44.ハナコを追い掛けて
シンディア大陸から海を挟んで西にある、クーロン王国にあるエルフの里(現在はテーマパーク化)出身の忍者、ハナコ。
歳は110歳。しかし肉体年齢はどう見ても10歳くらいで、黒髪の頭に生えている猫耳が特徴。
子供過ぎる見た目なので、普段は変化の術で15歳くらいの姿である。猫耳も隠してある。
服装は黒い民族衣装。肩や背中、太ももが露わになっているデザインだが本人は全く気にしていない。いつも魔法使いのような三角帽子を被っている。
これは伝統的なエルフ忍者の服装らしいのだが、どこでそんな情報が伝わったのか少し気になる。
本人も言動が子供っぽいが、その実力は本物である。
特に忍術は、本来詠唱や魔法陣など必要な一般魔法を、印と呼ばれる手の構えと詠唱を組み合わせて短縮してあるのだ。だから速攻性があり、タイマンの戦闘で術を使う忍者に勝つのは困難だろう。
「兄ちゃん。アタシちょっと出かけくるのじゃ」
この俺とハナコは、地元が同じ幼馴染的な兄妹という事になっていて、一緒に住んでいる。
もちろんハナコの故郷の事は伏せているので、ギルドで部屋を借りた時の設定だ。
ちなみにステラとルビィにこの事がバレたのだが――。
「まぁ猫みたいなもんだし大丈夫か」
話し合いの末、そういう結論になった。
ステラの私生活的に同居は難しいし、ルビィの家も余っている部屋は無いという消去法的な結論だが。
さて。
俺はゲートから取り出した黒いマントを羽織り、薄茶色のテンガロンハットのような帽子を被ると――ハナコの後を追った。
ここ数日だが、ハナコの帰りが妙に遅いのだ。
依頼を受けている様子もなく、誰かと一緒に冒険へ出ている訳もなく。
互いのプライベートにはノータッチが基本だが――うん。まぁ俺も暇なんだ。
「なんか詐欺とかそういうのに捕まってたら大変だしな」
『ハナコの魔力を感知。ここから12時の方向です』
ここは街の大通りから入ったいくつもある路地の1つ。
人通りは全く無く、遮蔽物も多いので何か密会するには丁度良さそうな場所だ。
「居た……」
ハナコは座り込んで、誰かを待っているようだった。
やはり何か犯罪に巻き込まれているのだろうか。
「やっと来たか」
ハナコが待ち合わせていた相手が来たようだ。
俺はこっそりと、積みあがった木箱の隙間から覗き込んだ。
お相手は――、
「にゃー」
「にゃん。にゃーにゃー」
茶色の斑模様の猫だった。
塀の上からハナコを見下ろすように座り込み、何か会話しているようだ。
「にゃん?」
「にゃーん。にゃにゃん」
(くっ。何話しているのか分かんねぇ)
「にゃんにゃ」
「にゃーん」
どうやら会話は終わったようだ。
猫は屋根伝いにどこかへ行ってしまい、ハナコも同じように屋根に登り、どこかへ行ってしまった。
どうやらハナコは鍛冶屋通りの方向へ行ったようだ。
ここ鍛冶屋通りは祭りの開催が無い日も、一部の店では一般客向けの土産物屋が開かれていたり、夜しかやっていない酒場は昼間はカフェをやってみたりと、いろんな試行錯誤が見て取れる。
「で、ヨーイチ君は何やっとんや」
俺のよく知るエセ関西弁で話しかけてきたのはルビィだ。
テッカンさんというドワーフの鍛冶師の娘で、彼女自身も鍛冶師である。
彼女はハーフドワーフで32歳。背丈は10歳のハナコとそう変わらない。テッカンさんは150歳くらいらしいので、ドワーフ的に言えば30歳ちょっとはまだまだ若いのだろう。
茶色のおかっぱのような髪型で、服装は大体いつもの麻のシャツにオーバーオールだ。
大きな丸い眼鏡を掛けて、その赤み掛かった瞳でこちらをジトっとした目で見ている。
「ふふふっ。ルビィ、よく俺の変装を見破ったな」
「そんなキテレツな恰好した奴、他におらんわ」
葉を隠すには森の中。
いつもの恰好に帽子&気配遮断のマントでは目立ち過ぎるので、カモフラージュとしてさっき路地で拾った酒の木箱を2段重ねで、中身をブチ抜いて装着している。
鍛冶屋通りなら酒の木箱くらい転がってそうだし、変装は完璧だったはずだ。
「完璧ちゃうわ。怪しさ爆発し過ぎや」
「ママー。あのお兄ちゃん、なんであんな恰好なの?」
「しっ。見ちゃいけません」
……とにかく追跡を続ける。
どうやらハナコは鍛冶屋通りに関しては素通りしたようだ。俺も後を追う事にする。
「じゃあルビィ。まだギルドで酒飲もうな」
「……その恰好で行くのは辞めとき」
「やぁステファニー。今日もお美しいね」
「まぁジェイドさん。お上手なのね」
ここはいわゆる富裕層の多い区画だ。
通りにも品のいい喫茶店や花屋、雑貨店などもある。
俺は今、オープンテラスのカフェでお茶を飲んでいる。
それもハナコが、道を挟んで反対側にある菓子屋に入ったからだ。店内の様子が分からない為、ここで彼女が出てくるのを張っている訳だ。
「この花は君の為に用意したんだ……花言葉はなんだか分かるかな?」
「存じ上げませんわ」
「久遠の愛と美しさ――君に捧げるよ」
「まぁ――」
ちなみに俺の2つ隣の席では、ジェイドが貴族風のお嬢さんを口説いているのが嫌でも目に入る。
ジェイドは少し天然パーマの入った赤髪の青年だ。歳は17歳で、冒険者なのだがアイドルでもやってそうなイケメン具合だ。さすが超美人であるステラの弟だ。
ギルドでもよく女の子に声を掛けたり、外でもそういう場面をたまに見るが――決まった相手は居ないようだ。
幼馴染にアムルという女の子が居て、その子は今王都に行っている。妹的な存在だと聞いた事はあるが、果たして正直な所どう思っているかは謎だ。
「ステファニーも大変だね。お父様は中央でも発言力の高いお方――その気苦労は察して余るくらいだ」
「お父様、最近はディアト教の司祭様とよくお食事に出掛けられてて……見た事も聞いた事も無い貴族の方との縁談を持ってくるんです。私、どうしたらいいか……」
歯の浮くような会話の後は、何やら人生相談が始まった。
まぁ今回は邪魔しないでおくか――と、思ったらハナコが大きな袋を持って出てきた。
俺は再び追跡を再開する。
「ね、姉さん今日冒険に出掛けたんじゃ――」
「エリックが追い掛けてくるから一旦引き返してきたんだ。丁度良い。お前の部屋を借りるぞ」
「ちょっ、待っ――」
「ふむ。ここは郊外の荒れ地か」
俺が前に来ていた農園予定地の空き地だ。今日も雇われた冒険者達が開拓を進めている。
塀で覆われている為、魔物が入ってくる事は滅多に無いが、それでもあまり安全とは言い難い。
ハナコはどうやら何年も前に放棄された小屋に入って行った。
ここが危険な取引をしている現場なのか――と思い、気配遮断マントに包まりつつステラ流の潜伏歩行術で小屋の壁に耳(聴覚センサー)を当てる。
『ハナコ――そこは――』
『大きい――出ちゃいそう――』
どうやら小癪にも、小屋の中に魔力探知の他各種センサー妨害の結界を張っているようだ。
会話もよく聞こえないが、何やら如何わしい気配がする。
『でも――』
『そこに――待っ――』
(ここはニーアの機能解放して、なんか壁とか透視できる機能とか追加するか!?)
『該当の機能は実装されていません』
(そこはなんとか。別に服とかそういうの透かして見ないから)
『ハナコの魔力の接近を感知――』
「フートン=カゼイタチ!」
「ぎゃああ!?」
小屋の外から発生した突風に吹っ飛ばされ、俺は近場の岩に激突した。
「なにやっとんじゃ、兄ちゃん」
「よ、よお奇遇だな」
俺は天地が逆さまになりながら挨拶をする。
「このシュークリーム美味しいね!」
「おっきくて、クリーム出ちゃいそう!」
小屋の中には小さな子供達が5人ほど居た。
袋から取り出したお菓子を、みんなで仲良く食べている。
「で、この子達は?」
「そこのディアト教運営の孤児院の子供達じゃ」
ハナコが指差す先には、少し古い大きな学校のような建物が見える。
「最近知り合って一緒に遊んでやってたのじゃが、この子達は程なく他の国へ移送されるらしいのじゃ」
「国外へ?」
「ディアト教自体はこの国以外にもあるからなぁ――まぁ、買い手が見つかったのじゃろ」
「か、買い手って」
「別に珍しい話じゃないのじゃ。子供の居ない夫婦の養子になったり、弟子の居ない職人の下へ送行ったり、単純に人手が足りないから農地へ送られたり」
「なんだ。俺はてっきり何かの実験材料とかにされるかと思ったぞ」
「……まぁ買い手については密偵に調べさせたけど、ひとまずこの子達の送られる先は真っ当そうじゃ」
(密偵って……あの猫か!)
「ハナコちゃん。今日も遊んでくれるの?」
「もちろんじゃ!」
「この鎧の人はだぁれ?」
「コレか? コレは兄ちゃんだぞ」
「コレ兄ちゃんなんだ!」
仮にも兄をコレ呼ばわりするんじゃない。
しかし楽しそうしている子供達とハナコを前に、その言葉は飲み込む事にした。
「よーしお兄さんも一緒に遊んでやるぞ!」
「じゃあ今日はこの兄ちゃんを的にして投石の練習をするのじゃ。いざという時、自分の身は自分で守るのじゃ」
「「はーい!」」
「ちょっ、なんて事教えてるんだよ!」
「逃げたぞ。みんな追い掛けるのじゃ!」
「「おー!」」
後方から割とシャレにならない投石から逃げながら、俺はハナコと子供達と遊んだのであった。
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