45(壮太の手紙)
えり子にはとても申し訳ない事をしてしまいました。
僕は君の事をすっかり忘れていたのです。
今朝病院に同僚から連絡が入って、初めて思い出しました。
会社に電話をくれたそうですね。
僕が突然姿を消したから、びっくりして、随分心配もした事と思います。
それがわかっていながら、僕は君をすぐに安心させてあげられる電話やメールではなく、敢えて手紙を書く事にしたのです。
僕は君の事を本当に好きでした。
エイプリル先生の授業で初めて言葉を交わした時の事を覚えていますか?
その頃の僕は本当に落ち込んでいて、健に必ず大学を卒業すると約束させられたので、その義務感だけで生きていたと言っても過言ではないくらいの状態でした。
そんな僕が前向きになれたのは君のおかげです。
健以外の人と、しかも女の子と、あんなに楽しく野球の話が出来るなんて、思ってもみませんでした。
友達としても、恋人としても、君は最高でした。
その小さな体を僕にすり寄せて、無防備に眠る君の横顔を見ながら、僕は他の誰にも、健にさえ感じた事のない愛おしさを覚え、一生守ってあげたいと思いました。
僕の心が弱くなって、君に甘える事もありましたが、君は母のような温かさでしっかりと抱き止めてくれましたね。
君の腕の中で目を閉じている時、僕はこの上ない安らぎを感じました。
どんなわがままも聞いてくれましたね。
僕の全てを受け入れてくれましたね。
君ほど僕を愛してくれた人はいません。
言葉で言い尽くせないくらい感謝しています。
でも、ぼくはもう君と一緒にいられません。
僕はこれから健と二人で生きていきたいのです。
二人きりが良いのです。
やっと独り占め出来るようになった健との生活を、誰にも邪魔されたくないのです。
来年から一緒に住もうと自分で言い出しておきながら、僕はその約束を反故にします。
もう君に何もしてあげられません。
実を言うと以前から、いつか君を不幸にしてしまうのではないかという漠然とした不安を感じていました。
それが現実となり、今、君が人生最大の窮地に立っているこの時期に、僕は君を見捨てて去って行くのです。
最低の人間です。
君に愛される資格のない人間です。
本当に申し訳ないと思います。
許して下さいとは言いません。
でも健には僕しかいないのです。
この先一生寄り添って生きて行けるのは僕だけなのです。
最後のわがままです。
どうか、わかって下さい。
この手紙を最後に、もう僕の事は忘れて下さい。
えり子、今まで本当にありがとう。
幸せを祈っています。
さようなら。
壮太