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  作者: たかはしえりか
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その自慢の彼氏、須田壮太(すだそうた)とは大学で出会った。

専攻は違うが同じ文学部の同級生で、一、二年の第二外国語の授業が一緒だった。

入学して間もない頃、フランス語の一回目の授業の出欠確認で彼の名前が呼ばれるのを聞いた時はとても驚いた。

小五の途中で転校したクラスメイトが同じ名前だったのだ。

おもしろくてスポーツ万能で、クラスの女子の大部分が淡い思いを寄せていた。

もちろん私もその中の一人だったので、ややこもった声の返事が聞こえた後、すぐに広い教室の中を見回してみたが、それらしき人物は見つけられなかった。

別人だとわかったのは前期試験の時だ。

終了時間になり後ろから答案が回って来て、用紙の向きを確認する為チラッと一番上を見たら、彼の名前が目に入った。

私のすぐ後ろに座っていたのだ。

でも私が探していた宗太(そうた)くんではなかった。

名前の漢字も違うが、見た目も全然違っていた。

いつも真っ黒に日焼けして明るいイメージの宗太くんに比べ、壮太は色白の小さな顔に銀縁メガネをかけ、いかにも気難しそうなタイプだった。

目を点にして見つめる私の事など気にも留めず、壮太はすぐに立ち去った。

初恋の人との再会が夢と消え、私はがっかりしてしまった。

でもそれ以来、フランス語の授業の度になんとなく彼の姿を探すようになった。

中背痩せ型で、いつも白い長袖シャツを着ていた。

少し長めのサラサラした髪と透明感のある整った顔立ちは、結構私好みだった。

だからと言って、はっきりとした恋愛感情を抱いていたわけではない。

ただ何となく、気になっていた程度である。

壮太はたまに学生服を着た長身の男子と一緒に座っている事があった。

爽やかで独特のゆったりした雰囲気を持ったその男子と一緒の時、壮太はいつも楽しそうに笑っていて、友達というより兄と弟のような感じだった。

二人は大学に入ってから知り合ったのではなく、長い付き合いなのだと思った。

学生服を着ているのはたいてい体育会の所属で、その男子からは野球部のニオイがした。

私は子供の頃から大の野球ファンで、そういう勘は結構鋭いのだ。

文学部に来る野球部員は殆どいないので、選手と同じ教室で授業を受けられる機会は貴重である。

名前を確かめたくて、一度真後ろの席に座ってみた。

イワムラ タケルと呼ばれた時に返事をしていた。

大学野球の雑誌で調べてみたら、やはり野球部で、都内の強豪校の出身だった。

それほど有望な選手ではないのか、写真つきの主力選手の欄には載っていなかった。

リーグ戦の応援に行って、球場でも何度か見かけたが、大学にいる時と同じ学生服姿だった。

岩村はあまりフランス語の授業に出て来なかった。

壮太はたいてい一人で、授業が終わるとさっさと教室を出て行った。

壮太自身が来ない事もあった。

一度学食で、壮太がパンをぱくぱく食べているのを見た事があった。

繊細そうな外見に不似合いな豪快な食べっぷりが妙に印象に残った。  

いつも植物みたいな雰囲気を漂わせている壮太が、その時だけはやけに動物的だった。

在学中に教室以外で壮太を見たのはその時だけだ。

私は二年の終わりから同人誌サークルの一つ上の先輩と付き合い始めた。

中学・高校と文芸部で小説や詩を書いていた私が、川柳に興味を持ったのは先輩の影響だ。

世相を皮肉るような作品をよく詠んでいた割に、素直で心根の優しい人だった。

卒業して郷里の仙台に帰った為、遠距離恋愛になり、交際二年弱で別れた。

その間、壮太とは共通の科目がなく、姿を見かける事もなかった。

壮太の存在は完全に私の意識の中から消えていた。



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