14.ステラの推理
旧街道の正面から何かが走ってくる。
それは鹿の群れように見えた。だが問題はそこではなく、その鹿に見覚えのある魔物が乗っていたのだ。
「ゴブリンだ!」
斧や槍で武装したゴブリンがこちらへ向かってきている。先頭に1匹、やや後ろに2匹ずつ並んで計4匹だ。
すぐに馬車を止め、ステラは荷台からすぐに飛び出した。
遅れて俺も外へ出るが、それをステラが静止する。
「ヨーイチとジェイドは馬車を守れ。奴等は私が相手する」
そう言うと同時に剣を構え、一瞬で敵の目の前まで跳躍した。
「ぎゃ!?」
「ふんっ」
そのまま左下から斜め右へ斬り上げ先頭の鹿とゴブリンの身体ごと切断する。
さらに回転を加えて左右のゴブリンもまとめて斬ってしまう。
「ぎゃぁッ!」
やや後方へ居た為に攻撃から逃れていたゴブリン2匹は仲間が斬られたことを察知し、直様攻撃に転じる。
鹿上からステラに槍を突き刺すも、彼女は真上に跳躍し、付近の木を足場にさらに跳躍。即座にゴブリンの首を落とし、返す剣で残るゴブリンの身体を両断した。
本当に、一瞬とも言えるほど短い時間の出来事だった。
ちなみにその間の俺とジェイドは、ゴブリンが居なくなり暴走した鹿が馬車に衝突するのを防いでいた。守れってそういう事か。
お抱えの冒険者は隅っこの岩陰に隠れていた。この野郎。
「……よし終わったな。死骸はテキトーに片付けろ。先を急ぐぞ」
(この野郎が!)
――――――――――――
「やはり……妙だな」
「ステラ、さっきから何を考え込んでるんだ」
ステラはチラッと馬車の御者席を伺い、馬車の最後方を指差す。
俺もそれに従い最後方へ移動する。
「この依頼、妙な点が多いと思ってな」
「妙? ……例えば?」
「まずあの男の装備。剣をどちらの腰に付けているか分かるか」
「……右だったような」
「そうだ。だが握手をした感触だと掌のタコが付いていた。つまり奴は右利きということになる」
「ふむ」
剣を抜くなら左に付けてないと抜き難い。
「わざわざ岩陰に隠れてこちらの様子を伺っていたのも気になるが、それよりさらに不審な点がある」
「不審?」
「ドルド氏は急にクズ鉱石が必要になったと言ってたが、それなら何故在庫から出さなかった。あるいは、何故鉱山の町で加工所を設けてないのか――と、気にして見れば色々出てくる」
商人であれば商品の在庫は常に余裕を持つだろうし、そもそも馬車で運べる量を考えたらもっと近場で加工所を造っていれば手間も掛からない、か。
「着いたぞ」
男がこちらへ呼び掛ける。
馬車から降りるとそこは森の出口だった。後は山の崖沿いに道が続いている。
「この先に行った所で荷物の積んでいた馬車の残骸があるはずだ――こっちに来い」
すぐ近くの低い崖からロープが降りている。馬車は行けないので邪魔にならない所で停めておき、俺達はロープで上に登って行く。
そこには粗末なテントが建てられていた。
「ここから荷物の場所を監視している。おい、ギルドの奴らが来たぞ」
しかし男の呼び掛けにテント内から声は無かった。
「――いねぇぞ」
俺も後に続いてテントの中を見たが、いくつかの麻袋などの荷物は置きっぱなしのままである。荒らされたような形跡は無いが……。
「……崖下だ!」
ジェイドが指差すと、階段になっている崖の下に何か鎧のような物が見える。まさから落ちたのか?
「おいおい、面倒事は嫌になるぜ」
しょうが無く全員で崖下に降りて見ると――そこで全員が絶句した。
冒険者は確かに居たが、上半身が無かったのである。
何かに食い千切られたような下半身が、そこには倒れていた。




