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  作者: たかはしえりか
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次の週は前日深夜まで飲み会があったせいで、少し遅刻してしまった。 

まだ脱落者は出ていないらしく、ほぼ満席で、通路側が空いているのは壮太の隣だけだった。

その日は彼とペアを組んで春休みの出来事を話し合った。

英語の発音が良いのと、案外にこやかに話すのにびっくりした事を、今もよく憶えている。

それ以上に印象深かったのは、それほど分厚くないので遠目には殆どわからないのだが、唇がちょっとだけアヒルっぽい事と、笑った時に覗く歯並びの良さだった。

粒が小さめのきれいな歯がお行儀よく並び、特に口元フェチというわけでもないのに、私の視線はついそこに向いてしまった。

趣味が野球観戦だという壮太は、選抜高校野球を一試合も欠かさずテレビ観戦したと言った。

壮太ほどではないが私も何試合か見ていたので、話は結構盛り上がった。

授業が終わった後、エイプリル先生から二限めも受けて行かないかと誘われた。

テキストを使った英作文のクラスで、一限めより文法を重視していると言う。

私は喜んで受けさせてもらう事にした。

先生はそばにいた壮太にも声をかけ、二人揃って参加する事になった。

その時点まで、彼が留年したのか、それとも私と同じようにもぐりで来ているのかを聞きそびれていた。

話してみて、それほど気難しい人ではないとわかったが、やはりまだ遠慮があったのだ。

生協へテキストを買いに行く途中で、壮太の方からその事に触れて来た。

「確か前にも何かで一緒だったよね?」

「うん、多分フラ語じゃないかな?」

「やっぱり。どこかで見たような気がしてたんだ。失礼だけど留年したの?」

「ううん、一応卒業したよ」

「そっか。オレはめでたく五年生だ」

壮太はそう言って、屈託なく笑った。

二限めの教室は少し広かったが、一限めと同じくらいの人数しか入っていなかった。

私たちはごく自然に並んで座った。

「遅ればせながらだけど、須田壮太と言います。よろしく」

壮太がおどけて頭を下げた。

私はすまし顔で

「斎藤えり子です」

と言った。

ちょうどその時、エイプリル先生がやって来た。

先生は無駄に遅れたりしない人だった。

テキストはちょっと固い内容だったが、結構楽しめた。

ノートを取りながら熱心に講義を受ける壮太が隣に居たせいかも知れない。

帰りがけに先生が二人をランチに誘ってくれて、大学の近くのカレー屋に行った。

彼の食べ方は以前パンを食べていた時同様とても男らしく、ちょっとガッついているようにも見えた。

逆に私は緊張してあまり進まず、珍しく半分ほど残してしまった。

たまたまみんな同じ方向だったので一緒に帰った。

先生が一番先に電車を降りた。

私が降りるまでに数駅あったが、フランス語担当の教授ネタで大笑いをしているうちに着いてしまった。

先輩と別れて以来久しぶりに、ずっと話をしていたいと思える異性に出会った気がした。

惚れっぽい私はその時もう既に、壮太の事を好きになりかけていたのだと思う。


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