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  作者: たかはしえりか
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土曜日からずっと張り詰めていた気持ちが緩んだ途端に疲労が一気に噴出し、ひどい頭痛とめまいが襲って来たが、休んではいられなかった。

継母方の意地の悪い親戚たちに囲まれ、壮太は一人でいやな思いをしているに違いない。

私は一刻も早く壮太のもとに行ってあげなければと思った。

携帯で調べたら、飛行機はちょうど良い便がなく、新幹線を使った方が早く着く事がわかった。

それから継母か和也、もしくは両者が搬送された病院を聞く為に鳥取の警察に電話をかけた。

先週木曜日に須田という名前の負傷者が出た事故はないという答えだった。

前後の日付でも聞いてみたが、やはり該当はなかった。

事故は鳥取で起きたのではないのだろうか?

壮太の親友、岩村なら何か知っているに違いないと思ったが、携帯に連絡先を登録しておらず、個人名やうろ覚えの社名、業種で番号案内に問い合わせてもわからなかった。

毎年岩村からもらっている年賀状には確か電話番号も書いてあった筈だ。

壮太宛のものを勝手に見るわけにはいかないので、一旦家に帰る事にした。

最初はここを出て直接鳥取まで行こうと思っていたが、もう少し状況を確認してからにした方が良いと考え直したのだ。

岩村からの年賀状はいつも夫婦の仲睦まじい写真入りで、傍に手書きの近況が添えられていた。

でも今年に限っては既成のイラストに文字が印刷されただけの地味なものだった。

壮太の話では結婚当初から妻と母親の折り合いが悪く、一昨年母親が亡くなってからは夫婦仲もギクシャクするようになったとの事だった。

子供がいないので、案外もう離婚しているかも知れないと思った。

私は一旦大家宅に寄って状況を説明し、鍵を返してから自分の家へ戻った。

そして靴を脱ぐのももどかしく、クローゼットにしまってある年賀状の入った箱を取り出した。

ここ数年友人同士は殆どメールで済ませており、美容院などの営業関係以外で届くのはほんの数えるほどしかなかったので、岩村の年賀状はすぐに見つかった。

早速電話をしてみると自宅、会社ともに「現在使われておりません」というアナウンスが流れた。

押し間違いかと二度ずつかけ直したが、やはり同じだった。

狐につままれたような感じがした。

もしやと思い、岩村自身が事故に遭っていないか警察に問い合わせてみると、案の定で、鳥取市内の病院に搬送された事がわかった。

壮太の心中を思い、私は胸が痛くなった。

岩村は母親以外に身内がいないので、結婚式の時は新婦側と人数を合わせる為に友人や恩師がたくさん出席していた。

恐らく今は壮太が一人で付き添っているのだろう。

祖父母や両親が亡くなった時の事を思い出して、不安に押し潰されそうになっているに違いない。

私はシャワーだけ浴びて慌しく支度をし、お昼過ぎの新幹線に乗った。

特急に乗り換えて、ようやく病院に着いたのは六時過ぎだった。

タクシーを降りた瞬間、夕暮れの風の冷たさに体がぶるぶるっと震えた。

岩村の病室は三階のナースセンターに近い個室だった。

他の部屋はネームプレートの上に部屋番号が書いてあったが、岩村の部屋には番号の代わりに特別室と書かれていた。

面会謝絶の札がかかっていた為、ノックをためらっていると、ドアが開いて壮太が出て来た。

壮太は私を見ると、はっと息を呑んで立ち止まった。

一週間ぶりの再会だった。

顎の無精髭が伸び、やつれて一回り小さくなったように見える顔に困惑の色を浮かべて、壮太はかすれた声で

「なんで?」

と聞いた。

私は来た事を咎められたような気がした。

てっきり喜んでくれると思っていたのに、予想外の反応に戸惑ってしまい

「岩村君が…事故に遭ったって…聞いたから…」

と言葉を詰まらせながら弁解するように答えた。

「そっか」

「容態、どう?」

「うん。ようやく落ち着いて、今日集中治療室から個室に移ったんだ」

「そう、よかった」

ひとまずホッとした。

壮太に促され病室に入ると、呼吸器の管をくわえ、頭を包帯でぐるぐる巻きにした岩村がベッドに横たわっているのが見えた。

頭の傷のせいか目の周りが腫れ上がり、以前の面影は全くない。

体にも何本も管が通されていて、見ているこちらが苦しくなるくらいの痛々しさだった。

「意識はもう戻ったの?」

と聞いたが、壮太はそれには答えず

「ちょっと買い物に行ってくる。もうすぐ売店閉まっちゃうから」

と言い、一瞬躊躇した後に

「これ、読んでくれ」

と白い封筒を差し出した。

「なあに?」

イヤな予感がして、私は壮太を見上げた。

壮太は目をそらし

「ちょうど出しに行くところだったんだ」

と言って、足早に病室を出て行った。


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