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  作者: たかはしえりか
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ゴールデンウイークに入ったので飛行機の便が多く、私は夕方前に鳥取空港に降り立った。

そして病院に着くと受付を通さずに三階へ直行した。

岩村がいた特別室には既に別の人が入っていた。

私は先日言葉を交わした富田という看護師に話を聞くつもりだった。

その人だけが頼りだった。

ナースステーションを覗くと勤務交代の申し送り中で、ちょうどこちらを向いていた彼女はすぐに私に気づき

「うわっ、びっくりした」

と大げさな声を出した。

そして私が口を開く前に駆け寄って来て

「もうすぐ勤務が明けますから、エレベーターのそばの談話室で待っていて下さい」

と言った。

十分ほどで、私服に着替えた富田が現れた。

「私、月曜日に岩村さんの病室でお会いした者です」

と言うと

「覚えてますよ。わざわざ東京からいらした方ですよね?」

とにっこり笑った。

「岩村さん、退院したって聞いたんですけど、本当ですか?」

「ええ、そうなんですよ」

それから彼女は声をひそめ

「さっき、電話しました?」

と聞いた。

私が頷くと

「あの付き添いの方、あなたにも何も言ってなかったんですね?」

と沈んだ顔になった。

「どうして急に?」

「わかりません。とにかくここにはいたくないの一点張りで、勝手に寝台車を頼んで患者さんを連れて行ったんです。 まだ動かさない方がいいって先生も随分反対したんですけどね」

「よその病院へ移ったんですか?」

「ええ」

「どこの病院ですか?」

「それがどうしても言わないんですよ。私も気になったから、近くの病院に勤める知り合いに聞いてみたりしたんですけど、結局わかりませんでした」

「でもまだ県外まで行くのは無理でしょう? それならかなり限られてきますよね?」

「いや意外とありますよ。それにどのみち開示を拒否しているでしょうから、転院先をつきとめるのは難しいでしょうね」

そう言って彼女はため息をついた。

本当に何も知らないようだった。

私は病院を後にし、ネットカフェを探したが見つからなかったので、駅前のビジネスホテルに入った。

そしてロビーのパソコンで転院の可能性のある病院を調べた。

富田が言ったとおり、鳥取市内だけでも結構あり、県内となると相当の数になった。

電話で聞いても教えてもらえないだろうから、出向いて自分の目で確かめるしかない。

全部に足を運んで、病室を一つ一つ探すとしたら、いったい何日かかるだろう?

プリントアウトしたリストに涙の粒がボタボタ落ちた。

三日前に壮太の胸で泣いた時は、こんな事になるなんて思ってもみなかった。

壮太は私から逃げた。

本気で逃げたのだ。

もうダメだと思った。

もし探し出せたとしても、壮太の決意を覆すのは到底不可能だ。

なぜなら壮太は一人ではないから。

壮太にとって私は、結局岩村のいない寂しさを埋めるためだけの存在で、今となっては邪魔者でしかないのだ。

ひどい男だと思ったが、不思議と怒りは感じなかった。

ただ悲しかった。

壮太を失った事が悲しくてたまらなかった。

私は声をあげて泣き続けた。


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