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32.鎧の休息


 素材となるクイーンマインの肉片を鍛冶屋通りのみんなで分配し、早速宣伝活動が始まった。

 

 まずはオークションに出品し、値段を付ける。

 天然素材のマテリアル鋼は非常に珍しい。

 討伐そのものが難しい鉱山喰い(マインイーター)のモノとなれば、伝説のドラゴンほどではないがそれでも剣1本分くらいの分量で金貨200枚程度にはなった。

 

「もうこれ全部売って借金返したら良くない?」

「アホか。これを剣や防具に加工すればその10倍以上で売れるんや。今回はコンテスト用の出品やしな」


 そしてテッカンは魔炎鋼竜の牙とクイーンマインの表皮と結晶を使い、鍛冶を開始した。

 

「コンテストまで猶予も無いし、ここから3日3晩ぶっ通しで剣を打つ事になる……ステラはすまんけどまた高速艇の手配お願いするわ」

「分かった。ルビィも頑張れよ」

「俺は?」

「身体測定と魔力検査も終わったし……うん。特になんもないから3日後にまた来てな!」

 

 ――――――――――――

 

 こうして俺は束の間の休息を得た。

 となれば真っ先にやる事がある。魔力補充だ。

 

『この間の戦いで得た魔力の殆どを攻撃に使用した為です』

 

 実はというと定期的にある方法で魔力補充を行っているのだ。

 

 その方法とは――、

 

「へい彼女、ちょっと俺の中に入ってかない!?」

 

 という方法ではない。

 

 俺は市場の干物売り場で魚を買い、薬屋でとあるモノを買う。

 ギルド宿舎裏手の路地で誰も来ないのを見計り、胸元を開けた。

 鎧の中に、皿の上にほぐした魚の干物と粉末の粉を添え待つ――効果はすぐに現れた。

 

「にゃー?」

「にゃん」

「にゃにゃー」

 

 猫がワラワラと集まって来て――一瞬で俺の鎧の中は猫で一杯になった。

 

「「「にゃーにゃー!」」」

「わはは、やっぱくすぐったいな!」

 

 以前猫からも魔力を取れる事が分かったので、こうして野良猫を集めて少しずつ魔力を集めているのだ。

 ちなみに使用したのはマタタビパウダーという猫を呼び寄せる魔法の粉である。

 

「「「にゃんにゃー!」」」

「ぎゃー!?」

 

 さらなる大群が押し寄せ、俺は猫に溺れた。


 ――――――――――――

 

「ふーエラい目にあった」

 

 昼過ぎには解放された。

 さすがに猫臭いので身体を綺麗に洗ってから、ギルドに顔を出した。

 

「いらっしゃいませー。あらヨーイチさん。お食事ですか?」

「いや依頼を見ていこうかなって」

「それでは奥の掲示板へどうぞー」

 

 俺には腹が減るという感覚が、無い。

 魔力が枯渇気味でもそれを感じるだけで、腹が減ったなーって感想にはならない。

 食べ物の味は分かるが、満腹感も覚えないので違和感がある。

 

「元の身体ってやっぱもう火葬されて灰になってるんだろうな」

 

 などと言いつつ、ギルド奥の掲示板へとやってきた。

 後ろの方では酒場の客達が盛り上がっているのが聞こえる。

 

「うーん」


 

【東の漁港でカツヲン大量発生の予兆あり 銅5級から参加可能】

【コーディア地下水道。夜の鐘から朝の鐘までスライムをカウントする簡単なお仕事です。初心者向け】

【郊外農園の開拓のお手伝いをお願いします】

【新薬の治験をしたいので被験者を募集。頭に角などが生えてもノークレームでお願い出来る方に限る 定員1名】

【街道沿いの水場に巨大スライムの目撃情報あり 迅速な討伐求む 定員2名】


 

「これにしよう」「これにするか」

 

 依頼の書かれた羊皮紙を同時に掴む俺と、黒髪ロングの女性。

 三角の魔法使いの帽子に、脇や胸元が若干開放的な黒と紫の民族衣装的な格好。さらに黒いニーソから覗かせる太もも――非常に、イイ!

 

「お前、この前の鎧の魔物か」

「……ちょっといいかな?」

「何よ。魔物でも冒険者になれるなんて都会は凄いわね」

「――ご飯とか奢るんでちょっとイイデスカ」

「あ、おねーさん。今日のおすすめランチと鶏肉の詰物とワイン、ジョッキで。勘定は全部あの人に」

 

 即テーブルに座り注文を始める女の子。良い性格だ。

 

「……あ、俺はエールでお願いします」


 ――――――――――――

 

「もぐもぐ……」

「で、あの。どこで俺の事知ったはわかんないけど、身体の事は内緒にして頂きたく……」

 

 この前のクイーンマイン戦の時は鍛冶師のみんなには一応黙っておいて欲しい旨を伝え――打ち上げは俺の奢りになった。

 とはいえ人の噂に戸は無意味とも言うし、忍者のヤスオさんには口止めする前にどっか言っちゃうし……この噂がこれ以上拡大するのを防ぎたい所ではある。

 

「ぱくばく……」

「あと一応こんな身体だけど、人間なので魔物呼ばわりも止めて欲しいなぁって」

「ごくごく――」

 

 マジでよく食うな。

 

「――ぷはぁ! はぁー、ここ数日獣狩って野宿してたから……内蔵に染み渡るわね」

「なかなかワイルドだな。女性1人だと危なくない?」

「アタシはエルフよ。今年で110歳、何も問題ないわ」

「確かに、少し耳が長いな……そんなもんだっけ?」

「それは雑血で……なんでもない」

「――うん?」

 

 なんかそんな話を前にも聞いたような。

 

「ふぅ――ご飯奢って貰ったし、さっきの件は分かったわ。じゃあね、ヨーイチ」


 名前名乗ったっけ?

 

「……もしかして、俺って有名人か」

 

 ちなみに依頼を持ってかれた事に気付いたのは、お勘定をしている時であった。


 ―――――――――――― 


 その日の夕方。

 

「あ、ヨーイチさん。ちょっといいです?」

「ラーナちゃん、どうしたの?」

 

 飯を食べながら迷い込んでいた野良猫に肉の端を上げていた所で、声を掛けられた。

 ラーナは16歳でこのギルドの受付嬢をやっている頑張り屋さんだ。

 

「昼頃に受注された依頼……どうやらフリー冒険者の方が間違って受けちゃったのがあって――近場なのに、まだ帰って来てないから心配になって……」

「どんな依頼?」

「街道近くの水場に巨大スライムの目撃情報が出たんです。その討伐の依頼なんですが……話によると最近、行方不明者も出てるからもしかしたらスライムのせいなんじゃないかって噂になってて」

「よし。俺が様子を見てくるよ」

「本当にすいません。あ、ジェイドさんもお願いしますね」

「げ、バレた」

 

 よく見たら俺の背後に隠れていたらしい。

 

「調査費などは出ますので、よろしくお願いします」


 と、にこやかに言われジェイドは首を立てに振るしかなかった。


 ――――――――――――

 

「ちゃちゃっと片付けて帰ろうぜ……大体新人のフリー冒険者の尻拭いとか気が乗らねぇ……」

「そういえばその依頼を受けたのって、凄いスタイルの良いエルフのお姉さんだったよ」

「何をしてるんだヨーイチ! すぐに助けに行こう!」

 

 という訳で、街道を少し北へ歩くこと1時間ほど。

 まだ辺りは明るいが、もうすぐ暗くなるので早めに探したい所だ。

 

「確か街道から少し外れた所に……ここか」

 

 林の中にちょっとした川と池、休憩所が建てられているが、【巨大スライム目撃情報あり。休憩所閉鎖中】の看板がドアノブに掛かっていた。

 

「巨大スライムって、どのくらいデカいんだろうな」

「そもそも天然のスライムって大きくても人間の頭くらいで洞窟やダンジョンみたいな所に生息してるからな……水辺にも居ない事は無いけど」

 

『センサーに反応あり、2時の方角――スライム5体を確認』

 

「ジェイド、来るぞ!」

 

 俺はゲートに右腕を突っ込み、鎧袖ナックルを取り出す。

 隣のジェイドも剣を構え、魔力を纏った。

 

「……スライムだな」

 

 茂みが出てきたのは、さっき言っていた標準的なサイズのスライムだ。

 緑や水色のぷるぷるしたゼリーみたいな見た目。半透明で中に丸い玉が3つ浮かんでいる。

 

『スライムのコアです。アレを2つ以上破壊すれば倒せます』

 

「うーん、普通のスライムか。もしかしてこいつらが合体してデカくなるとか?」

「それでもそこまで大きくはならないだろ、っと」

 

 話している間にもスライムはこちらに飛びかかって来ていた。

 

「天井の隙間とか木に隠れて奇襲してきて死ぬのが1番多い死因らしい」

 

 ジェイドは慣れた様子で攻撃を避けながら、剣でコアを斬っていく。

 

「ふーん。ていやっ」

 

 拳で殴ったらそのまま四散してしまった。

 なんか可哀想にも思えてくる。

 

「死骸は集めて瓶に詰めて売ったら、小遣いくらいにはなるぞ」

 

 そんな世間話をしている間に、スライム5匹は討伐完了していた。

 

「行方不明の冒険者はどこに行ったんだろうな」

 

 ジェイドがそう言いながら粘液まみれの剣を池で流そうとした瞬間――。

 

『緊急警報。魔力反応増大、7時の方向』

 

「そっちは――ジェイド!」

「うん?」

 

 ジェイドがこっちに振り向いたのと同時に、背後の池の水面が突如泡立ち――ジェイドへと襲いかかった。

 

「うわっ、なんだコイツ!」

 

 魔力を足に集中させ咄嗟に逃れるが、ジェイドの剣は池の中から出てきたモノに飲まれてしまった。

 

「――おいおい」

「デカ……」

 

 池から出てきたのは、言葉通りの巨大なスライムだった。



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