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  作者: たかはしえりか
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車窓に鳥取の街を見ながら、私はこれからどんなふうに壮太を説得していこうかと考えた。

バス乗り場は駅のすぐそばだった。

もう受付が始まっていたが、人影は少なかった。

この数日間の疲れが一気に出たのか、私はバスに乗り込むと発車のアナウンスも待たずに眠りこんでしまった。

目覚めた時はもう明るくなっていて、もう都内に入っている事がわかった。

よく晴れた清々しい朝だった。

バスを降りると、少し肌寒い感じがした。

八時前に家に着いた。

昨日の昼過ぎに出て、二十時間あまりで戻って来た事になるのだが、もっと何日も経っているような気がした。

無事戻った事を知らせようと壮太の携帯にかけてみたら、まだ圏外のままだったので、メールを送った。

それからあり合わせの材料で朝食を作り始めた。

考えてみたら土曜日からまともな食事をしていなかった。

トーストが焼ける匂いに空っぽのお腹が反応し、キュルキュルと健康的な音をたてた。

壮太はごはんをちゃんと食べているのだろうか?

そんな事も聞けなかった。

着替えとか、どうしているのだろう?

気になる事は後から後から出て来たが、すぐに二通目のメールをするのは気が引けた。

壮太の携帯は電源を入れていない時の着信履歴が残らないので、電話なら何度かけても良い。

状況がわからなかった時と違い、気持ちに余裕があった。

説得には至らなかったものの、会えた事が勇気となり、自信となった。

簡単に行かないとしても、必ず受け入れてくれる筈だと思った。

二人の間には友人から始まった十七年間の歴史がある。

壮太はずっと岩村以外の誰にも決して心を開かないで生きて来たのに、私にだけはありのままの自分をさらけだしてくれた。

だからきっと大丈夫だと思った。

アパートの収益がいくらあるのか見当もつかないが、壮太はやはり会社を辞めない方が良い。

この前有給がかなり残っていると言っていたから、それがある間だけ休んで岩村に付き添い、後は私に任せて、週末だけ鳥取へ戻るようにすれば良いのだ。

岩村がもう少し落ち着いたら、東京の病院へ移すよう改めて壮太に頼んでみよう。

そうすれば、この春に定年を迎えた母にも手伝ってもらえるので、たまには二人で野球を見に行ったりも出来る。

とりあえず一週間くらいしたら、もう一度鳥取へ行こう。

携帯が圏外のままだったら、病院へ電話してみよう。

アパートへ着替えを取りに行ってあげなくちゃ・・・

私は温かいミルクを飲みながらあれこれと思いを巡らせていたが、そのうち強力な睡魔に襲われ、シャワーも浴びずに眠ってしまった。


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