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  作者: たかはしえりか
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当時はまだメールという連絡手段が一般的ではなかったので、男女に関係なく、親しくなると電話番号を交換するのが常だったが、壮太から聞かれる事はなく、私も聞きそびれていた。

下手に聞いて、拒絶されるのが怖かったのだ。

前期の終わりに、先生の体調不良で突発的に休講になった事があった。

私はその日の朝に先生から連絡を貰ったので行かなかったが、壮太は通常通りに登校していた。

それをきっかけに、私と壮太はようやく電話番号を交換した。

でも壮太から連絡が入る事はなかった。

用事がない限り、私もかけなかった。

私は壮太のややこもった優しい声も大好きで、毎日でも聞きたいくらいだったけれど、ほんの少しでも友達以上の感情を見せると距離を置かれてしまう気がしたので、受話器を置いたままで番号を押すだけに留めていた。 

夏休みに入ると四人であちこちの花火大会に行ったり、海辺でバーベキューを楽しんだりした。

待ち合わせの一番乗りは決まって壮太で、たいてい文庫本を読みながら待っていた。

俯いて本の世界に入っている時の壮太は、どことなく哀愁をおび、とても美しかった。

でももっと素敵なのは、私が声をかけた時、本から顔をあげて嬉しそうに笑う顔だ。

その笑顔を見たくて、私はいつも二番めを狙って行った。

八月の終わりには、長野にあるアレン氏の知り合いの別荘へ泊りがけで出掛けた。

旅先の開放感からか、先生たちはいつも以上にラブラブだったが、私と壮太がそれに刺激を受けてどうこうなるという事はなかった。

私は壮太さえその気なら・・・という部分がなきにしもあらず、というより内心かなり期待していたのだが、壮太は指一本触れて来なかった。

寝室はもちろん別だった。 

でももし同じ部屋で一晩二人きりで過ごしたとしても、何もなかったと思う。

壮太はにこやかでいながら決して警戒心を解かず、どれだけ飲んでも乱れるという事がなかった。

他の三人が軽装になっても、壮太だけは長袖シャツを二番目のボタンまできちんと留めて、一分の隙も見せなかった。

ただ、朝起きぬけの時、メガネを取った顔は見る事が出来た。

それまでは涼しげな目元という印象を持っていたが、銀縁メガネを外すと、予想外に可愛くてドキドキした。

大き過ぎず、マル過ぎもしない、でもクリクリッとした人を引きつける目だった。

笑うと若干垂れて子供のような表情になる。

壮太ウォッチャーとしては、二倍楽しめて得した感じだった。

長野での最後の夜、恋バナになった。

四人で話していて、そういう話題が出たのはその一度きりだ。

少し酔った私が先生たちの馴れ初めを尋ねると、共通の友人の結婚パーティで出会い、すぐに意気投合して三日後にはもう一緒に暮らし始めたと教えてくれた。

恋人はいるのかと逆に聞かれ、私は壮太を意識してドギマギしながら、片思い中だと答えた。

同じ質問をされた壮太は、淡々とした口調で、恋人も好きな人もいないと言った。

壮太の過去の恋愛を聞き出すチャンスだと思い、好きな人が出来たら自分から告白するかどうかという話題を出してみたが、殆どふくらまないうちに日米の国民性の違いに話が移ってしまい、何もわからずじまいだった。

友達は一人しかいないって言ってたけど、彼女は過去にいっぱいいたりして・・・

初秋の虫の声を聞きながら、一人そんな事を思った。


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