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  作者: たかはしえりか
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壮太を失った悲しみは日を負うごとに大きくなった。

何をしても何を見ても壮太を思い出した。

何がいけなかったのかと考え、自分の至らなさを責めた。

一番後悔しているのは、最後に会った時、壮太に何も伝えられなかった事だ。

壮太の岩村への思いの強さを考えれば、その後の展開は容易に予測出来た筈なのに、何故あんなにあっさりと立ち去ってしまったのだろう?

自分の軽率さが許せなかった。

疎まれてもいいから鳥取に留まり、とことん話し合うべきだった。

私は毎日壮太のアパートに持って行ったのと同じ手紙を書き、可能性があると思われる鳥取県周辺の病院へ送る事にした。

私に出来る事はそれだけだった。

携帯はもちろん肌身離さず、留守の間に壮太から固定電話に連絡が入るといけないと思い、マンションのそばにあるポストに投函すると、すぐに部屋に戻り買い物にも出なかった。

着信音は最大に設定し、お風呂も浴室のドアを開けたままにして耳をそばだてながら入った。

スイッチを切った瞬間に不安になるので、ボリュームをゼロにしたテレビはずっとつけっぱなしにしていた。

お腹が空くと家にある物を適当に食べ、同じ文章とイラストの手紙を何十通も作り続けた。

学生時代以来のペンだこが痛くなっても作業を止める事は出来なかった。

七日目に手紙の送り先と食料が尽きた。

同じタイミングで私は四十歳の誕生日を迎えた。

家族や友人からお祝いのメールが続々と届いた。

微かな希望にすがって一日待ったが、一番祝ってほしい人からは、やはり何も言って来なかった。

翌日、大粒の雨が窓を叩く音で目が覚めた。

もうお昼に近かった。

寝ぼけ眼を向けたテレビに駱駝が映っていた。

鳥取砂丘だった。

再放送らしく、冬の服装をしたリポーターが砂に足を取られながら丘を登って行くと、厚い雲の切れ間から降り注ぐ陽光を反射した銀色の日本海が画面いっぱいに映し出された。

以前旅番組で鳥取砂丘が取り上げられた時、気を回してチャンネルを変えようとした私を壮太が制した。

砂丘に行った事のない私が

「すぐそばに海があるんだね」

と驚くと

「そりゃそうさ。海もないのにあんなに砂があるわけないだろ?」

と呆れられた。

「夏には鳥取を代表する海水浴場になるんだよ」

壮太はじっと画面を見ていた。

「遠足でも飽きるほど行ったなあ」

懐かしそうな、それでいて辛そうな横顔だった。

いつか一緒に行こうと約束したのに、とうとう行けずじまいだった。

岩村が回復したら、壮太が車椅子を押して二人で訪れる日が来るのだろうか?

そこに自分がいない事が寂しかった。

四十になったのに、仕事も彼もなくて、鳥取砂丘にも行けなくて、もう生きていたくないと思った。

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