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  作者: たかはしえりか
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壮太は一年遅れで卒業し、コンピューター関係の会社に就職した。

スーツを着なくても良い会社だった、というのがその会社を選んだ理由だと言っていた。

バブル景気は終わりかけていたものの、まだそれほど厳しい時代ではなかった。

私たちは引き続き土曜日にエイプリル先生の授業を受けた。

私の英会話はあまり上達しなかったが、先生とはますます仲良くなった。

年度末で先生の契約が切れ、アレン氏ともども帰国する事が決まったので、日本での思い出作りに四人であちこち出掛ける機会が増えた。

娘がお世話になったお礼をしたいという私の両親の発案で、帰国前の年末年始に先生夫妻を私の家に招待した。

通訳が私だけでは心もとないからとダメモトで誘ってみたら、壮太は拍子抜けするくらいあっさりとオーケーしてくれた。

大晦日の午後、祖父、両親、二歳年上の兄と暮らしていた古い家に、先生夫妻と壮太がやって来た。

家族一同緊張の面持ちだったが、先生たちが挨拶の後、ニコニコしながらジェスチャーを交えたわかりやすい英語で門松を褒めてくれた事で、一気にほぐれた。

例年より多く注文した鏡餅の準備にみんなで取り掛かると、事前にしっかり勉強して来た壮太が流暢な英語で説明して、家族を感心させた。

恥ずかしながら私は三宝とか四方紅という名称をその時、初めて知った。

それから私と母はおせちの仕上げに入り、料理好きな夫妻がそれを手伝った。

壮太は食材や料理の名前、それに込められた願いなども完璧に把握していて、先生たちのどんな質問にもよどみなく答えていた。

夜の十一時に年越しそばを食べ、除夜の鐘が鳴り始めたのを合図に家族揃って近所のお寺へ初詣に出掛けるというのが大晦日の恒例だった。

両親が先生夫妻と壮太のために着物を用意しておいてくれた。

アレン氏もエイプリル先生も初体験との事で、大はしゃぎだった。

やや光沢のあるグレーの無地紬に身を包んだ壮太は、少し緊張しているように見えた。

私も成人式で着た晴れ着を引っ張り出した。

壮太は振袖姿の私を見て

「よく似合うね」

と言ってくれた。

私はその一言でポーッとなり、外に出ても全然寒さを感じなかった。

親しくしているご住職のはからいで、先生夫妻も一回ずつ鐘を撞かせてもらった。

年明けの瞬間を壮太と共に過ごせて、私はとても幸せだった。


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