気だ……。
「よし、ここは公平に……真ん中の、これだ!」
――――――――――――
「いやなんで畑仕事やねん」
「こういうのは初めてだが、なるほど――いい訓練になりそうだ」
「子供の頃、里で修行だってやらされたな……絶対アレ、なんの関係もないのじゃ……」
俺達は郊外の荒れ地エリアに来ている。
ここは将来、農場になるということで大岩や枯れた木などを撤去する人や、草刈りや畑を耕している人もいる。
少し遠くに見えるのがこの街を囲う壁で、魔物や獣が入って来れないようにしてある。
「よーし、やるか!」
ちなみに今日の俺は畑を耕す係だ
みんなにもクワを渡してある。
「いやなんでウチもやる流れになってんねん」
ルビィは冒険者では無いので、確かに一緒に作業する必要はない。報酬も俺らの分しか出ないし。
「たまにはこうやって身体を動かすのも良いぞ。まぁ、屋台の料理ばかり食べて少したるんでいるお前には厳しいかもしれんが」
フッと挑発的な笑みを浮かべるステラ。
いつもの冒険者の恰好ではなく、簡易な麻の服と作業用のズボンを履いているが、やはり美人は何を着ても美人である。
「ほぉ――ウチにケンカ売るんやな」
その挑発に乗るように笑うルビィ。
こちらはいつものオーバーオールだが、クワを担ぐ姿はとてもよく似合う。
「別に売ったつもりは無いが……それなら、昼の鐘が鳴るまでどっちが多く耕せるか勝負しよう」
「ええやろ。勝ったら昼のランチ、奢ってもらうで」
「あぁ。では――始め!」
ザクザクザクザクザクザクザク――。
ザクザクザクザクザクザクザク――。
2人とも全力で耕し始める。
その姿を眺めながら、ハナコは遠い目をしている。
「仲良いのぉ……イテッ」
「こら、お前も耕すんだ。っていうか、こういうの乗りそうなのに」
「畑仕事は面倒臭いから嫌なのじゃ……という訳で兄ちゃん。アタシはちょっとそこまで散歩してくるのじゃ」
「あ、コラッ!」
クワだけ残して一瞬でどこかへ行ってしまうハナコ。
「はぁ……まぁハナコの分はあの2人が耕してくれるか」
もうかなり先まで耕している――一何も直線で耕さなくてもいいのに。
「もし……少しよろしいですか」
「うわっびっくりした」
俺も常時感知センサーを見ている訳じゃないしが、それでも背後から声を掛けられるまで気が付かなかった経験はあまり無い気がする。
敵意や殺気などが無ければ、ニーアもオートでは知らせてくれない。
「あら、すいません。驚かせてしまったようで」
「いえいえ――あれ、貴女は確か、この間の」
「えぇ王都で会いましたよね。私の名前はディアト教の神官クロエ=オータム……貴方にお願いがあって来ました」
――――――――――――
畑では人目があると困るというので、昼に街の中央にある教会まで行く事になった。
ちなみに朝からの畑耕し勝負は引き分けとなり、昼からもあの2人は畑を耕しているようだ。
「お手数をお掛けして申し訳ございません」
「いえいえ」
このクロエという緑髪のエルフ少女は、ディアト教の女神官である。
全身を白い布地に青のラインが入った簡素なデザインで、身体のラインもそこまで浮き出ていないようだ。
こちらを見ているようだが、その瞳は閉じられていて、手には錫杖のような杖を持っている。
「こちらへ……すぐに司教様が参ります」
「司教?」
教会は大きく立派で、中へ入ると大きなステンドグラスに天使が描かれ、奥には精悍な顔立ちの青年の像があった。両手で剣を持っているポーズを取っている。
昼ということでまだ礼拝をしている方も居たが、しばらくするとみんな外へ出て行ってしまった。
俺は椅子の1つに腰掛けて待つこと十数分。
「おー、君がかの有名なヨーイチ君か」
奥の扉から出てきたのは、太めのオッサン神官だった。
顔にも脂が乗り、服こそ簡素な神官服だが、その盛り上がったお腹は――正直宗教関係者としてそれはどうなんだ。
「銅5級の冒険者、響陽一です」
「うんうん。クラスこと銅5級だが、この間の王都の武器コンテストでの振る舞い、いやぁ見事なモノだったよ」
「えーっと、貴方が司教様で?」
「おっと申し訳ない――そう、ワシがディアト教本部の司教ロータス=オータムだ」
「あ、どうも……ん? オータムってことは」
俺の視線は後ろに立つクロエに向けられる。
「そう、この子はワシの娘だ。よろしくしてやってくれ」
「へぇ……」
全然全く似てないし、そもそもこのロータスはノーマン(標準的な人種族)だ。
嫁さんが美人エルフなのだろうか。
「お父様、依頼のことを……」
「うむ。ヨーイチ君には、ぜひ折り入って頼みたいことがあるのだよ」
「俺にって、他にも腕が立ちそうな冒険者は居そうですけど……」
「武器コンテストで優勝したのは何も武器だけの性能ではあるまい。それに――」
言葉を切り、少しニヤつきながら俺を指差した。
「我々が独自に調べた結果。君は、あの星命の獣と戦って生き残っている」
「えっ」
「倒したのはステラ=カーティスであると報告には聞いているが、君も一緒に戦ったのだろう? アレと戦って生き残るのは相当な腕前が無いと出来ないことだろう」
「そうなんですか?」
「アレは非常に特異な存在で……君はピンと来ないだろうが。過去には片腕を奪われた勇者も居たという話だ」
そんなにヤバかったのか。いや、確かにヤバかったけども。
でもまぁ、君は凄いと言われると、正直悪い気はしなくなってくる。
「で、ワシからの依頼なんだが……正式に受けてくれたら詳細を話そう。報酬は前金で金200枚。成功報酬として金300枚と、ワシ自ら洗礼を行ってやる」
「合わせて金500枚!?」
かなりの高額の依頼だ。
この間のソデックからの依頼でも金100枚で貴族の羽振りの良さを実感したが、さらにその5倍だ。
正直それに伴う難題な案件なんだろう――と俺が答えに困っているのを感じたのか、ロータスは頭を下げてきた。
「……頼む。この依頼を受けてくれるなら、もう少しだが上乗せもできる。これは非常に由々しき事態なのだが、教会は動くことはできないのだ……」
これだけをお偉いさんが本当に困って俺に頼って来たのが分かる誠実さだ。
ここで無下に断る事も出来ないし、俺も出来れば力になりたい。あとお金が欲しい。
「司教様……分かりました。俺なんかがどこまで出来るか分かりませんが、やるだけのことはやってみます」
「おぉ受けてくれるか――クロエ」
「はい、お父様」
クロエからお金の入った大き目の麻袋と、書状のようなものを受け取る。
「その書状はワシの署名がしてある。王都の城なんかは無理だが、公共の建物であればこれを見せれば入ることが出来る。万が一、街の衛兵に捕まるようなことがあっても、これで多少の無理は効く」
この依頼にそういうものが必要ということは。
「では君にする依頼だが――この街の魔道ギルドへ潜入し、2つの星命の卵を持ち出した犯人を見つけ出して欲しい!」
「え、えぇぇぇ」
予想以上に激ヤバ案件が来た。
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