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  作者: たかはしえりか
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次の土曜日、野球部の応援に行く為に球場近くの駅で待ち合わせをしていた。

試合がある時、壮太はたいてい前日の夜から私の部屋に泊まるのだが、水曜日にテレビを買って、それが金曜日の夜にアパートへ届く事になったので、試合当日に駅で会う事にしたのだ。

いつも先に来て待っている壮太が約束の時間から三十分以上過ぎても現れなかった。

携帯は圏外、自宅は呼び出し音が鳴るだけだった。

こんな事は壮太の父親が亡くなって以来だ。

いやな予感がした。

私はすぐに壮太のアパートに向かった。

途中何度もメールしたが、壮太からの返信は来なかった。

アパートのチャイムを鳴らしても応答はなかった。

あの時と違い、玄関の鍵はかかっていた。

私は苦しいくらいの胸騒ぎをおぼえた。

壮太が中で意識を失って倒れているに違いないと思った。

なんとか気づいてほしいと何度もドアを叩いたがダメだった。

大家か不動産屋に頼んで鍵を開けてもらうしかないと思い、連絡先を聞くために隣や他の部屋のチャイムを鳴らした。

留守なのか警戒しているのか、応答がなかった。

一階でやっと一人つかまえた。

大家や不動産屋はわからないとの事で、管理会社の電話番号を教えてもらった。

頼みの綱の番号は話し中だった。

なんでこんな時にと、地団駄踏みたいくらいイライラした。

何度めかでやっと繋がって事情を話したが冷たく断られ、私は駅前の交番に駆け込んだ。

年配の警官は優しく椅子を勧め、親身になって話を聞いてくれた。

でもやはり勝手に開ける事は出来ないと言われた。

一刻を争うと訴えてもダメだった。

外出先から病院に運ばれた可能性もあると言われ、都内も含めて調べてもらったが、該当はなかった。

私はしおしおとアパートに戻り、もう一度チャイムを鳴らした。

応答はなかった。

ふと思いついてドアの隙間に耳を押し当ててみると、かすかな呻き声が聞こえた。

壮太はやっぱり中に居るのだ。

すぐに助けなくてはと思い、激しくドアを叩いたが反応がなかった。

私は泣きながら交番まで走り、さっきの警官を連れて戻った。

「何も聞こえないよ」

ドアに耳を押し当てた後、警官はそう言った。

私も同じようにしてみたが、しんと静まりかえって何の物音もしなかった。

「さっきは確かに聞こえたんです。更に状態が悪くなったに違いありません。お願いですから開けて下さい。命にかかわります」

「大げさだなあ。約束を忘れて、どこかへ行ってるだけなんじゃないの?」

「そんな人じゃありません。絶対中で倒れてるんです。そうでなければ連絡もせずに約束を破る筈がありません」

「実家には連絡してみた?」

「いいえ、身内は誰もいませんから」

「そうか。困ったなあ」

親族の依頼でないと受けられないというのだ。

「私、彼の婚約者です。私たち、来年結婚する事になってるんです。だから親族も同然です」

私は必死で訴えた。

「ちゃんと結納交わしたわけじゃないから言わなかったんですけど、間違いなく婚約者です。だからお願いします。嘘じゃありません。来年ここの契約が切れたら結婚して、東京で一緒に暮らす事になってるんです」

泣きながらなので、言葉が途切れ途切れになってしまったが、一生懸命頼んだ。

「わかったわかった。じゃあ大家さんに開けてもらおう」

警官はそう言って、私の肩をぽんぽんと叩き、近くに住む大家に電話をかけてくれた。

私は救急車も呼んだ。

ドアの向こうで倒れている人がいると言うと、冷静な声でどんな様子かと聞かれた。

まだドアが開かないのでわからないが、ずっと連絡がつかず、心配になって来てみたら中から呻き声が聞こえ、その後何も聞こえなくなった、もうすぐ大家が来て鍵を開けてもらえるので、至急来てほしいと早口に話した。

まもなく大家の老婦人がやって来て、ようやくドアが開けられた。

もう夕方の五時近かった。

私はどうか無事でありますようにと祈りながら部屋の中に入った。


そこに壮太はいなかった…


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