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  作者: たかはしえりか
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土曜日のエイプリル先生の授業は他がどんどん挫折していく中、私と壮太だけが皆勤賞だった。

私たちはいつも並んで座って授業を受け、ランチを食べてから帰った。

たいていエイプリル先生が一緒だった。

先生のダンナ様、アレン氏と合流して野球部の応援や大相撲観戦に行く事もあった。

偶然四人の趣味が一致していたのだ。

アレン氏はエイプリル先生ほど日本語が上手ではなかった。

先生よりかなり年上でびっくりしたが、人懐っこいおじいさんで、私も壮太もすぐに打ち解ける事が出来た。

初めてアレン氏と会った日の帰り、私は壮太と二人きりになってから

「いきなりダンナ様が来るって言われて焦ったけど、話しやすい人でよかった。普通だったら私、すごく人見知りするから絶対気まずかったよ」

と言った。

「オレもそう思う。あ、でもオレ、英語を話す時は比較的人見知りしないかも」

「なんで?」

「多分自分の英語力不足を補う為に、相手の目を見て一生懸命コミュニケーションを取ろうとするから、人見知りをする余裕がないんだよ。だからオレ、日本語の時よりかなり愛想いいと思うよ」

「そっか。それは言えるね。私たちも初めて話したのが英語だったから、平気だったんだね」

「うん。オレ、えり子が人見知りだなんて全然思わなかったよ」

それまで苗字ですら呼ばれた事がなかったのに、いきなり下の名前で呼ばれてドキンとした。

壮太にしてみれば特に深い意味はなく、いつもエイプリル先生がそう呼ぶので、苗字よりも馴染みがあっただけなのだろうが、頬が熱くなった。

私はさりげなく車窓を見るふりをして、頬の紅潮を隠しながら

「私とっつきの悪さでは多分誰にも負けないと思うよ」

と言った。

「いやオレほどじゃないよ。だって友達いるだろ?」

「うん。まあ多い方じゃないけど」

「オレはたった一人しかいないよ」

それって私の事?と一瞬喜んだが

「小学校から一緒のヤツなんだけど、そいつにだけはホントの自分を見せられるんだ」

と言われ、がっかりした。

「じゃあ今はまだ猫かぶってるの?」

と聞くと、壮太は少し考えて

「いや、そうでもないな」

と答えた。

嬉しくて、私はちょっと調子に乗って聞いた。

「友達って、岩村くん?」

「うん。よくわかったね」

壮太は意外そうに私を見た。

「野球部だったでしょ? 文学部の野球部員はもれなくチェックしてたんだ」

私はまた少し自分の顔が赤らむのを感じたが、幸い壮太は気づいていないようだった。

「小学校からの親友なんてすごいね。今もしょっちゅう会ってるの?」

「いや、ヤツは卒業して田舎に戻ったから」

「田舎? 東京じゃないの?」

「うん、違うよ」

「どこ?」 

私はそう聞いた直後にハッとした。

壮太が一瞬にして顔を曇らせ、目を伏せて

「鳥取だよ。オレはずっと帰ってないけど」

と答えたのだ。

鈍い私でもマズイ事を聞いてしまったのだという事ははっきりとわかった。

「そうなんだ。二人とも東京出身だと思ってた」

私は壮太の表情の変化に気づかないふりをして明るく言った。

「そう?」

壮太が無理して笑ってみせたので、私は

「いいねぇ、美形は」

と茶化し、その後は自分が東京出身なのになかなか信じてもらえないという自虐ネタに話題を移した。 

鳥取でどういう少年時代を過ごしたのか、とても気になったが、聞ける雰囲気ではなかった。

私はいつか壮太の方から話してくれるまで、何も聞かないでおこうと思った。

まずは岩村に次ぐ友達第二号になりたいと思った。

その時私は初めて壮太への想いをはっきりと意識した。


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