16.VS星命の獣<マナビースト>
男の逃げた方向から、巨大な白い身体がゆっくりと……こちらへ歩いてきた。
周囲の木々と同じくらいの背丈、真っ白な毛並み。顔はイノシシの顔だが、違うのは濁った赤い2つの瞳。口元と白い身体は血で染まっている。
さらに特徴的なのは大きな剣を持っていることだ。そんなのどこにあったんだろうか。
「その辺の岩や――もしかしたらクズ鉱石もコイツが回収したのかもしれん。それらを利用して冒険者の記憶から剣を作り出したのだろう。星命の獣ならそのぐらいの芸当は出来る」
「……なんでもアリかよ」
「姉さん、どうする」
ステラは即、叫んだ。
「――防御だ!」
「るうぉぉぉおおおおおおッッ!!」
ビーストは突如、魔力を乗せた咆哮をこちらへ浴びせて来た。
『生物の肉体の動きを鈍化される効果があります。しかし魔力を放出し高密度を維持しながら纏わせることで回避できます』
「――ッ!!」
咆哮と共にビーストは一気に距離を詰めつつ、大剣を振り下ろして来た。
攻撃は誰にも当たらなかったが、そのまま大地が砕けるほどの威力だ。
全員バラバラに散開し、ステラが正面。ジェイドと俺が左右に位置取る。
「ジェイド、ヨーイチ。頼んだぞ」
ステラはそう言うと、剣を両手で構える。剣を覆う魔力が紅く輝き、それは炎のようだった。
「紅炎、」
脚に貯めた魔力を一気に放出し、ビーストの懐まで跳躍する。
即座にその攻撃へ反応したビーストは大剣をステラの脳天目掛けて振り下ろす。
それと同時にジェイドと俺はビーストへ向かって走り出す。
「一閃!」
ステラの声に呼応するかのように剣がさらに燃え上がった。紅い孤を描き、大剣を砕きビーストの両手を斬り落とす。
実は逃げている最中、ステラと簡単に作戦を立てていた。
このマナビーストとやらは必ずコアが存在し、そのコアから供給されたマナでどんな傷も一瞬で治るという。
だからステラが正面から戦い、その隙を俺らで突くというものだった。
作戦通り両手を斬り落とすが猶予は殆ど無い――。
ジェイドの魔力を帯びた突きが心臓のある部分を狙う。
俺の魔力を纏った拳も同様だ。
「たぁぁッ!」
「はぁぁッ!」
だが俺達の攻撃が当たるかと思った瞬間、俺は見た。
このビーストは――嗤ったのだ。
「ぶるぉぁぁぁぁぁぁッ!」
ビーストは口から紫色のガスを大量に放出。
さらにその白い背中から、新たに腕が4本生えたのだ。
ジェイドと俺の一撃はその腕に阻まれ、残る腕で吹き飛ばれた。
「ぐぁっ!?」
「くっ!」
正面に居たステラはガスを全身に浴びてしまい、さらに再生した腕で腹を殴られてしまう。
「がッ!?」
全員が離れてしまった所に畳み掛けるように、すぐ様ビーストは口を大きく開いた。
「るうぉぉぉおおおおおおおおおッ!!」
再び咆哮。
吹き飛ばれたジェイドは身動きが殆ど取れていない。ステラは――咄嗟に防御したようだ。剣を突き立てながら、よろめきながら立ち上がる。
「く、そ……」
その間に俺も体勢を立て直したが、ビーストの様子がおかしい。
「るぉ、ぉぉ、おああ」
小刻みに震えながら、6本の腕を大きく広げる。
すると紅い瞳が、6つに増えた。
さらに地面に散らばった大剣の破片を拾い集め、それらは6本の手の中で、6本のショートソードへと変貌した。
「ぶほっ、ぶほっほっほっ」
もうイノシシ男というより蜘蛛男という見た目だ。
『解析しました。あの紫のガスは強い酸性と毒性を持ちます。本来なら魔力で防御していれば防げますが、さらに魔力を食う性質を持っているようです』
「マナビースト特有の技能って訳か」
『恐らくインフェルノスパイダーと呼ばれる魔物を取り込んでいたようです。ただし、この付近は生息区域から外れています』
「――ステラ!」
俺は即座に跳躍し、ステラを覆うように立ち塞がる。
間一髪間に合ったが、背中へは無数の斬撃が当たる音が響く。
「に、逃げ、ろ――な、んとかして……食い止める」
先程のガスを吸い込んだのだろうか。喉が焼けたのか声は殆ど掠れ、喉元が紫に変色している。
顔など露出していた部分は火傷みたいになっている。
「……ステラ、頼みがある」
「なん、だ?」
「俺を着てくれ」
「――は?」
キョトンとした顔で、ステラはこちらを見ていた。
――――――――――――
『搭乗者を確認――ステラ=カーティスを登録します。骨折などの肉体の損傷および解毒を同時進行で開始します。一時的に痛覚を遮断します』
『鎧の再稼働を行います。操作権限は――』
「ステラだ」
身体を動かす感覚が無くなるが、意識はハッキリしている。
ステラの肢体に繋がったケーブルから彼女の魔力が全身に巡る。
そして、変化は鎧にも起きていた。
白い装甲が、金の装飾に沿うように赤に染まっていき――装甲は桜色に変化したのだ。
「るぉ?」
突如起こった変化に、ビーストも思わず攻撃の手を止めた。
『ステラ――後は頼んだ!』
「あぁ!」
ステラは、立ち上がった――。
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